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不細工と美人
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◇
「今から何処へ行きます?」
腕をぎゅうと引っ張られ、俺はバランスを崩しかけた。腕を引いたのは、椎名だ。ピッタリとしたニット生地の服を見に纏い、彼女の胸元を強調させている。ロングスカートをはためかせ、カールさせた茶髪を揺らした。職場にいる時よりほんのすこしだけ濃い口紅に、心臓を高鳴らせる。
腕に当たった胸に気がついているのかいないのか。椎名は目元を緩ませ、ヒールを鳴らし街中を歩む。
すれ違う男(その中には隣に女を連れている男も含まれている)たちが椎名に目を奪われ、同時に尊敬と嫉妬を孕んだ視線を俺に注ぐ。
その気分の良さたるや。言いようの無い興奮で身を包まれた。今まで、めぐみを隣に歩かせるのは恥でしかなかった。すれ違う男たちにレベルの低い女だと見下され、俺の価値まで下がっている様な気がしていた。
けれど、今は違う。椎名はどの女よりも優れたトロフィーだ。隣にいるだけで、俺は他の男たちとは違う生き物になれる。
めぐみと共にいた日々とは比べ物にならないほどの高揚感に浸っていると、椎名がぐいと俺の袖を引っ張る。口を尖らせ、ほんの少しだけ頬を膨らませた。
「別のこと、考えてません?」
なんとまあ、愛くるしい嫉妬だろうか。俺は頬を緩ませ、彼女の額を弾いた。
「椎名さんのこと、考えてたんだよ」
なんて、少女漫画のようなセリフを吐く。俺にとって、こんなセリフを言ったことは一度もない。気恥ずかしさを覚えたが、椎名は嬉しそうに微笑んだ。こんな笑顔が見れるなら、もっと彼女に尽くしたい。そう思える笑顔だ。
「あそこのレストラン、入ろうか」
「え、でも。高そうですよ……?」
「良いんだよ。俺に全部任せて」
入ったこともないようなレストランを指差し、俺は歯を見せる。椎名は俺の腕に絡みつき、かっこいい、と黄色い声を上げた。
「こんなホテルでいいの?」
俺の問いに、椎名が頷いた。髪が揺れ、蠱惑的な笑みで俺を見つめる。その瞳は、生まれつきなのか、はたまたカラーコンタクトなのか。俺には察する事が出来なかったが、それでも、安っぽいラブホテルの淡い照明を取り込んだ虹彩は美しい。
彼女が俺を組み敷いた。巻かれた毛先が俺を擽り、思わず笑ってしまう。そんな様子を見た椎名も、口角をあげ、覆いかぶさる。良い匂いが鼻腔を抜け、脳の奥がチリチリと痛む。彼女の背中に手を回した。薄い背中が弱々しくて、愛おしい。女特有の柔らかくも儚い体に魅入られる。
「ねぇ」
彼女が不意に口を開いた。俺は、短く返事をする。
「何?」
「私と付き合ってください」
彼女が顔をあげ、俺を見つめた。美人は、眉を顰めていても美人だ。今にも泣き出しそうな瞳で俺を見つめている。
「白石さんに彼女がいることは、知ってます。でも、この気持ちを抑えきれない。」
椎名が肩口に顔を埋めた。浅い呼吸音が耳朶を刺激する。俺も、愛してるよ。と口を開いた瞬間、目の前が暗転した。
「今から何処へ行きます?」
腕をぎゅうと引っ張られ、俺はバランスを崩しかけた。腕を引いたのは、椎名だ。ピッタリとしたニット生地の服を見に纏い、彼女の胸元を強調させている。ロングスカートをはためかせ、カールさせた茶髪を揺らした。職場にいる時よりほんのすこしだけ濃い口紅に、心臓を高鳴らせる。
腕に当たった胸に気がついているのかいないのか。椎名は目元を緩ませ、ヒールを鳴らし街中を歩む。
すれ違う男(その中には隣に女を連れている男も含まれている)たちが椎名に目を奪われ、同時に尊敬と嫉妬を孕んだ視線を俺に注ぐ。
その気分の良さたるや。言いようの無い興奮で身を包まれた。今まで、めぐみを隣に歩かせるのは恥でしかなかった。すれ違う男たちにレベルの低い女だと見下され、俺の価値まで下がっている様な気がしていた。
けれど、今は違う。椎名はどの女よりも優れたトロフィーだ。隣にいるだけで、俺は他の男たちとは違う生き物になれる。
めぐみと共にいた日々とは比べ物にならないほどの高揚感に浸っていると、椎名がぐいと俺の袖を引っ張る。口を尖らせ、ほんの少しだけ頬を膨らませた。
「別のこと、考えてません?」
なんとまあ、愛くるしい嫉妬だろうか。俺は頬を緩ませ、彼女の額を弾いた。
「椎名さんのこと、考えてたんだよ」
なんて、少女漫画のようなセリフを吐く。俺にとって、こんなセリフを言ったことは一度もない。気恥ずかしさを覚えたが、椎名は嬉しそうに微笑んだ。こんな笑顔が見れるなら、もっと彼女に尽くしたい。そう思える笑顔だ。
「あそこのレストラン、入ろうか」
「え、でも。高そうですよ……?」
「良いんだよ。俺に全部任せて」
入ったこともないようなレストランを指差し、俺は歯を見せる。椎名は俺の腕に絡みつき、かっこいい、と黄色い声を上げた。
「こんなホテルでいいの?」
俺の問いに、椎名が頷いた。髪が揺れ、蠱惑的な笑みで俺を見つめる。その瞳は、生まれつきなのか、はたまたカラーコンタクトなのか。俺には察する事が出来なかったが、それでも、安っぽいラブホテルの淡い照明を取り込んだ虹彩は美しい。
彼女が俺を組み敷いた。巻かれた毛先が俺を擽り、思わず笑ってしまう。そんな様子を見た椎名も、口角をあげ、覆いかぶさる。良い匂いが鼻腔を抜け、脳の奥がチリチリと痛む。彼女の背中に手を回した。薄い背中が弱々しくて、愛おしい。女特有の柔らかくも儚い体に魅入られる。
「ねぇ」
彼女が不意に口を開いた。俺は、短く返事をする。
「何?」
「私と付き合ってください」
彼女が顔をあげ、俺を見つめた。美人は、眉を顰めていても美人だ。今にも泣き出しそうな瞳で俺を見つめている。
「白石さんに彼女がいることは、知ってます。でも、この気持ちを抑えきれない。」
椎名が肩口に顔を埋めた。浅い呼吸音が耳朶を刺激する。俺も、愛してるよ。と口を開いた瞬間、目の前が暗転した。
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