ワンナイトパラダイス

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不細工と美人

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「どうしたの? 何か、用事?」

 何処かぎこちない彼女は、泣きもしなければ、喜んで迎え入れもしなかった。ただ、不審な眼差しで俺を見つめている。

「や、やり直さないか、めぐみ。俺、本当に愛しているのはお前だけだってやっと気がついたんだ」
「え、えっと……」

 吃るめぐみの瞳が揺らいでいる。何故、即答でハイと言わないんだ。貰い手がないお前を、俺がまた受け入れてやろうと言っているのに。
 脳内に浮かんでいた疑問符が、ドアの影に隠れていた存在によって吹き飛ぶ。

「あれ。めぐちゃんを捨てた元カレくんじゃん。どおも」

 そこには、男がいた。髭を蓄えた、ダンディな男だ。俺のだらしない服装とは裏腹に、ワイシャツを着崩した姿が、大人の風格を見せつけている。
 誰、こいつ。と、口走った俺にめぐみが答えた。

「職場の上司で……」
「佐々木って言います。今、めぐちゃんとお付き合いしてます」

 サラリと言われたその言葉に、愕然とする。すかさずめぐみへ視線を投げると、彼女は申し訳なさそうに笑っていた。
 前々から、彼女が職場の上司との付き合いで帰りが遅くなっていたりしていた。しかし、まさかそれが恋愛にまで発展しているとは夢にも思わなかった。

「えっと。それで、用件は何?」

 そのあっけらかんとしためぐみの態度に、俺は声を荒げた。

「お前、騙されてるよ! お前みたいな女は経験が少ないから知らないだろうが、こういうやつはお前みたいな女を騙して遊んでるクズだ!」
「へぇ。すごい言い様だなぁ。俺は純粋にめぐちゃんを愛してるよ。君こそ、彼女を蔑ろにしてたじゃないか。いつも彼女から愚痴を聞いてたよ。全く、こんな素直で良い子に酷いこと出来たな」

 佐々木と名乗った男は鼻で俺を笑い、めぐみの肩に手を置いた。めぐみは照れ臭そうに頬を染めている。

「俺たちは、結婚する予定なんだ。よかったら式に呼ぶよ。ね、良いよね。めぐちゃん」

 めぐみは彼を見上げ、うんと嬉しそうに頷き、肩に置かれた彼の手を撫でる。表情も仕草も、俺といた時より幾分も女らしさを滲ませている彼女を見て察した。
 あぁ彼女は恋をしているのだ、と。
 その瞬間、肩から力が抜けた。その場に崩れ落ちそうになった足を支え、めぐみを見つめた。彼女の俺を見る眼差しは前とは違い、いっそ清々しいほど晴れやかな目をしていた。で、用件は何かな。と告げる彼女に、なんでもない、と告げ、その場を去る。

「じゃあね、翔太くん。元気でね」

 その柔い言葉が背中に刺さった。ガチャンと閉まったドアから、二人の笑い声が響く。早く映画の続き見よ、めぐちゃん。と、佐々木の甘えた声に、めぐみの返事が聞こえた。やがて静まり返った廊下に、俺の呼吸音だけがこだまする。
 紺色のドアを見つめ、俺は泣き出したいような、叫び出したいような。
 そんな衝撃に、襲われていた。
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