灰かぶり君

渡里あずま

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王子様の裏の顔3

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「出灰君、まだまだね。ヤンデレはずばり病み、沙黄君なんて可愛いものよ」

 かー君が帰った後、新しい小説の流れ(と言うか、今までの俺が体験したネタ)を書き出して。桃香さんに、さっきのヤンデレの件と一緒にメールすると――すぐに、電話が震えたんで受話器ボタンを押した。
(可愛い……?)
 首を傾げる俺に対して、かー君を本名で呼びながら桃香さんが話を続ける。

「沙黄君がヤンデレなら『りぃ君に何かあったらその相手ぶっ殺して、ついでにこれからしそうな可能性のある奴もぶっ殺して。あぁ、もう心配だから白月の生徒も先生も全員ぶっ殺して。そうしたら、俺は安心してりぃ君を白月で過ごさせてあげられるよ、ウフフ』って感じになるわね」
「……そこまで?」
「そうよ。ま、それはそれで似合いそうだけどね」

 アッサリととんでもないことを言う桃香さんに、俺はちょっと途方に暮れた。えっ、それどこのサイコパス? ヤンデレ、恐るべし。

「って言うか、出灰君! 不良君のことは聞いてたけど……一週間で六人落とすなんて、どれだけ凄腕なの!?」
「すご……いや、そもそも落とすつもりなかったですし」
「まあ、沙黄君は昔からだけどね。自分で言うからって、口止めされてたけど……愛されてるわよね、出灰君」
「しみじみ言わないで下さい」

 知ってたら、転校しては来なかった――いや、でもかー君のあの調子ならいつかは再会してたかな?

「そう言えば、沙黄君はデートイベントには参加するの?」
「あ、はい。自分の親衛隊長に指名させたそうです」

 浮気じゃないとか、ギブアンドテイクだとか言ってたけど、腐仲間とかなのかな?
 あ、腐で思い出したけど一茶は何と緑野とペアを組んでいた。何でも俺が気絶した後、タッグを組んだ真白と刃金さんを見て、緑野から(腐ってはいるけど)無害な一茶に申し出たらしい。
(「遊園地イベントの鑑賞チケットゲット! 腐男子、オープンにしてて良かった~」とか浮かれてたよな……羨ましい、ポジション変われ)
 最近の王道学園物だと、腐男子受けが流行だろうと思うんだが。
 ちなみに空青と海青、そして副会長はそれぞれ逃げきった生徒に指名されてデートイベントに参加。奏水は、誰も捕まえなかったんで参加せず、寮でのんびりするって言ってたな。
(何か、土産でも買って帰るか……男にマスコット系とかだと微妙だから、またお菓子かな?)
 そこまで考えて、俺はあることに気がついた。

「すみません、桃香さん」
「えっ?」
「俺、せっかくの遊園地イベントなのに……会長とのデート、全然楽しみじゃありません」

 話を書くに当たって、絶好のチャンスだって言うのに――嫌でこそないが、まるで興味が湧かない。周りばかり気になるのが何よりの証拠だ。
(本当、何で俺なんて助けたんだろう?)
 副会長にフォローされた時も驚いたが、まだきっかけと言うか理由があった。しかし、会長とは食堂くらいしか接点がなかった、筈だ。

「嫌いな奴でも放っておけない、実は良い奴なんでしょうか? 劇場版耳無し猫型青白ロボットアニメでの、いじめっ子みたいに?」
「うん、解りやすいたとえね」
「そもそも今までは、真白の相手だと思ってたから頑張って関わってたんですよね……桃香さんにもスゴイって言って貰えたから、もういいですよね?」
「え、駄目」
「総受けなんて、無理ですよ。人間、万人に好かれるなんて無理ですから」
「本音をぶっちゃけるのは良いけど、やる前から諦めちゃ駄目よ出灰君」
「……駄目、ですか」

 思わずため息をついてしまった俺に、桃香さんは言った。

「むしろ私は、そこまで出灰君が抵抗したことが興味深いわ……考えてみて? どうしてそこまで、会長君と関わりあいたくないのかって」



 電話が終わった後、俺は桃香さんに言われた通りに考えてみた。

「金持ち、イケメン、非常識、変質者、主に下半身に節操がない」

 以上、会長について。うん、指を折って数えてみたけど関わりあいたくない要素満載だ。
(とは言え)
 金持ちとイケメンについては(一部、可愛い系もいるけど)刃金さんとか緑野、かー君もだし。非常識と変質者とくれば副会長だけど、借りは返そうとする律義なところはある。
そして、下半身に節操がないのは。
(チャラ男会計のかー君も「俺は、りぃ君一筋だからねっ!?」とか言ってたし)
 つまり、噂は当てにならないって言うことだ。

「……ちょっと、リサーチしてみるか」

 確かに、食わず嫌いは良くないし。本当に駄目な奴だとしたら、全力でスルーすればいい。
 動機がちょっと後ろ向きな気もするけど、とりあえずこうして土曜日までの方針は決まった。
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