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彼女とあのカフェでパフェを食べる。
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◇
「ところで、何処が良いと思いますか?」
そう問われ、目を見開いた。隣を並行して歩くのは、小野田さんだ。頭に巻いている包帯は取れており、傷跡もない。携帯端末を触りながら唸る彼女は、高めのヒールをカツカツと鳴らし、器用に歩いている。
私は彼女の身長を知らない。が、夢の中ではどうやらヒールを履いてやっと私と同じ身長になるらしい。アイメイクをバチバチに決めた彼女は、綺麗にネイルが施された爪を鳴らし、携帯端末を操作している。肩を大げさに露出した服装と、ホットパンツから覗く足が眩しい。
あぁ、風俗嬢というワードだけが先走り、彼女の外見が構成されているのか。私は何処かで見た、派手目な女性を反映させてしまったことに、思わず恥じる。
────と、いうか。何故、彼女の夢を見ているのだ……あ、そうだ。寝る前に彼女を思い出していたのだ。
そんなつもりでは、無かったんだけどなぁ。息を漏らしつつ彼女へ伺う。
「何処が良いって、何の話ですか?」
「パフェ。食べに行くんでしょ?」
そうか、そうだったな。パフェが食べたいと、話していたな。私はそうでしたね、とヘタクソな笑みを浮かべ、自身の服装を確認する。通常通り、Tシャツにジーパンというラフな格好だ。夢の中だが、少し恥ずかしい。夢ならもっと、可愛い格好をすれば良かったと後悔する。
瞬間、服装がワンピースに変わった。淡いグリーンの色をしたロング丈のそれに、私は悲鳴をあげる。しかし、小野田は気にしていない様子だ。あ、これは夢だった。と、自分で突っ込み、恥ずかしさに汗をかく。
元より、あまりスカートの類を履かない私は、その新鮮さに鼻を鳴らす。身に纏ったワンピースの裾を持ち、ショーウィンドウの前でひらりと一回転した。小野田が、似合ってますよと目を弧にする。
「え!?」
「すごく、似合ってます」
彼女の言葉に、ドキリとした。もう一度、ショーウィンドウに映った自分を見る。似合っている、か? 私は生まれてこの方、制服以外でスカートを履いたことがない。意識的に避けていたわけではないが、自身には似合わないという思い込みがあったのかもしれない。
自分の違う一面に頬を染め、再び歩み出す。
「うーん。この先に、カフェがあるみたいなので、そこに行きましょうか」
綺麗に施された指先が差す方向へ、私たちは足を運ぶ。あら、メロンパフェですって。美味しそう。でも、このイチゴがたっぷり乗ったのも良いなぁ。桃。みかん、バナナ……。あ、栗フェアもやってるみたいです。良いですねぇ。でも、スタンダードなのも良いなぁ。
彼女はひとりごちながら、歩みを進める。星水さんはどれを食べる予定ですか? と突然、彼女に名前を呼ばれ、私は喉に唾液を詰まらせる。
そうか、夢だから彼女が私の名前を知っていてもおかしくないか。ごほんと咳払いをし、イチゴのパフェですかね、と答える。イチゴ美味しいですよね、と綻んだ笑顔を見せる小野田は、病院で横たわっていた彼女と乖離している。これは夢なのだから、当たり前だろうと私はかぶりを振った。
ようやく着いたカフェへ入り込み、席へ座る。どうぞ、とメニューを渡され、礼を言った。
「私は、チョコパフェにしようかな。メロンと悩んだんだけど……ううん、やっぱりチョコパフェ!」
「どちらも美味しそうですよね」
店員を呼びつけ、注文する。店内をぐるりと見渡すと、客は誰一人としていない。がらんどうとしており、店内に流れるお洒落なBGMだけがこだましている。
目の前に座る小野田が口を開いた。ニコニコと目元を緩ませ、会話しているが、何を話しているかは、謎だ。言葉は発し、耳に届いてはいるものの、脳で処理が出来ない。きっと私は、彼女がどんな会話をするか予想できなかったのだろう。ONP錠にもこういう欠陥があるのか、と脳の何処かで呟く。
「あ、やっときた」
店員が運んできたパフェに、小野田が声を上げた。美味しそう、と絶賛するチョコパフェは豪華なものだった。ガトーショコラと生クリーム。チョコソースにチョコチップ。それらが乗ったパフェに、スプーンを突き刺す。
同様、私もイチゴパフェへ手をつけた。イチゴを口にすると、酸味が広がり唾液が滲む。思わず、頬が緩んだ。
「食べます?」
目線を上げると、彼女が私にガトーショコラのブロックを差し出していた。チョコソースがかかり、生クリームがついたそれ。
「これあげるから、イチゴください」
あぁ、それが狙いか。私はあはは、と声を上げて笑った。等価交換がお望みらしい。彼女がスプーンを近づけた。あーん、と指示する彼女に従い、口を大きく開ける。
「ところで、何処が良いと思いますか?」
そう問われ、目を見開いた。隣を並行して歩くのは、小野田さんだ。頭に巻いている包帯は取れており、傷跡もない。携帯端末を触りながら唸る彼女は、高めのヒールをカツカツと鳴らし、器用に歩いている。
私は彼女の身長を知らない。が、夢の中ではどうやらヒールを履いてやっと私と同じ身長になるらしい。アイメイクをバチバチに決めた彼女は、綺麗にネイルが施された爪を鳴らし、携帯端末を操作している。肩を大げさに露出した服装と、ホットパンツから覗く足が眩しい。
あぁ、風俗嬢というワードだけが先走り、彼女の外見が構成されているのか。私は何処かで見た、派手目な女性を反映させてしまったことに、思わず恥じる。
────と、いうか。何故、彼女の夢を見ているのだ……あ、そうだ。寝る前に彼女を思い出していたのだ。
そんなつもりでは、無かったんだけどなぁ。息を漏らしつつ彼女へ伺う。
「何処が良いって、何の話ですか?」
「パフェ。食べに行くんでしょ?」
そうか、そうだったな。パフェが食べたいと、話していたな。私はそうでしたね、とヘタクソな笑みを浮かべ、自身の服装を確認する。通常通り、Tシャツにジーパンというラフな格好だ。夢の中だが、少し恥ずかしい。夢ならもっと、可愛い格好をすれば良かったと後悔する。
瞬間、服装がワンピースに変わった。淡いグリーンの色をしたロング丈のそれに、私は悲鳴をあげる。しかし、小野田は気にしていない様子だ。あ、これは夢だった。と、自分で突っ込み、恥ずかしさに汗をかく。
元より、あまりスカートの類を履かない私は、その新鮮さに鼻を鳴らす。身に纏ったワンピースの裾を持ち、ショーウィンドウの前でひらりと一回転した。小野田が、似合ってますよと目を弧にする。
「え!?」
「すごく、似合ってます」
彼女の言葉に、ドキリとした。もう一度、ショーウィンドウに映った自分を見る。似合っている、か? 私は生まれてこの方、制服以外でスカートを履いたことがない。意識的に避けていたわけではないが、自身には似合わないという思い込みがあったのかもしれない。
自分の違う一面に頬を染め、再び歩み出す。
「うーん。この先に、カフェがあるみたいなので、そこに行きましょうか」
綺麗に施された指先が差す方向へ、私たちは足を運ぶ。あら、メロンパフェですって。美味しそう。でも、このイチゴがたっぷり乗ったのも良いなぁ。桃。みかん、バナナ……。あ、栗フェアもやってるみたいです。良いですねぇ。でも、スタンダードなのも良いなぁ。
彼女はひとりごちながら、歩みを進める。星水さんはどれを食べる予定ですか? と突然、彼女に名前を呼ばれ、私は喉に唾液を詰まらせる。
そうか、夢だから彼女が私の名前を知っていてもおかしくないか。ごほんと咳払いをし、イチゴのパフェですかね、と答える。イチゴ美味しいですよね、と綻んだ笑顔を見せる小野田は、病院で横たわっていた彼女と乖離している。これは夢なのだから、当たり前だろうと私はかぶりを振った。
ようやく着いたカフェへ入り込み、席へ座る。どうぞ、とメニューを渡され、礼を言った。
「私は、チョコパフェにしようかな。メロンと悩んだんだけど……ううん、やっぱりチョコパフェ!」
「どちらも美味しそうですよね」
店員を呼びつけ、注文する。店内をぐるりと見渡すと、客は誰一人としていない。がらんどうとしており、店内に流れるお洒落なBGMだけがこだましている。
目の前に座る小野田が口を開いた。ニコニコと目元を緩ませ、会話しているが、何を話しているかは、謎だ。言葉は発し、耳に届いてはいるものの、脳で処理が出来ない。きっと私は、彼女がどんな会話をするか予想できなかったのだろう。ONP錠にもこういう欠陥があるのか、と脳の何処かで呟く。
「あ、やっときた」
店員が運んできたパフェに、小野田が声を上げた。美味しそう、と絶賛するチョコパフェは豪華なものだった。ガトーショコラと生クリーム。チョコソースにチョコチップ。それらが乗ったパフェに、スプーンを突き刺す。
同様、私もイチゴパフェへ手をつけた。イチゴを口にすると、酸味が広がり唾液が滲む。思わず、頬が緩んだ。
「食べます?」
目線を上げると、彼女が私にガトーショコラのブロックを差し出していた。チョコソースがかかり、生クリームがついたそれ。
「これあげるから、イチゴください」
あぁ、それが狙いか。私はあはは、と声を上げて笑った。等価交換がお望みらしい。彼女がスプーンを近づけた。あーん、と指示する彼女に従い、口を大きく開ける。
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