灰かぶり君

渡里あずま

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策略と思惑と3

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 数日後、結局、俺が会長親衛隊が使ってる教室に持ち込んだのは、オーブン二台に炊飯器二つ、そしてたこ焼き器(寮長から借りた)だった。
 文化祭当日は、教室の隅でケーキを作ることになる。とりあえずはこれらを駆使して、どれくらいの時間で作れるか。それからチワワ達には言わないけど、これだけ調理器具を使って停電しないか確認したかったからだ。

「よっ、お前らが出灰のファンクラブか!」
「可愛いチワワ、ご馳走様ですっ」
「……真白、一茶。何か怯えてるみたいだから、自重して」
「大丈夫です。ちょっとテンションは高いですけど、怖いことはしませんから」

 一人では運びきれなかったんで、真白達に調理器具を運ぶのを手伝って貰った。
 普段、虐げられているせいかチワワ達がビクビク……って言うか、プルプルしていたんで奏水が二人を、そして俺はチワワ達を宥めた。
 そして、セットしたオーブンや炊飯器でケーキを焼いてみたが……結論として、停電はしなかったけど全部を駆使して同時進行は無理だった。
 一度にやろうとしたけど、泡立てた卵がどうしてもだれる。これじゃあ、焼いた時に膨らまない可能性が高い。時間をずらして、材料投入までは集中してやった方が失敗しないだろう。

「まあ、プロじゃないしな」
「えっ? こんなに美味いのに!?」
「そういうことじゃないでしょう……いっそ、テーブルの数少なくしたら?」

 シフォンケーキやガトーショコラ、あとたこ焼き器で作ってみたドーナツ(全部、ホットケーキミックス使用)を皆で食べてると、隊長がそう提案してくれた。

「当日は、洗い物も入るでしょう? あんたが大変だけど、テーブル少なくすれば調理室と行き来しても何とかなると思うけど」
「隊長様、詳しいですね!」
「……僕の家、元々は喫茶店だから」

 一茶が褒めると、隊長は照れて赤くなった。うん、一茶が目輝かせるのが解るくらい可愛い。

「今はちゃんとチェーン店で、全国展開してるんだからね! そうじゃないと、白月には通えないでしょう!?」
「そうですよね、ありがとうございます」
「べ、別に……」

 照れ隠しか声を上げた隊長にお礼を言うと、プイッとそっぽを向いてしまった。うん、でも嫌われてはいないと思う。
(アドバイスしてくれたし、会長の名前呼びも許してくれたしな)
 様付けするつもりだったが「紅河様がいいって言ったら別に」と言ってくれた。そんな訳で、会長のことは『紅河さん』って呼ぶことになっている(会ってないんで、あくまでも予定)

「調理室使うなら、冷蔵庫も使えば?」
「だったら、ロールケーキ作れない? 美味しいし、見栄えも良いよね」
「作れます……委員長に、冷蔵庫使えるか聞いてみますね。ありがとうございます」

 流石、女子力の高いチワワ達だ。ありがたく思ってお礼を言うと、隊長同様にツンッてなった――えっと、可愛いだけですよ?



 教室には、丸テーブルを三つ。
 食器やテーブルクロスは、一日だけなんで百均で用意することにした。

「ゆったりとした店構えをイメージしました。これだと皆様への負担も減って、文化祭も回れますよね?」

 嘘も方便。とは言え、元々が俺への無茶ぶりなんで駄目元で言ってみたら――そもそも手伝う気がなかったのか、あっさりとOKが出た。はいはい、せいぜい頑張りますよ。

「……ただ、お前らと委員長には負担でかいよな。悪い」

 結局、接客は真白達、そして委員長が担当してくれることになった。
 って言うか、俺への嫌がらせでこいつらにまで迷惑かけるなよ……でも、コスプレ以前に接客までは手が回らないんで、今回はお願いするしかない。

「気にすんなよ、出灰!」
「俺的には、真白と奏水のメイドが見られて満足だからっ」
「一茶……うん、でも気にしないでいいよ? 逆に、これくらいしか手伝えないからさ」
「……俺も。ごめんね、谷君」

 何て言うか、委員長が恐縮してて本当、こっちが申し訳ない。他の三人には埋め合わせが出来るけど、委員長には何をどうお返しすればいいんだろう?

「謝らないで下さい、委員長……あの、今回俺のせいで本当に迷惑かけてるんで。何か出来ることないですか?」
「そんなっ、そもそも俺が押し切られちゃったからだから……谷君こそ、気にしないで?」
「……委員長」

 天使だ、天使がいる。
 金持ちの坊ちゃんにも、こんなに良い奴がいるんだなと感動していたら「あ」と委員長が声を上げた。

藤郎ふじお
「えっ?」
足利藤郎あしかがふじお。せっかく、こうして話せるようになったから。委員長じゃなく、名前で呼んで貰う……って言うのは、駄目かな?」
「駄目じゃないです」
「あ、敬語も無しね」
「……解った」

笑顔でそう言った委員長……藤郎に、俺は頷いた。

「えっ!? 何で出灰、あんな素直に!?」
「うわぁ、やるなぁ、委員長」
「無欲の勝利だよね」

そんな俺達のやり取りを見て、真白達がそう話していたことには気づかなかった。
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