ワンナイトパラダイス

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息子を愛せない

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「パパ」

 ハッと我に返る。歯ブラシを咥えた口の端から歯磨き粉が溢れそうになり、洗面台へそれを吐き出す。振り返ると、裕が立っていた。気に入りである熊のぬいぐるみを抱え、俺を見上げている。
 口に水を含み、濯ぎながら彼にどうした? と尋ねた。

「今日も、帰りがおそいの?」

 拙い声色が耳に届き、俺は嫌気が差した。漏れ出そうになったため息を殺し、コップを置く。
 裕と向き合うようにしゃがみ込み、彼の肩に手を置いた。

「うん。今日も残業なんだ。ごめんな。今日はお婆ちゃんが面倒を見に来るから」

 そう言うと彼は、やけに大人びた目をした。顔を伏せ、ふぅん、と呟く。
 その仕草が、初めて会った時の幸穂にそっくりで、俺は全身に鳥肌が立った。

「パパ」
「な、なに」
「おしごと、頑張ってね」

 黒めがちな瞳が、俺を見ていた。



「そういえば、和成さんがONP錠で悪夢を見るって言ってたじゃない?」

 泡風呂に浸かった彼女は、思い出したかのように口を開いた。手のひらに乗った真白い泡に息を吹きかけ、続ける。

「それって、潜在意識の中に何か抱えてるものがあるんじゃない?」

 抱えているもの。心当たりがありすぎて、ため息を漏らす。彼女の背中を胸板に感じながら、俺は微温湯の中で冷や汗をかいていた。

「私も、時々夢をコントロールできない時があるよ。ほら、夢の中で和成さんと結婚するって話をしたじゃない? あの夢に、実は裕くんも出てくるのよ」

 はぁ!? 俺の素っ頓狂な声は、バスルームに響いた。柑奈は体を揺らし、目を見開いた。もう、急に大声出さないでよ、と頬を膨らませている。

「な、なんで裕?」
「私もね、望んではいないよ。でも、途中で出てくるの。けどさ、夢の中ではすごく幸せそうだよ。私も、和成さんも、裕くんも。想像してた夢とはちょっと違うかなぁと思いつつも、結果的には、すっごく良い夢になる。和成さんも、そう言う風に明るく考えてみたら? 悪夢を見たら、良い方向に進むように考えるの」

 彼女が俺の方を向いた。泡で胸元が隠れていて、それが逆に唆られる。口角を上げ、微笑む姿は昔と変わらず、愛くるしい。

「……それに、ただの夢じゃない。現実とは、違うんだから。ね?」

 気にしすぎちゃダメ。そう囁いた彼女は俺の頬にキスをした。柔い唇の感触が擽ったくて、彼女の背中に手を回した。
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