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不細工と美人
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◇
「おかえりぃ」
間の伸びた甘い声と相反した醜い顔面に、俺は先ほどまで脳内を埋め尽くしていた美女の映像を根絶やしにされる。漂う唐揚げの香ばしい匂いは胃袋を擽ったが、それ以上にめぐみの顔を見るたびに食欲が失せる。俺は疲れた体を風呂場へ運び、シャワーを頭から浴びた。ここに、着替え置いとくね。と、女房ヅラするめぐみに返事をすることなく、脳内で椎名の微笑みを再放送させる。
俺に……俺に話しかけてきた。あんな、美人が。
その事実に、胸が弾んだ。今まで、俺はモテたことがない。故に、あのレベルの美人と会話をしたことがない。
────もしかして、俺に気があるのでは。
わざわざ、どうでもいいような案件を作り、帰ろうとした俺の後をつけ、声をかけたのでは。そう考えると、彼女の微笑みにも見当がつく。あんなに嬉しそうに微笑むなど、どうでもいい男にはしないのではないか。
────なんてな。
気にしすぎだ。気にしすぎ。常にめぐみという存在が側に居れば、あのレベルの女と付き合ってみたいと、考えてしまうものだ。
息を吐き出し、風呂場を出た。
めぐみの食事は美味い。常に俺の好み、健康を考え調理をしている。めぐみは俺に比べて、激務だ。今日は早く帰ってきたが、いつもは朝早く出勤し、夜遅く帰宅しているようだ。通常勤務の時は、こうやって俺の家に来ては女房臭いことをする。最初の頃はありがたいと思っていたが、年月を重ねるたびに、それが重荷になった。
このまま、結婚にまで漕ぎつけようとしているのでは無いか、という不安が肩にのしかかる。
俺の人生は、このままでいいのだろうか。生涯、この女だけで終わらせるのか。
ベッドに横たわるめぐみを見下ろし、そう思った。
今日は、泊まっていい? と問う彼女に、俺は何も言えなかった。ただ、無性に女を抱きたいという感情には襲われていた。もちろん、抱きたいのは彼女ではない。けれど、身近な女体はめぐみしかいない。悲しいことだが、それが事実だ。
俺は数ヶ月ぶりにめぐみを抱いた。照明を暗くし、なるべく声を出さないでくれ、と彼女に告げる。理由は適当に、隣人から苦情がくるから、とかそういうものだ。本当は、めぐみの声を聞きたくないからである。めぐみは大人しく従った。
正直、めぐみとの体の相性は抜群だ。彼女の体しか知らない、という難点があるものの、それでも彼女の体は優秀だった。
女として、めぐみは本当に優れていた。仕事は出来る。体の相性は良い。家事も難なくこなし、胃袋さえ掴める。
────しかし。
薄暗がりにぼんやり浮かぶ、めぐみの顔を見た。あまりの醜さに、ため息を漏らしかけ、飲み込む。
この顔さえなければ、完璧なのに。
俺は無理やり脳内で、椎名の顔を思い浮かべた。声、仕草、匂い。無理やりめぐみを彼女に変換し、腰を振った。
「おかえりぃ」
間の伸びた甘い声と相反した醜い顔面に、俺は先ほどまで脳内を埋め尽くしていた美女の映像を根絶やしにされる。漂う唐揚げの香ばしい匂いは胃袋を擽ったが、それ以上にめぐみの顔を見るたびに食欲が失せる。俺は疲れた体を風呂場へ運び、シャワーを頭から浴びた。ここに、着替え置いとくね。と、女房ヅラするめぐみに返事をすることなく、脳内で椎名の微笑みを再放送させる。
俺に……俺に話しかけてきた。あんな、美人が。
その事実に、胸が弾んだ。今まで、俺はモテたことがない。故に、あのレベルの美人と会話をしたことがない。
────もしかして、俺に気があるのでは。
わざわざ、どうでもいいような案件を作り、帰ろうとした俺の後をつけ、声をかけたのでは。そう考えると、彼女の微笑みにも見当がつく。あんなに嬉しそうに微笑むなど、どうでもいい男にはしないのではないか。
────なんてな。
気にしすぎだ。気にしすぎ。常にめぐみという存在が側に居れば、あのレベルの女と付き合ってみたいと、考えてしまうものだ。
息を吐き出し、風呂場を出た。
めぐみの食事は美味い。常に俺の好み、健康を考え調理をしている。めぐみは俺に比べて、激務だ。今日は早く帰ってきたが、いつもは朝早く出勤し、夜遅く帰宅しているようだ。通常勤務の時は、こうやって俺の家に来ては女房臭いことをする。最初の頃はありがたいと思っていたが、年月を重ねるたびに、それが重荷になった。
このまま、結婚にまで漕ぎつけようとしているのでは無いか、という不安が肩にのしかかる。
俺の人生は、このままでいいのだろうか。生涯、この女だけで終わらせるのか。
ベッドに横たわるめぐみを見下ろし、そう思った。
今日は、泊まっていい? と問う彼女に、俺は何も言えなかった。ただ、無性に女を抱きたいという感情には襲われていた。もちろん、抱きたいのは彼女ではない。けれど、身近な女体はめぐみしかいない。悲しいことだが、それが事実だ。
俺は数ヶ月ぶりにめぐみを抱いた。照明を暗くし、なるべく声を出さないでくれ、と彼女に告げる。理由は適当に、隣人から苦情がくるから、とかそういうものだ。本当は、めぐみの声を聞きたくないからである。めぐみは大人しく従った。
正直、めぐみとの体の相性は抜群だ。彼女の体しか知らない、という難点があるものの、それでも彼女の体は優秀だった。
女として、めぐみは本当に優れていた。仕事は出来る。体の相性は良い。家事も難なくこなし、胃袋さえ掴める。
────しかし。
薄暗がりにぼんやり浮かぶ、めぐみの顔を見た。あまりの醜さに、ため息を漏らしかけ、飲み込む。
この顔さえなければ、完璧なのに。
俺は無理やり脳内で、椎名の顔を思い浮かべた。声、仕草、匂い。無理やりめぐみを彼女に変換し、腰を振った。
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