灰かぶり君

渡里あずま

文字の大きさ
上 下
80 / 96

あなたにはかなわない2

しおりを挟む
 ……諦めなくちゃいけないのに、久しぶりの接触が嬉しくて。そんな自分に困って、また吐きそうになる。

「そもそも、お前がメールで断るのが不自然なんだよ」
「……えっ?」
「お前なら、会うのは無理でもせめて電話で伝える。それをしなかったのは……声を聞いたら、断れないからだ。つまりは、おれのことが好きってことだ」

 そう言って、勝ち誇ったように笑う刃金さんに抱き締められたのに――腕の中でしばし考え、俺は口を開いた。

「……解りました、認めます。俺は、刃金さんのことが好きです。両親の墓前なんで、嘘偽りは言いません」

 そう言うと俺は少しだけ身を退き、顔を上げて刃金さんを見上げた。

「だけど、この学校では許されても、外の世界じゃ男同士は歓迎されません。刃金さんは、せっかく自分の道を決めたんですから、わざわざ俺なんて選ばなくても」
「……やっぱり、面倒臭く考えてたか」

 そんな俺の顔を、やれやれとため息をついて刃金さんが額を当てて覗き込んでくる。

「そんなの、最初から解ってる。逆なんだよ。クラスの奴らもだが、お前の為におれは家と縁を切ったんだ」
「刃金さん」
「……いや、違うな。為に、じゃねぇ。胸張って、お前と一緒にいられるように、だ」

 そこでふ、と刃金さんは言葉を切った。

「なぁ、おれが好きなら傍にいて、おれを幸せにしてくれよ」

 それから、一転して不安そうに眉を寄せて言われたのに――考える前に、俺は両手を差し出して刃金さんの頬に添えた。

「それは、こっちの台詞です。むしろ、俺ばっかり幸せだと思います。それでもよければ、どうぞよろしくお願いします」
「……しゃっ!」

 グッと拳を握って笑った刃金さんに、またきつく抱きしめられながら俺は思った。
(かなわないな、この人には)
 思えば、初めて会った時にごまかせなくてフルネームを名乗ったり。強引に、でも無理矢理じゃなくて一緒に出かけることになったりもした。

「嫌だったら、ガラスの靴を持って逃げて。覚悟を決めたら、魔法が解けても王子様の腕に飛び込んでね」

 前に、俺にそう言ったのは桃香さんだ。
 ガラスの靴じゃないけど、刃金さんは俺の隠していた本心を見つけて、こうして灰かぶりな俺を追いかけてきてくれた。
(だから、刃金さんのことが好きになったのかな……いや)
 そこまで考えて、違うな、と俺は訂正した。そして、心の中だけで呟いた。

(だから、じゃなくて……好きだから、俺は刃金さんにかなわないんだ)

 そう、俺は刃金さんが好きだ。そのことについては、異論はない。
 ない、んだが――ギュウギュウ抱き締めてくる刃金さんの背中に、俺は手を回してペシペシと叩いた。

「刃金さん刃金さん、そろそろ離して下さい」
「ん? 痛かったか?」
「いや、そうじゃなくて」

 腕の力を緩めながらも、俺を離そうとしない刃金さんに言葉を続ける。

「親の前で、あんまりイチャイチャするのは、ちょっと」
「っ!?」

 そう言うと、刃金さんは息を呑んだけど――俺を離さず、逆に更に密着してきた。そして耳元で、俺だけに聞こえるような小声で話しかけてくる。

「やっぱりここは『息子さんを、おれに下さい』って言うべきか?」
「…………」

 いやいや、そうでもなくて。
 第一、カミングアウトだけでも衝撃だろうに、彼氏からの挨拶まで続いたら両親の心臓に悪い気がする(まあ、すでに止まってるけど)

「そういう挨拶は、俺が結婚出来るようになってからで」
「そうか。じゃあ、お前が十八になったらな」
「それは、法律的に許されてる年齢なだけですよね?」

 真面目にとんでもないことを言いつつ、尚も離そうとしない刃金さんの背中を、俺は再びペシペシと叩いた。



 両親への『ご挨拶』は思いとどまってくれたが、刃金さんはお墓で手を合わせてくれた。
 そして、二人でお寺を後にして――バイクで送ってくれると言う刃金さんの申し出を、けれど俺は断った。

「何でだよ。別に、送り狼なんてしねぇぞ?」
「そう言う心配はしてません……真白達とかー君に、ケーキでも買って帰ろうかと思って」
「しねぇのかよ」
「どっちですか」

 妙なことを言ってくる刃金さんに、お断りの理由を説明する。ささやかだけど今回、刃金さんと俺を引き合わせてくれた恩人達へのお礼のつもりだ。

「……買うより、お前が作った方がいいんじゃねぇか?」
「えっ?」
「別に、お前と帰りたいからってだけで、言ってるんじゃねぇぞ……Fクラスの奴らも、お前の作ったの喜んで食うし」

 ツンデレか、と思わずツッコミを入れそうになったけど、それは何とか堪えた。
 まあ、確かにまだ昼が過ぎたくらいだし――帰って作れば、夕飯の時に食えるよな。

「解りました、お願いします」
「……えっ? お、おう」

 そう言って頭を下げると、刃金さんはちょっと驚いたように声を上げた。そんな刃金さんから、ヘルメットを受け取った俺を後ろに乗せて、バイクが発進する。
(驚かれたってことは、俺も刃金さんと一緒にいたいっていうのが、伝わってないのか?)
 伝わるように頑張らないと、と思いつつ、俺は刃金さんの背中にそっと寄り添った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鷹が雀に喰われるとはっ!

凪玖海くみ
BL
陽キャ男子こと知崎鷹千代の最近の趣味は、物静かなクラスメイト・楠間雲雀にウザ絡みをすること。 常にびくびくとする雲雀に内心興味を抱いている様子だが……しかし、彼らの正体は幼馴染で親にも秘密にしている恋人同士だった! ある日、半同棲をしている二人に奇妙な噂が流れて……? 実は腹黒い陰キャ×雲雀のことが大好き過ぎる陽キャによる青春BL!

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

矢印の方向

うりぼう
BL
※高校生同士 ※両片想い ※文化祭の出し物関係の話 ※ちょっとだけすれ違い

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

処理中です...