ワンナイトパラダイス

中頭かなり

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生み出すもの

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 ────今日はもういい。帰れ。真島が警察沙汰にしなかっただけ、有難いと思え。あと、お前はクビだ。制服は、洗って返せよ。ほら、さっさと帰れ。
 そう店長に言われ、俺は帰路へ着いた。未だに足が震えているし、拳は腫れ上がり、血痕がこびりついている。脳裏に血まみれの真島が浮かんだ。ニタリと笑い、血のついた歯を見せながら俺を罵倒する。その表情を思い出しただけで、全身の血が沸騰し、目の前が歪む。心臓がバクバクと跳ね、額に汗が滲んだ。
 体の体温が一気に上がり、俺は不快感を覚えその場にしゃがみ込む。街のど真ん中で蹲った俺を、道ゆく人々が避けて通る。刺さるような視線を感じつつ、呼吸を整えた。

「あんなの、戯言だ」

 思わずひとりごちたその言葉は、雑音にかき消された。
 俺に、才能が無いだって? あるに決まってるだろう。俺は昔から、選ばれた人間だったんだ。みんな、俺の絵を褒めてくれたし、後藤だって、漫画家になれるって背中を押してくれた。あんな、卒業しても就職に何の影響もしない底辺大学に通う、絵も描いたことのない凡人に、何がわかるって言うんだ。

「俺には、俺には」

 才能が────。

「ちょ、大丈夫ですか?」

 その声で、我にかえる。誰かが、俺の肩に手を置いた。軽く揺さぶるようにする手を払い除け、立ち上がる。

「……大丈夫です」
「救急車とか呼び────あれ? 東堂?」

 俺は自身の名を呼ばれ、伏せていた視線をあげた。そこには、清潔感のあるサラリーマンが立っていた。律儀に着込んだスーツと、整えられたオールバックに息を呑む。
 俺には、こんな知り合いなど居ない。先程とはまた別の意味で跳ね上がる鼓動を抑え、声を絞り出した。

「どなた、ですか」
「俺だよ、俺。後藤。後藤学。同じクラスだったろ」

 何だよ、忘れたのかよ。と、屈託のない笑みを浮かべる彼と、記憶に存在するが、しかし曖昧な後藤学との記憶が合致する。俺はその場で、漏らすような息を吐き出した。

「ひ、久しぶり」

 吃った声を気にすることなく、後藤が肩を叩く。

「マジで、久しぶりだな。こんなところで、どうしたんだよ。具合でも悪いのか? 顔色ひどいぞ……っていうか、何だその血。お前の?」

 心配する彼から逃げるように、一歩後ろへ下がる。平気だから、気にしないでくれ。そう言う俺に彼は微笑んだ。ガサリ、とビニールが擦れる音がした。視線を音のする方へ向ける。

「なら、いいんだけどよ」

 ケーキだ。ホール状のケーキが入ったビニール袋をぶら下げている。ビニール越しでもわかる、その愛らしい色使いがされた箱を凝視している俺に気がついたのか、後藤は後頭部を乱暴に掻いた。

「あはは。今日、娘の誕生日なんだ」
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