灰かぶり君

渡里あずま

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デートはどこまでお約束で?3

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「何、観ようか」

 なんて考えているうちに、映画館に着いた。入り口の前、上映予定を見てふむ、と俺は考えた。
 ちょうどすぐ、観られるのは三つ。
 一つは、海外のラブコメディ。
 もう一つは、日本の刑事ドラマの映画化。
 ……そして、あと一つは。
(ライバンの映画か)
『Lion&Bambi』。かー君の大好きな、アニメの劇場版だ。おもてなし、と考えるならここはこのアニメを選ぶべきなのかもしれない。
(でも、なぁ……)
 好きとは言え、いや、逆に好きだからこそ同じベクトルで好きじゃない相手と観るのはどうなんだろう?
 そうなると一応、好きな相手と観るってことでラブコメディか――だけど、男子高校生二人で観るのってどうかな?
(そうなると、このドラマの……んー、でもチョイスとしてちょっと渋いか?)
 そんなことを考えていたら、ツンッと右頬をつつかれた。

「?」
「また、固まってた……どうしたの? 観たい映画、なかった?」
「……いや、かー君はどれが観たいかなって」
「そこで、ライバンにはならないの?」
「アニメをちゃんと観てない俺が、観て良いのかなって」

 俺の言葉に、かー君が軽く目を見張る。
 そしてにっこりと笑うと、さっきつついた頬を撫でてきた。

「りぃ君の、そう言う真面目なところ、好きだなぁ」
「……?」
「でも、りぃ君がどうこうじゃなくて……俺、もう上映初日に観てるんだ。ごめんね?」
「そうか」
「うん、限定コラボキトンちゃんもゲットしたよ♪」

 そう言ったかー君が指差したのは、俺が「渋い」と思っていた刑事ドラマの劇場版だった。

「そんな訳でこれ、観ない?」
「解った。好きなのか?」
「うん。あとこのドラマって、レギュラーキャラの一人がゲイ設定なんだよね」
「……最近のドラマ、すごいな」

 思わず感心した俺の頬を、指差すのに離したかー君がまた撫でてきた――何だ、気に入ったのか?

「んー、スベスベしてて手触り最高♪」

 気に入ったらしい。そして、俺の(かー君的な)チャームポイントは性格と手触りなんだろうか?
(そう言えば、刃金さんにも頭撫でられるしな)
 そんなことを考えていた俺とかー君に、通り過ぎる人達がギョッとしたように振り向いていた。



 それぞれジュースと、あと二人で食べるのにポップコーンを買って俺達は映画を観た。
 毎回かかさず視聴って訳じゃないけど、何となく設定やメインキャラくらいは知っている。そして、篭城事件に対しての意外な行動(まさか、ロープでビルを降りるとは)や、かー君お勧めのキャラともう一人の主人公とのシャワーシーンに驚いた。何だろう、サービス(腐向け)なんだろうか?
 少し戸惑うこともあったけど、映画は面白かった。パンフレットも買ったし、今度、ドラマも観てみようと思う。
 そしてポップコーンは食べてたけど、昼飯は別腹で。

「ここ、とかどうかな」

 少し悩んだけど、そもそもかー君が好きな食べ物とかが解らないのでファミレスを選んでみた。入る前、一応確認した俺にかー君が口を開く。

「俺、こういうところ来るの久しぶり」
「……やめとくか?」
「そうじゃなくて! 映画とか本屋行く時は一人だからファーストフードだし。こういう店って、二人以上で来たいでしょ?」

 そうか、金持ちの坊ちゃんは来ないのか――と思ったら、予想と少し違う答えが返ってくる。
 なるほどな、と思っていたらかー君がにっこりと笑って言った。

「だから、りぃ君と一緒に来られて嬉しいよ」

 ファミレスに入った俺達は、それぞれ注文をした。俺は白身魚のグリル膳、かー君はメンチカツ膳を頼んだ。箸で食べられるのって、ちょっとホッとするよな。

「かー君は、あのドラマ観てるのか?」
「うん、元々ゲイ設定でチェックしたんだけど。前々回のシリーズで、部下役が変わった時はすっごい滾った!」

 笑顔で話すかー君に、周りの女性陣の視線が集中する――話してる内容は、聞こえてないんだろうな。俺としては、楽しそうで何よりだけど。

「……りぃ君、楽しい?」
「えっ?」
「何か、目が優しいから」

 どっちがって言いたくなるくらい、優しく笑って尋ねてくるかー君に、俺は目元を押さえた。よく解らないけど、まあ、怒ってるかって聞かれるよりは良いのかな?
 そんな俺に、かー君は何故だかますます嬉しそうな笑顔になった。
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