灰かぶり君

渡里あずま

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誰か嘘だと言ってくれ3

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『王道君が攻めになりました。すみません。俺にはもう、あいつを主人公にした王道学園物は書けません』

 カオスな状況を打破する為、一茶以外には解散して頂いて。自分の個人スペースに引きこもり、俺は桃香さんへとメールした。
 隠して創作するって選択も、あるかもだけど――流石に、俺への気持ちを無視するのも気が引けるからな。
(没にはなったけど、公開する前で良かったって言えば良かったかな)
 一度、読んで貰った小説を修正ならまだしも、非公開にするのは寂しい。
 あと、俺は悪くないけど一応、金持ちの坊ちゃん相手に騒ぎを起こした訳だから――ケジメとして、学校をやめるべきなんだろう。
 そもそも、この学校に通うきっかけが小説(ってか体験記)を書くことだ。真白が少し心配だけどチワワを見る限り、この学校なら退学までにはならないんじゃないかな?
そんな俺のガラケーが、ブルブルと震える。
 最初はメールだと思ったけど、ずっと震え続けてるのを見て電話だって気づく。ちょっと出るのにためらったけど、学校のことを話さなくちゃって思ったから通話ボタンを押した。

「…………誰?」
「えっ?」
「王道君が攻めになったんでしょう? じゃあ、誰が受けになったの?」
「……俺、です」

 痛いところを突かれて、俺は困った。だけど、言わないとやめる話も出来ないと思ったんで渋々、答えた。

「平凡受け、キタ━━━(゜∀゜)━━━!!」
「っ!?」

 受話器の向こうで叫ばれて、俺は咄嗟に耳を離した。顔文字つきだったのは、絶対に気のせいじゃないと思う。

「もう、メールで深刻そうだったから心配したけど……安心したわ、頑張ってね出灰君」
「え、いや、あの……俺にはもう、王道転校生総受けの話は書けなくて」
「何言ってるの。出灰君も、転校生でしょう? そして平凡受けも十分、王道よ!」
「あの、でも……そう! 俺、ここの生徒とトラブル起こしたんで……これ以上、ここにいるのは難しいんじゃないかと」
「……私が聞いてる話だと、むしろ出灰君がいないと困る気がするけど?」

(えっ、聞いてる話って誰から何を?)
 引っかかった俺に構わず、桃香さんは言葉を続けた。

「出灰君? 王道君が病んじゃう話って、読んだことある?」
「……あります、けど」

 主にアンチな王道転校生は、自分の信望者が他の相手に走った時、あるいは自分の想いが惚れた相手に届かない時に病む。病んで、暴走してしまう。
 嘘をついて相手を孤立させたり、束縛したり。挙げ句の果てに暴力や強姦、拉致監禁に走ったりと下手なDV男も真っ青だ。

「出灰君が退学なんてしたら王道君、間違いなく病むわよ」
「はっ!? いや、まさか、真白に限ってそんな」
「言い切れる? 王道君は、良くも悪くも真っ直よ?」
「そ、れは」

 反論に勢いが無くなったのは、俺と会うまでは別に男が好きな訳じゃなかったからだ。それが、約一週間で男の俺にほぼプロポーズな告白――うん、確かに良くも悪くも真っ直だ。
(悪い、真白。フォローしてやれない)

「白馬も、むしろ王道君を庇ってくれてありがとうって言ってたわ。だから、出灰君は無罪放免! まあ、元々が被害者だから、泣き寝入りする必要ないけどね」

 心の中で謝ってると、桃香さんが高らかに言い放った。あ、もう理事長に話通ってるんだ――じゃあ、真白のことなんかも理事長から聞いたのかな?
(でもこれ、外堀ガッチリ埋め立てられたとも言うよな)
 退学出来ないんであれば、小説を書くしかないんだろう。需要があるのか不明だけど、俺みたいな平凡を主人公にして。
(総受けまでいかないけど、刃金さんと双子庶務、あとワンコ書記にも告白されてるし……不可抗力だけど、バ会長とデートするし)
 ただ、俺にはどうしても桃香さんに言っておきたいことがあった。

「俺、シンデレラって色々、大変だったって思うんですよね」
「……出灰君?」
「俺と違って美人ではあるけど、平民で。結婚なんて考えてなかったのに、王子様に見初められて……めでたしめでたしの後、すごく苦労したと思うんですよ」

 そこまで言って、一旦言葉を切って。
 黙って話を聞いてくれている桃香さんに、俺は先を続けた。

「今でも十分、巻き込まれてるかもしれませんけど……男同士ってだけでも大変なのに、生まれ育った環境とか価値観の違いって、大きな障害じゃないですか」
「……そうね」
「そう言うの全部、飛び越えられないと俺は王子様の手なんて取れませんよ? 最悪、選ばないで話が終わるかもしれない。そんな主人公で、本当にいいんですか?」
「勿論」

 そう尋ねた俺に、桃香さんはキッパリと即答した。そして、編集者失格だけどって笑って言葉を続けた。

「最初、新シリーズってことでお願いしたけど……書籍化関係なく、出灰君の本音を聞きたくなったわ」
「桃香さん……」
「あなたは趣味で書いていた時から、人に読ませることを意識していたけど……今回は体験記だから、出灰君の思った通りに書いてみて?」
「……はい」

 俺が頷くと、電話の向こうで桃香さんが面白がるんじゃなく、楽しそうに言った。

「嫌だったら、ガラスの靴を持って逃げて。覚悟を決めたら、魔法が解けても王子様の腕に飛び込んでね……期待してるわよ、灰かぶり君?」
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