ワンナイトパラダイス

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息子を愛せない

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 自宅に帰り着く頃には、もう既に深夜を過ぎていた。鍵穴に鍵を挿入し、ゆっくりとドアノブを回す。物音がしないように、とまるで泥棒のように俺は慎重に行動した。廊下を抜け、右側に見える扉を凝視する。耳鳴りがするほどの静寂に包まれた其処は、人の気配がまるで感じられなかった。死んでたり、しないだろうな。と不謹慎なことを考えてしまい、息を漏らす。
 数時間、家を空けただけで死んでくれたら、俺の悩みは解決するのにな、と親らしくないことを考えながらリビングへ通じるドアを開けた。

「……わ!」

 窓際に、裕が立っていた。パステルグリーンのパジャマを身に纏った彼は、テラス戸から舞い込む風に髪を揺らし、黒目がちな瞳で此方を見ている。
 俺は止まりかけた心臓を押さえ、唾液を飲み込む。まさか、起きているとは。予想外の出迎えに、額の汗を拭った。

「裕、この時間は寝てなきゃ駄目だろう」

 自分が思いつく、精一杯の父親らしい発言を捻り出してみるが、裕はその張り付いた無表情を変えることなく、俺を見つめている。その感情のない瞳に、苛立ちと恐怖が混じり、眩暈がする。

「ば、晩御飯は食べたのか?」
「うん」

 彼の為にと、レンジで温める夕食を買っておいたが、どうやら食せたようだ。俺はネクタイを緩めながら裕に近づき、その肩に手を置く。

「さぁ。部屋へ行こう。寝なきゃ。明日も学校があるだろう」

 うん。と、抑揚のない声が響く。彼の背中に手を回し、行こうか、と促す。彼は、まるで何も考えていないようで、けれど見透かすような目をしている。
 先ほどまでラブホテルでしていた行為を悟られているような気がして、居心地が悪い。

「おしごと、お疲れさま」

 そう呟いた彼の瞳が怖くて、俺は無様な笑みを溢し、目を逸らした。
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