13 / 77
不細工と美人
12
しおりを挟む
眩暈がした。グラグラと足元から崩れ、壊れていくような、そんな。
俺は霞む視界の中、彼女をやっとの思いで捉えた。
「私、モテるんですよ。まあ、言わなくても分かると思いますが。こういう事いうと、高飛車だとか、高慢ちきとか言われるんですけど。見て分かりません? 美人なんですよ。引く手あまたなんです。かれこれ多数の男性に好意を寄せられて来ました。────正直なことを言って良いですか? 貴方の様な人、たくさん見てきたんですよ。笑いかけられただけで、俺に好意があると思い込む、自意識過剰な人。あの、私。貴方のような人を好きになることなんて、まずあり得ないんです。ムスッとしてたら、愛想がないと言われ、愛想よくしてたら勘違いさせやがってと逆上されるこっちの身にもなってくださいよ」
彼女は今までの鬱憤を吐き出すように呟き、額に手を押し当てた。短く息を吐き出し、踵を返す。
「もうひとつ言い忘れてました」
椎名が顔だけを此方に向けた。
「彼女と別れたと私にアピールしていた時に、彼女の容姿を貶しましたよね。貴方、人のこと言えないですよ」
あのさりげないアピールがバレていたのか。全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出す。同時に、自身の容姿を貶されたことに困惑した。だって、めぐみはいつも俺をカッコいいと言ってくれた。誰よりも魅力的で、素敵だと。
不意に、佐藤の俺を舐め回すような視線を思い出す。あぁ、こう彼は言いたかったのか。
────身の程を弁えろ、と。
「彼女さんに、よっぽど気を使われていたんですね。そして、愛されてたんですね。そんな彼女を貶すような人に私が惚れる確率は、一%もありません。こんな顔だけの女のために、数年間も愛した彼女を捨てる貴方に、魅力を感じる訳がありません。これが、私の本音です。では」
彼女は颯爽とその場を後にした。何も言えず、膝から崩れ落ちる。俺を構築する全てが、ガラガラと音を立てて壊れていく。俺は、椎名に言い返したかった。お前みたいな女に、俺が告白するとでも思ったのか、と。強がりをぶつけたかった。けれど、彼女はそれさえも吸収してしまうだろう。何故なら彼女は「こういう男」に慣れているのだ。自身の好意を踏み躙られた男の末路を、彼女は十分に理解している。だからこそ、そこまで見透かされることが恐ろしかった。
俺は、夢を見すぎていた。
瞬間、俺は携帯端末を取り出し、めぐみへ電話をかける。急激に、彼女に会いたくなったのだ。あの表情や仕草を思い出し、涙が溢れ出す。脳内で再生されるめぐみとの思い出は、どれも素晴らしいものばかりだ。何故俺は、彼女を蔑ろにしてしまったのか。何故俺は、彼女を捨ててしまったのか。
携帯端末を耳に押し当て、駐車場へ停めている車へ向かう。呼び出し音が鳴り響き、出る気配がない。まだ、仕事中なのだろうか。それとも、夕食を作っていて、手元に携帯が無いのか。
彼女の手料理を思い出し、胸がぎゅうと痛んだ。俺の為だけに一生懸命、手料理を振る舞っためぐみ。無言で食べる俺に、何も言わずニコニコとしていためぐみ。
何故俺は、何故俺は。
車へ乗り込み、ハンドルを握る。向かうは彼女が住まうマンション。俺を待っているに違いない。きっと、黙って俺を迎え入れてくれる。アクセルを踏み、猛スピードで道路を走った。
漸く見えてきたクリーム色のマンションに、胸が弾む。マンション前に車を停め、もう一度電話をかける。出る様子はないが、三階の彼女の部屋には明かりがついている。やはり、手が離せない状況なのだろう。急いで部屋まで向かう。エレベーターに乗り込み、彼女の反応を脳内で予想した。きっと、俺の姿を見た瞬間、泣き出してしまうだろう。
エレベータを降り、廊下を歩む。三〇五号室まで辿り着き、息を整えた。インターホンを鳴らす指先が震える。
第一声はどうしようか。悪かった? ごめん? 愛してる? 整理がつかないが、俺はとにかくめぐみに会いたかった。
ボタンを押し、チャイム音が鳴る。間を置き、中から足音が聞こえた。ゆっくりと開くドアからひょこりとめぐみが顔を覗かせる。
「めぐみ!」
思わず叫んだ。あんなに煩わしいと思っていた彼女の顔面さえ、今では愛おしい。
しかし、彼女は俺の予想とは違った反応を見せた。
俺は霞む視界の中、彼女をやっとの思いで捉えた。
「私、モテるんですよ。まあ、言わなくても分かると思いますが。こういう事いうと、高飛車だとか、高慢ちきとか言われるんですけど。見て分かりません? 美人なんですよ。引く手あまたなんです。かれこれ多数の男性に好意を寄せられて来ました。────正直なことを言って良いですか? 貴方の様な人、たくさん見てきたんですよ。笑いかけられただけで、俺に好意があると思い込む、自意識過剰な人。あの、私。貴方のような人を好きになることなんて、まずあり得ないんです。ムスッとしてたら、愛想がないと言われ、愛想よくしてたら勘違いさせやがってと逆上されるこっちの身にもなってくださいよ」
彼女は今までの鬱憤を吐き出すように呟き、額に手を押し当てた。短く息を吐き出し、踵を返す。
「もうひとつ言い忘れてました」
椎名が顔だけを此方に向けた。
「彼女と別れたと私にアピールしていた時に、彼女の容姿を貶しましたよね。貴方、人のこと言えないですよ」
あのさりげないアピールがバレていたのか。全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出す。同時に、自身の容姿を貶されたことに困惑した。だって、めぐみはいつも俺をカッコいいと言ってくれた。誰よりも魅力的で、素敵だと。
不意に、佐藤の俺を舐め回すような視線を思い出す。あぁ、こう彼は言いたかったのか。
────身の程を弁えろ、と。
「彼女さんに、よっぽど気を使われていたんですね。そして、愛されてたんですね。そんな彼女を貶すような人に私が惚れる確率は、一%もありません。こんな顔だけの女のために、数年間も愛した彼女を捨てる貴方に、魅力を感じる訳がありません。これが、私の本音です。では」
彼女は颯爽とその場を後にした。何も言えず、膝から崩れ落ちる。俺を構築する全てが、ガラガラと音を立てて壊れていく。俺は、椎名に言い返したかった。お前みたいな女に、俺が告白するとでも思ったのか、と。強がりをぶつけたかった。けれど、彼女はそれさえも吸収してしまうだろう。何故なら彼女は「こういう男」に慣れているのだ。自身の好意を踏み躙られた男の末路を、彼女は十分に理解している。だからこそ、そこまで見透かされることが恐ろしかった。
俺は、夢を見すぎていた。
瞬間、俺は携帯端末を取り出し、めぐみへ電話をかける。急激に、彼女に会いたくなったのだ。あの表情や仕草を思い出し、涙が溢れ出す。脳内で再生されるめぐみとの思い出は、どれも素晴らしいものばかりだ。何故俺は、彼女を蔑ろにしてしまったのか。何故俺は、彼女を捨ててしまったのか。
携帯端末を耳に押し当て、駐車場へ停めている車へ向かう。呼び出し音が鳴り響き、出る気配がない。まだ、仕事中なのだろうか。それとも、夕食を作っていて、手元に携帯が無いのか。
彼女の手料理を思い出し、胸がぎゅうと痛んだ。俺の為だけに一生懸命、手料理を振る舞っためぐみ。無言で食べる俺に、何も言わずニコニコとしていためぐみ。
何故俺は、何故俺は。
車へ乗り込み、ハンドルを握る。向かうは彼女が住まうマンション。俺を待っているに違いない。きっと、黙って俺を迎え入れてくれる。アクセルを踏み、猛スピードで道路を走った。
漸く見えてきたクリーム色のマンションに、胸が弾む。マンション前に車を停め、もう一度電話をかける。出る様子はないが、三階の彼女の部屋には明かりがついている。やはり、手が離せない状況なのだろう。急いで部屋まで向かう。エレベーターに乗り込み、彼女の反応を脳内で予想した。きっと、俺の姿を見た瞬間、泣き出してしまうだろう。
エレベータを降り、廊下を歩む。三〇五号室まで辿り着き、息を整えた。インターホンを鳴らす指先が震える。
第一声はどうしようか。悪かった? ごめん? 愛してる? 整理がつかないが、俺はとにかくめぐみに会いたかった。
ボタンを押し、チャイム音が鳴る。間を置き、中から足音が聞こえた。ゆっくりと開くドアからひょこりとめぐみが顔を覗かせる。
「めぐみ!」
思わず叫んだ。あんなに煩わしいと思っていた彼女の顔面さえ、今では愛おしい。
しかし、彼女は俺の予想とは違った反応を見せた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる