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残念だな3
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真白達への土産にマカロンを買い、俺達は洋食屋を後にした――その後、再びバイクに乗ってやって来たのは。
「海、ですね」
「だな」
目の前に広がる、水平線――とは言え、砂浜のある海水浴場じゃなく倉庫が並ぶ埠頭だ。まあ、まだ水遊びって季節でもないんで、ただ海を見るだけなら十分だと思う。
(人もいなくて静かだしな)
そこまで考えて俺は質問って言うか、話をするなら今じゃないかって思った。
「……確かに、おれは安来さんのこと怖くないですけど」
「ん?」
「これだけ優しくされて、逆に怖がる方が失礼じゃないですか? あと、動じない俺を面白がってるかもしれませんけど、それこそいつあなたのことを意識するか解らない。そうなったら、珍しくも何ともないでしょう?」
一気に尋ねた俺に、安来さんが軽く目を見張る。けど、すぐにハ、と笑って。
「何の説教だ?」
「安来さんがその気になれば、俺みたいなのはたくさんいるんで目を覚まして下さいってことです」
「……いるかよ」
本当のことを言ったのに、何故か否定されてしまった――更には正面から抱き締められて、さて、どうしようかと思う。
「お前みたいな奴、他にいない」
「その根拠は?」
「この状況で、まだ言うか……おれは、怖がられるだけじゃない。媚びてくる奴も多い。なのにお前は、どっちでもない……おれに対して、まるで無関心だ」
えっと、惚れた理由が生徒会みたいに『自分を見てくれた』じゃない(むしろ真逆)ってことか? ただ、無関心って言うのは心外だと思う。
「俺、安来さんの恋を応援したかったくらい、好きですよ?」
「……だったら、おれとつき合えよ」
「それなら尚更、おれがいつか安来さんを意識するようになったら、つまらなくなるでしょう?」
「むしろ、しろよ……させたい」
そう言うと、安来さんは抱き締める腕に力を込めてきた。おかげで少し、爪先立ちになるくらいに。
(残念だな)
こう言うシチュエーションは女の子か、せめて可愛い男の子とやるべきなのに。そうだったら俺は、素直に応援出来るのに。
「……今は?」
そして安来さんは、俺の『過去形』に気づいたみたいだ。
「応援は全く出来ませんし、安来さんの気持ちに応えることも出来ません」
「好きでいるのは、いいんだな?」
「……止めるべき、なんでしょうけどね」
そう、こんな平凡庶民に引っかかってないで素敵な彼女や彼氏を見つけて欲しい。
だけど、こうして抱き締められてると安来さんの気持ちが解るから、踏みにじることも出来ない。困ったことに、それくらいは俺、安来さんのことが好きなんだ。
(だからって、ほだされて付き合うとかは出来ないけど)
BLである展開だけど、流石にそこまでは好きじゃない。そう思ってたら、ボソリと安来さんが呟いた。
「クソ……嬉しいのが、ムカつく」
……あぁ、また安来さんのイケメンぶりが無駄に大盤振る舞いされている。
安来さんの腕の中でそんなことを考えてる辺り、俺と安来さんの気持ちは完全に平行線なんだって思った。
※
告白を断ったんで、埠頭で解散も覚悟した。
だけど、安来さんは紳士だった。ちゃんと俺をバイクに乗せてくれて、学校まで送ってくれた。
「夕飯、良かったのか?」
「はい、真白達が待ってますから」
食材なんかはあるけど、ちょっと買いたいものがあるんでコンビニに寄ることにした。
ヘルメットを渡し、頭を下げると安来さんが無言で撫でてきた――これはすっかりデフォルトか、そうか。
「……名前」
「え?」
「お前が下の名前呼ばれるの、苦手なら……代わりに、おれのことは刃金って呼べ」
「……刃金、さん」
「おう」
あ、そっか。真白達のことは下の名前で呼んでるからな。
言われた通りに名前を呼ぶと、安来……刃金さんは、嬉しそうに笑った。うん、もうデレ確定ですね。
食べ物も充実してるけど、このコンビニは冷却ジェルシートやドリンク剤、あとちょっとした薬もドラッグストア並にある。
(あれ?)
夜更かしするのに、カフェインドリンクを買おうとしたら先客がいた。
「こんばんはー」
「お疲れ様で、す……」
笑顔で声をかけてくる会計に、挨拶をしながら棚を見ると――目的の、カフェインドリンクが無い。
まさかと思って会計が持ってるカゴを見ると、カフェインドリンクの箱が三個入ってる。
「あ、ゴメンねぇ? 一個いる?」
「……いえ」
俺の目線から気づいたのか、会計が尋ねてくる。それに短く答えつつ、俺はあることに引っかかっていた。
(ドリンク剤までなら、新歓準備で疲れたからとか「流石、チャラ男会計」って思うけど……カフェインドリンクって、ガチすぎるだろ?)
それこそ趣味にしろプロにしろ、創作活動してないと知らないんじゃないか? そう言えば「もう一人、腐男子いるかも」って思ってたよな?
(会計がチャラ男キャラ作ってるのって王道だし。まぁ、腐ってても読み専って可能性は勿論、あるけど)
でも、だけど……悩む俺の横を、会計が通り過ぎる。
「考え込むと無言で固まる癖、変わってないんだね……りぃ君?」
……その呼ばれ方に、俺は驚いて振り向いた。
俺はキャラ的に、ほとんどあだ名や愛称で呼ばれない。だけど昔、一人だけ……そう、幼稚園で一緒だった友達とだけはお互い愛称で呼び合ってた。
『……なら、どうだ?』
『うん! じゃあボクは、りぃ君って呼ぶねっ』
「かー君……?」
レジへと向かう会計の背中を見送りながら、俺はポツリと呟いた。
「海、ですね」
「だな」
目の前に広がる、水平線――とは言え、砂浜のある海水浴場じゃなく倉庫が並ぶ埠頭だ。まあ、まだ水遊びって季節でもないんで、ただ海を見るだけなら十分だと思う。
(人もいなくて静かだしな)
そこまで考えて俺は質問って言うか、話をするなら今じゃないかって思った。
「……確かに、おれは安来さんのこと怖くないですけど」
「ん?」
「これだけ優しくされて、逆に怖がる方が失礼じゃないですか? あと、動じない俺を面白がってるかもしれませんけど、それこそいつあなたのことを意識するか解らない。そうなったら、珍しくも何ともないでしょう?」
一気に尋ねた俺に、安来さんが軽く目を見張る。けど、すぐにハ、と笑って。
「何の説教だ?」
「安来さんがその気になれば、俺みたいなのはたくさんいるんで目を覚まして下さいってことです」
「……いるかよ」
本当のことを言ったのに、何故か否定されてしまった――更には正面から抱き締められて、さて、どうしようかと思う。
「お前みたいな奴、他にいない」
「その根拠は?」
「この状況で、まだ言うか……おれは、怖がられるだけじゃない。媚びてくる奴も多い。なのにお前は、どっちでもない……おれに対して、まるで無関心だ」
えっと、惚れた理由が生徒会みたいに『自分を見てくれた』じゃない(むしろ真逆)ってことか? ただ、無関心って言うのは心外だと思う。
「俺、安来さんの恋を応援したかったくらい、好きですよ?」
「……だったら、おれとつき合えよ」
「それなら尚更、おれがいつか安来さんを意識するようになったら、つまらなくなるでしょう?」
「むしろ、しろよ……させたい」
そう言うと、安来さんは抱き締める腕に力を込めてきた。おかげで少し、爪先立ちになるくらいに。
(残念だな)
こう言うシチュエーションは女の子か、せめて可愛い男の子とやるべきなのに。そうだったら俺は、素直に応援出来るのに。
「……今は?」
そして安来さんは、俺の『過去形』に気づいたみたいだ。
「応援は全く出来ませんし、安来さんの気持ちに応えることも出来ません」
「好きでいるのは、いいんだな?」
「……止めるべき、なんでしょうけどね」
そう、こんな平凡庶民に引っかかってないで素敵な彼女や彼氏を見つけて欲しい。
だけど、こうして抱き締められてると安来さんの気持ちが解るから、踏みにじることも出来ない。困ったことに、それくらいは俺、安来さんのことが好きなんだ。
(だからって、ほだされて付き合うとかは出来ないけど)
BLである展開だけど、流石にそこまでは好きじゃない。そう思ってたら、ボソリと安来さんが呟いた。
「クソ……嬉しいのが、ムカつく」
……あぁ、また安来さんのイケメンぶりが無駄に大盤振る舞いされている。
安来さんの腕の中でそんなことを考えてる辺り、俺と安来さんの気持ちは完全に平行線なんだって思った。
※
告白を断ったんで、埠頭で解散も覚悟した。
だけど、安来さんは紳士だった。ちゃんと俺をバイクに乗せてくれて、学校まで送ってくれた。
「夕飯、良かったのか?」
「はい、真白達が待ってますから」
食材なんかはあるけど、ちょっと買いたいものがあるんでコンビニに寄ることにした。
ヘルメットを渡し、頭を下げると安来さんが無言で撫でてきた――これはすっかりデフォルトか、そうか。
「……名前」
「え?」
「お前が下の名前呼ばれるの、苦手なら……代わりに、おれのことは刃金って呼べ」
「……刃金、さん」
「おう」
あ、そっか。真白達のことは下の名前で呼んでるからな。
言われた通りに名前を呼ぶと、安来……刃金さんは、嬉しそうに笑った。うん、もうデレ確定ですね。
食べ物も充実してるけど、このコンビニは冷却ジェルシートやドリンク剤、あとちょっとした薬もドラッグストア並にある。
(あれ?)
夜更かしするのに、カフェインドリンクを買おうとしたら先客がいた。
「こんばんはー」
「お疲れ様で、す……」
笑顔で声をかけてくる会計に、挨拶をしながら棚を見ると――目的の、カフェインドリンクが無い。
まさかと思って会計が持ってるカゴを見ると、カフェインドリンクの箱が三個入ってる。
「あ、ゴメンねぇ? 一個いる?」
「……いえ」
俺の目線から気づいたのか、会計が尋ねてくる。それに短く答えつつ、俺はあることに引っかかっていた。
(ドリンク剤までなら、新歓準備で疲れたからとか「流石、チャラ男会計」って思うけど……カフェインドリンクって、ガチすぎるだろ?)
それこそ趣味にしろプロにしろ、創作活動してないと知らないんじゃないか? そう言えば「もう一人、腐男子いるかも」って思ってたよな?
(会計がチャラ男キャラ作ってるのって王道だし。まぁ、腐ってても読み専って可能性は勿論、あるけど)
でも、だけど……悩む俺の横を、会計が通り過ぎる。
「考え込むと無言で固まる癖、変わってないんだね……りぃ君?」
……その呼ばれ方に、俺は驚いて振り向いた。
俺はキャラ的に、ほとんどあだ名や愛称で呼ばれない。だけど昔、一人だけ……そう、幼稚園で一緒だった友達とだけはお互い愛称で呼び合ってた。
『……なら、どうだ?』
『うん! じゃあボクは、りぃ君って呼ぶねっ』
「かー君……?」
レジへと向かう会計の背中を見送りながら、俺はポツリと呟いた。
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