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実際はもっと最低だった

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「お世話になりました」
「こちらこそ、助かった」
「本当、ありがとうね……故郷に、戻るのよね?」
「ええ。ここで働いたおかげで、安全に帰れます。ありがとうございました」

 にこにこ、にこにこ。
 舞は笑顔でそう言って、ミゲルとジョゼに頭を下げた。故郷に帰ると言うのは全くの嘘だが、本当のこと――魔国に行くことを、あえて彼らに教えるつもりはない。

(大丈夫だと思いたいけど万が一、探された時に面倒だし)

 ちなみに、セバエにも舞のことについては口留めして貰っている。

「無理やり連れてきたくせに、役に立たないって放り出されたんです……ただ、また目をつけられたら何をされるか解らなくて、怖いので」
「それは酷い話ですね……解りました。あなたの安全は保障します」

 舞がしおらしく言うと、セバエは頼もしく頷いてくれた。
 ちなみに、リュカオンというのを隠しそれらしく言っているが、嘘じゃないのがすごい。そう、舞が「怖い」と思っているということ以外は。あの敵については、ただただ腹立たしいだけだ。

(名前が『リュカオン』だって言うのは、店で聞いたけど……あんな失礼な奴、敵で十分よ)

 もっともそんな考えは顔に出さずに、ミゲルの店を後にした舞はそのままセバエの店へと向かった。
 そして荷馬車のうちの一台に乗せて貰い、意気揚々と魔国へと向かったのである。



「何故、聖女が召喚出来ない!?」

 一方、その頃の皇太子――リュカオンは、神官達に怒鳴っていた。
 舞を追い出した後、リュカオンは早速、新たなる異世界人を召喚しようとした。しかし舞の時とは違い、魔法使いや神官達が疲弊するだけで異世界人は現れない。もう三か月になるのに、全く召喚されない。
 苛立つ皇太子に、教皇である青年がおずおずと答える。

「まさか、と思いますが……あの異世界人が、生きているのかもしれません」
「……何?」
「しかし浄化はされているようなので、このまま様子を見られては?」

 ステータスに出た『主婦』の文字に幻滅し、すぐに追い出した。切り殺さなかったのは、僅かな良心――ではなく、単に無一文で追い出せばすぐに路頭に迷って野垂れ死ぬと思ったからだ。
 しかしもし、あの生意気な女が生きているせいで新たな聖女が召喚出来ないとすると。
 ……邪魔者を排除して、自分に相応しい聖女を召喚させなければ。

「あの女を探して来い!」
「「「御意!」」」

 リュカオンの命令に返事をし、兵士達は皇宮を飛び出していった。
 ……けれど舞の口留めが成功し、兵士達は「故郷に帰った」という情報しか見つからず、リュカオンに報告した途端「そんな訳なかろう!?」と怒鳴られることになる。
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