灰かぶり君

渡里あずま

文字の大きさ
上 下
71 / 95

考えるな、感じろ?3

しおりを挟む
 真白に横抱きにされ、青い顔で戻ってきた俺に一茶と奏水も慌てた。そんな訳で、夕食作りを免除されて俺は個室スペースで横になっている。
(申し訳ないな……さっきはちょっとキたけど、そもそも俺は我慢以前に行動しなかったんだし)
 ベッドに横になりながら、俺は一人反省会をしていた――そう、何もしなかったんだから悲劇のヒロインぶっちゃいけない。諦めなくちゃいけないからって泣いたら、刃金さんにも他の皆にも失礼だ。
(そもそも、いつから刃金さんを好きになったんだ? いや、別に嫌いじゃないけど)
 嫌いじゃない――それは、他の皆も同様だ。いや、周りの連中に比べればむしろ好きな方だと思う。
(最初、会った時は関わりあいたくなかったから、真白の名前教えて逃げようとしたし)
 不良だからって言うより、真白の相手(つまりは攻め)候補だったからな。最初はそれくらいの印象だったけど、何でか気に入られてボタンつけに呼ばれたんだ。
(生徒会の面々から、嫉妬されてたから? 刃金さんに好かれて、コロッとなった?)
 ……思ってみたけど、すぐに「いや、無いな」と思う。嫉妬されてウザかったけど、別にそれで凹むとかは無かったし。第一、刃金さんだけじゃなく真白にも懐かれてた。だから弱ってたり、コロッとなったりは無いと思う。

「んー……」

 だったら一体、何でだろう――そこまで考えて、俺はおもむろに携帯を手に取った。
 そして、客観的に今までの俺と刃金さんを振り返る為に、デリ☆の俺の小説を読み返すことにした。

「出灰!? 顔、真っ白だぞ……病院、行った方が良いって!」
「……いや、熱とかないし。ちょっと、寝不足なだけだから」

 翌朝の日曜日。真白は俺を見て、悲鳴のような声を上げた。そして叫びこそしないが、一茶と奏水も気づかうようにこっちを見ている。
(言えない……携帯小説読んで、徹夜したなんて)
 秘密は墓場まで持っていくことにして、自分の話を読んで気がついたことがある。
(刃金さんをモデルにしたキャラの人気が、ダントツ)
 次点は俺様会長とチャラ男会計、あと番外で会長親衛隊のチワワだよな……って、そうじゃなくて。
(きっかけは、相変わらず解らないけど……うん、俺、刃金さん好きだわ)
 改めて読んでみるとこの主人公、王道転校生や生徒会メンバーには基本、受け身だけど不良のボスに対しては『応援したい』とか『甘やかしたい』とか思ってんだよな。いや、実際、俺が思ったから書いたんだけど。
(結構、あれ露骨じゃないかな? 桃香さんや一茶の反応とか、コメント見てて総受け話かと思ってたけど。これって、主人公……俺の、片想い日記?)
 ジャンルを、ノンフィクションにするべきか――いや、問題なのはそこじゃない。
 流石に、刃金さんも俺を想ってくれてるのは解るけど。刃金さんの進路を聞いた今となっては、片想いだと思ったまま『高校時代の甘酸っぱい思い出』にするべきだと思う。
(……いや、まあ、昨日の俺の不審な行動で嫌われたかもだけど)
 そう思った瞬間、また胸が苦しくなった。とは言え、病気じゃないのは俺が一番よく解ってる。

「昨日は悪かったな。遅くなったけど、今から朝飯作るから」
「「「えっ!?」」」

 ……本当に病気じゃないんだが、真白達には止められて寝ているように言われた。冷凍していたご飯を温められ、作られたお茶漬けまで出されては断れない。
(そんなに、顔色悪いのか……仕方ない)
 自分では大したことないと思うけれど、確かにお茶漬けを食べたくらいで胃が痛むのは少々、まずいかもしれない。そんな訳で、俺は三人の好意に甘えて寝ることにしたのだが。
(これから……小説、どうしよう?)
(今回の刃金さんとのこと書いたら、桃香さんに強制的にくっつけられそうだし)
(クリスマスイベントとかをやって、卒業式にごめんなさいして……ラストはやっぱり、国外逃亡にするか)
(って言うか、今は無理でも卒業したら俺も……ネットは魅力的だけど、逆に見つからないようにだと東南アジアかな?)

 寝不足のせいもあり、思考が暴走していることに俺は気づいていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

学園生活は意外と大変

白鳩 唯斗
BL
毎年恒例の親族達の日帰り旅行で、事故が起きた。家族を全員失った魁星は、葬式に参加する。 そこで、唯一生き残った親族、はとこの雪人の存在を知ることになる。 権利争いが起きないようにと、魁星が雪人を養子に迎えることになり、父親になってしまう。 15歳の魁星は高校に通いながら、6歳のはことの面倒を見ることになる。 面倒見の良い優しい主人公です。 シリアスは少なめかもしれません。

ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)
BL
アシェルはオルシア大国に並ぶバーチェラ王国の侯爵令息で、フィアナ王妃の兄だ。しかし三男であるため爵位もなく、事故で足の自由を失った自分を社交界がすべてと言っても過言ではない貴族社会で求める者もいないだろうと、早々に退職を決意して田舎でのんびり過ごすことを夢見ていた。 しかし、そんなアシェルを凱旋した精鋭部隊の連隊長が褒美として欲しいと式典で言い出して……。 静かに諦めたアシェルと、にこやかに逃がす気の無いルイとの、静かな物語が幕を開ける。 「望んだものはただ、ひとつ」に出てきたバーチェラ王国フィアナ王妃の兄のお話です。 このお話単体でも全然読めると思います!

王道学園と、平凡と見せかけた非凡

壱稀
BL
定番的なBL王道学園で、日々平凡に過ごしていた哀留(非凡)。 そんなある日、ついにアンチ王道くんが現れて学園が崩壊の危機に。 風紀委員達と一緒に、なんやかんやと奮闘する哀留のドタバタコメディ。 基本総愛され一部嫌われです。王道の斜め上を爆走しながら、どう立ち向かうか?! ◆pixivでも投稿してます。 ◆8月15日完結を載せてますが、その後も少しだけ番外編など掲載します。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

処理中です...