ワンナイトパラダイス

中頭かなり

文字の大きさ
上 下
37 / 77
彼女とあのカフェでパフェを食べる。

3

しおりを挟む


「ところで、何処が良いと思いますか?」

 そう問われ、目を見開いた。隣を並行して歩くのは、小野田さんだ。頭に巻いている包帯は取れており、傷跡もない。携帯端末を触りながら唸る彼女は、高めのヒールをカツカツと鳴らし、器用に歩いている。
 私は彼女の身長を知らない。が、夢の中ではどうやらヒールを履いてやっと私と同じ身長になるらしい。アイメイクをバチバチに決めた彼女は、綺麗にネイルが施された爪を鳴らし、携帯端末を操作している。肩を大げさに露出した服装と、ホットパンツから覗く足が眩しい。
 あぁ、風俗嬢というワードだけが先走り、彼女の外見が構成されているのか。私は何処かで見た、派手目な女性を反映させてしまったことに、思わず恥じる。
 ────と、いうか。何故、彼女の夢を見ているのだ……あ、そうだ。寝る前に彼女を思い出していたのだ。
 そんなつもりでは、無かったんだけどなぁ。息を漏らしつつ彼女へ伺う。

「何処が良いって、何の話ですか?」
「パフェ。食べに行くんでしょ?」

 そうか、そうだったな。パフェが食べたいと、話していたな。私はそうでしたね、とヘタクソな笑みを浮かべ、自身の服装を確認する。通常通り、Tシャツにジーパンというラフな格好だ。夢の中だが、少し恥ずかしい。夢ならもっと、可愛い格好をすれば良かったと後悔する。
 瞬間、服装がワンピースに変わった。淡いグリーンの色をしたロング丈のそれに、私は悲鳴をあげる。しかし、小野田は気にしていない様子だ。あ、これは夢だった。と、自分で突っ込み、恥ずかしさに汗をかく。
 元より、あまりスカートの類を履かない私は、その新鮮さに鼻を鳴らす。身に纏ったワンピースの裾を持ち、ショーウィンドウの前でひらりと一回転した。小野田が、似合ってますよと目を弧にする。

「え!?」
「すごく、似合ってます」 

 彼女の言葉に、ドキリとした。もう一度、ショーウィンドウに映った自分を見る。似合っている、か? 私は生まれてこの方、制服以外でスカートを履いたことがない。意識的に避けていたわけではないが、自身には似合わないという思い込みがあったのかもしれない。
 自分の違う一面に頬を染め、再び歩み出す。

「うーん。この先に、カフェがあるみたいなので、そこに行きましょうか」

 綺麗に施された指先が差す方向へ、私たちは足を運ぶ。あら、メロンパフェですって。美味しそう。でも、このイチゴがたっぷり乗ったのも良いなぁ。桃。みかん、バナナ……。あ、栗フェアもやってるみたいです。良いですねぇ。でも、スタンダードなのも良いなぁ。
 彼女はひとりごちながら、歩みを進める。星水さんはどれを食べる予定ですか? と突然、彼女に名前を呼ばれ、私は喉に唾液を詰まらせる。
 そうか、夢だから彼女が私の名前を知っていてもおかしくないか。ごほんと咳払いをし、イチゴのパフェですかね、と答える。イチゴ美味しいですよね、と綻んだ笑顔を見せる小野田は、病院で横たわっていた彼女と乖離している。これは夢なのだから、当たり前だろうと私はかぶりを振った。
 ようやく着いたカフェへ入り込み、席へ座る。どうぞ、とメニューを渡され、礼を言った。

「私は、チョコパフェにしようかな。メロンと悩んだんだけど……ううん、やっぱりチョコパフェ!」
「どちらも美味しそうですよね」

 店員を呼びつけ、注文する。店内をぐるりと見渡すと、客は誰一人としていない。がらんどうとしており、店内に流れるお洒落なBGMだけがこだましている。
 目の前に座る小野田が口を開いた。ニコニコと目元を緩ませ、会話しているが、何を話しているかは、謎だ。言葉は発し、耳に届いてはいるものの、脳で処理が出来ない。きっと私は、彼女がどんな会話をするか予想できなかったのだろう。ONP錠にもこういう欠陥があるのか、と脳の何処かで呟く。

「あ、やっときた」

 店員が運んできたパフェに、小野田が声を上げた。美味しそう、と絶賛するチョコパフェは豪華なものだった。ガトーショコラと生クリーム。チョコソースにチョコチップ。それらが乗ったパフェに、スプーンを突き刺す。
 同様、私もイチゴパフェへ手をつけた。イチゴを口にすると、酸味が広がり唾液が滲む。思わず、頬が緩んだ。

「食べます?」

 目線を上げると、彼女が私にガトーショコラのブロックを差し出していた。チョコソースがかかり、生クリームがついたそれ。

「これあげるから、イチゴください」

 あぁ、それが狙いか。私はあはは、と声を上げて笑った。等価交換がお望みらしい。彼女がスプーンを近づけた。あーん、と指示する彼女に従い、口を大きく開ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...