灰かぶり君

渡里あずま

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演説、そしてその結果2

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「先輩と一緒に、生徒会で頑張ろうって思ったのに……中夜君、辞退して!」
「冗談。むしろ、お前が辞退しろ。先輩は、俺が支えるんだ」
「……赤嶺様、中夜様」

 ステージ上で、言い合う二人に挟まれながらさて、と俺は考えた。
(だから、お前らが辞めてどうするんだよ)
 そうツッコミを入れたいんだが、生徒の前でやるとますますカオスになりそうな気がする。
 最初のランキング結果に戻るだけだろう、と思うんだがこいつらは俺にいて欲しいらしい。とは言え、一年一人だと来年が大変だろうし(一応、カードで入れるけど)一般生徒は生徒会への出入りは基本、禁止だし。
(写真とか人形で、ごまかされてくれないかな?)
 ちょっと逃避気味にそんなことを考えていたら、かー君がマイクを手にステージに上がってきた。そして俺達三人ににっこり笑うと、生徒達へと向き直って。

「会計への立候補を辞退したりぃ君を、庶務に推薦したいと思いまーす……あー君とみー君も二人で庶務だったから、ありだよねー?」
「…………は?」
「体育祭の時の、りぃ君の働きは見てくれたよねー? だから皆、大船に乗った気で投票してねー?」
「ちょっ」

 勝手なことをチャラ男口調で言い放ったかー君を、慌てて止めようとしたけど――次の瞬間、体育館に黄土色の大歓声が上がって、俺は思わず耳を塞いだ。
(油断した……俺の演説で、うるさくなるなんて思わなかったから)
 罵声の可能性もあったんだから、万全を期して耳栓をしてくれば良かった――耳を塞いだまま、俺はそう反省した。

「うん、それなら……負けないからね、中夜君っ」
「こっちの台詞だ」

 だから一年二人が、やっぱり勝手に俺を巡って張り合ってることには気づかなかった。



 投票の集計は、より公平にって理由で風紀委員が行うことになった。演説を終えた俺達は一年二人も誘って、結果が出るまで生徒会室で待つことになった。
 労いの意味を込めて、紅河さんがケータリングを用意してくれたけど、そのお礼が俺の作ったサンドイッチって辺り、申し訳ない気持ちになる(作ったけど)

「待て」
「……はい?」

 声と呼びかけを聞いて、もしや、と思ったけど――振り向いた先には、やっぱり風紀委員長がいた。

「やろう。食後にでも食べろ」

 そう言って差し出されたのは、どら焼きだった。

「ありがとうございます、風紀委員長様」
「待て。今の私はもう、委員長ではない」

 お礼を言って頭を下げると、風紀委員長に制止された――そうか、三年だから風紀委員長も引退してるんだ。

「失礼しました、石見いわみ様」
「すまないが、名前で呼んでくれ」
「えっ? ……草薙くさなぎ様、ですか?」
「いや。それも、周りと同じになるからな」

 謝って訂正したが、苗字だけでなく下の名前まで却下されたのには驚いた。おいおい、それなら何て呼べと?

「マリア、と呼んでくれ。私の、ミドルネームだ」

 そんな俺に風紀委員長、もといマリアさんはそう言った。髪や目の色が明るいとは思ってたけど、そうか、ハーフだったのか。

「「マリアって、女の子の名前だよね?」」
「外国だと洗礼名をつけたり、それを代々使うこともあるから、男女関係ないぞ」
「「そっかー」」
「……把、握」
「って、そこじゃなくて! 問題は元風紀委員長が、りぃ君からの呼び方にこだわるところだよね!?」

 空青と海青からの疑問に答え、双子と緑野が頷いてる(何か、ちょっと一茶の影響を感じた)と、チャラ男口調をやめたかー君が抱き着いてきた。そして、マリアさんを睨みながら言葉を続ける。

「りぃ君は、渡しませんから!」
「……渡すも何も、谷はそもそも物じゃない」

 淡々としたマリアさんの正論に、かー君がグッと言葉に詰まる。そんなかー君に、無表情なままマリアさんは口を開いた。

「確かに、私は谷が好きだ。だが私は好きな相手が健康で、美味しそうに物が食べられているのならそれで良い。それ以上を望んだら、キリがないからな」

 ……流石、マリアさん。名前通りの無償の愛アガペーっぷりだ。

「解りました、マリアさん」
「りぃ君!?」
「かー君だって『かー君』だろう? あ、俺のことも好きに呼んで下さい」

 抗議の声を上げるかー君を宥めながら、俺はマリアさんに言った。うん、転校当初ならともかく、名前くらいと思ったんだけど。

「そうだな……可愛い宝物テゾリーノ?」
「すみません、名前の範囲内でお願いします」

 まさかの呼びかけに、俺は前言撤回した。何でもマリアさんは、イタリア人とのハーフらしい――なるほど、どうりで情熱的な訳だ。



 マリアさんの登場により、生徒会室ではかー君達、そして俺達を待っていた紅河さん達に問い詰められた。とは言え、腹が減ったんで俺は紅河さんにサンドイッチを渡し、かー君達にこう言った。

「お腹と背中がくっつきそうです。話は、食べてからじゃ駄目ですか?」

 用意してくれたお弁当だから、話が先だって言うなら我慢するけど――空腹への切実さが通じたのか、黙って貰えたんで俺は頭を下げ、黙々とケータリングのお弁当を食べ始めた。
(((ハムスターみたいで、可愛い(ですね))))
皆の心は一つになっていたらしいが、当の俺は天ぷらや筑前煮に夢中になっていて気づかなかった。

 そんなまったりムードの後、体育館に戻った俺達の名前の下には全員、赤い花が飾られていた。俺だけ違う色じゃないから、当選ってことだよな?
 全校とまでは言えなくても、生徒からの意志なら後は頑張るだけだが――声に出さずに、俺は言葉を続けた。

(……桃香さんと、今後の方針についてちょっと話すか)
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