灰かぶり君

渡里あずま

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恋心は下心3

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「……俺の部屋に、作りに来ればいいのに」
「駄目に決まってるだろ!?」
「俺的には、それもアリなんですけど……すみません、今日は真白の顔を立てて頂けませんか?」

 遊園地から帰ってきての、夕飯。部屋に届けよう(作って二人きりになるのは避けるとして)と思ってたが、行きと違って俺にベッタリな会長を見て真白が吠えた。
 そんな訳で、どちらにしても煩いので会長に部屋に来て貰ってる。そして拗ねる真白を見て、一茶が腐った本音を交えつつもフォローしてた。

「出灰……大変だね」
「ありがとな。これ、土産」
「……ありがとう」

 労いの言葉をかけてくる奏水に、遊園地で買った煎餅を渡した。ナムルとかが好きなら、甘いものよりこっちの方が良いかなって思ったからだ。
 それは正解だったみたいで、奏水は嬉しそうに笑って受け取ってくれた。その笑顔に和みつつ、夕飯を用意して持って行くと――共有スペースが、いつもの美形(真白達)に会長が加わっていっそ無駄なくらいキラキラしてた。
(このキラキラが、実際の照明として役立てば節電出来るのに)
 まあ、ここの学校の生徒で光熱費とかに気を配るようなのはいないんだろうけど。
 何てことを考えながら、俺は作ってきたハンバーグを皆の前に並べた。弁当のおかずを作った時、ひき肉があったから一緒に作っておいて良かった良かった。

「……俺と紅河の、一茶達と違う?」

 そのハンバーグを見て、真白が首を傾げる。
 そう、一茶と奏水は大葉と大根おろしの和風ハンバーグにしたけど、真白と会長のはトマトソースの上にチーズを乗せたイタリアン風にした。二人ともお子様舌だからな。

「会長様、まだ食べちゃ駄目ですよ……いただきます」
「「「いただきます」」」
「……いただきます」

 食べようとした会長を止めると、真白達の後、少し遅れて会長もそう言った。
 今は三人も、俺に合わせてちゃんと言うけど――俺とこうして、一緒に飯を食うまでは「いただきます」を言ってなかったらしい。
(一茶と奏水は寮生活長いし、真白も……一人で食うのが、多かったらしいからな)
 さて、会長は「ごちそうさま」を言えるのか。そこまで考えて、俺はふと思いついた。

「会長様? 飯食わせるのは約束しましたけど、毎日だとむしろ会長様が時間合わせるの難しいですよね? 週一とか、都合の良い時にメールくれるとかにしませんか?」
「……それ、やめろ」
「えっ?」
「役職呼び」

 驚いて会長を見たら、ハンバーグを完食していてまた驚いた。って、食うの早いな。

「ピーマン入れてないんですから、つけ合わせの野菜も食べて下さいね。足りなかったです? もう一個、食べますか?」
「今度は、目玉焼き乗せろ……って、そうじゃなくて」

 ハンバーグ、多めに作っておいて良かった(これで無くなるけど)と思ってたら、会長に訂正された。とは言え、俺にも言い分がある。

「親衛隊の方々に、許可を取ってからにします」
「……あぁ?」
「だって好きな相手のこと、勝手に名前呼びしたら嫌な気分になるでしょう?」

 まあ、ないと思うけど。性格良いし、そもそもチワワ達も『紅河様』呼びしてるしな。
(あ、様付けはしないと駄目かな?)

「……俺が、呼べって言ってるのに? 制裁が怖いなら」
「違います。あの方達はそんなこと、絶対にしません……ただ、これから飯作るんだからちゃんと筋を通したいだけです」

 チワワ達に対して、変な誤解をされたら困るのでキチンと否定した。そんな俺に、軽く目を見開くと――何故だか嬉しそうに、会長が笑う。

「約束、だからな」
「……? ええ、そうですね」
「さっきの話だが……確かに、週明けから文化祭準備が始まるからな。忙しくなるから、食いたくなったら連絡する」
「はい」

 会長の言葉に頷いてから、俺は一茶を見た。そんな俺に、一茶が裏ピースをして高らかに答える。

「王道学園らしく、素敵出し物が盛り沢山♪ 去年のうちのクラスは、劇だったよっ」
「プリンセス達が、王子の一茶を取り合う話だったね」
「魔法使いの奏水も可愛かった! そして、俺って言うのが残念だったけどチワワ達は可愛かったよ!!」

 そっか、女装がまかり通るのか――まあ、チワワ達は可愛いしな、うん。

「出灰のお姫様も、可愛いと思うぞ!」
「……こういう時は、お前がお姫様になると思うぞ、真白」

 そして真白の言葉をやんわり否定し、俺はハンバーグと目玉焼きを作る為にキッチンへと向かった。
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