ワンナイトパラダイス

中頭かなり

文字の大きさ
上 下
18 / 77
生み出すもの

4

しおりを挟む


 俺が漫画家を目指し始めたのは、小学校四年生の頃だった。それまで俺は、自分の考えた創造の世界を描き上げ、満足していただけの子供だった。周りからは上手い、と持て囃されただけで、それ以上の言葉をもらったことがなかった。
 けれど、そんな俺の人生を狂わせたのが、後藤学だった。彼はスポーツが得意で、教室の隅で絵を描いている俺とは真逆の生徒だった。そんな彼が突然、俺の机へ歩み寄り、ノートを奪った。揶揄われるのか、とビクビクしながら彼の言葉を待っていた。
 しかし、浴びせられたのは予想外の言葉だった。

「スッゲー。漫画家になれるよ、お前」

 そう言い白い歯を見せ、笑った。勝手に取ってごめんな、これ返すよ。じゃあな。と颯爽と走り去る姿を見て、あぁ俺は漫画家になれるのだ、と思い込んだ。その言葉に、縛られてしまった。
 彼とは中学まで同じ学校に通っていた。その間も、彼と俺は無縁の中だった。しかし俺の元へ来ては、漫画家になれるよ、頑張れよ。と言葉を残し去っていく。
 その頃の俺は、絵をずっと描いているだけの根暗な学生に成り下がっており、周りの友達も小学校の頃とは違い、純粋に褒めてくれる人など居なかった。また、絵を描いてるよアイツ。と、陰口まで言われる始末だった。そんな中、彼だけは俺にエールを送ってくれていた。それだけが、俺の支えだった。
 俺は、漫画家になるんだ。だって、後藤が────あの後藤がそう言うんだ。きっと間違いない。





 右の肩が痺れてきた。同じ姿勢を保っていたからか、臀部も痛い。背中を伸ばすと、パキパキと骨が鳴る。机に置いていたエナジードリンクを飲み干し、それを潰して床へ放り投げた。カラン、と乾いた音が静寂に響く。
 持っていたペンタブを置き、手首をぐるりと回す。パソコン画面に表示されている漫画を見て、俺はニヤリと笑った。
 ────今回こそは。
 主人公も魅力的だし、ヒロインも可愛い。雄の本能を擽る如何にもなキャラだ。(俺の好みからは逸脱しているが致し方がない)サブキャラも個性的で、ストーリーも流行りを取り入れたものだ。(不本意だが馬鹿な消費者を手中に収めるためには、やむを得ない)
 今度こそ、あの編集者をギャフンと言わせてやる。あの時に放った言葉を、後悔させてやる。

「しかし……」

 携帯端末を手に取り、通知を確認する。今のところ、全く音のならないそれを睨み、画面に表示されているSNSのアイコンをタップした。
 先程、編集者に叩かれた作品を掲載したが、反応がイマイチだ。俺の予想では、かなりバズり、フォロワーも増えると思っていたのだが。

「……ンだよ。見る目ねぇなどいつもこいつも」

 鳴り止まない通知を予想していた反面、肩透かしを喰らい、苛立ちが募る。俺は舌打ちをし、再びペンタブを握った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...