灰かぶり君

渡里あずま

文字の大きさ
上 下
22 / 96

残念だな2

しおりを挟む
「まずは飯、食いに行くぞ」

 後ろに座ると、ヘルメットを被った安来さんは、そう言ってバイクを走らせた。
 初めてのバイクで、緊張しないって言えは嘘になる。ただしばらくすると、何だか楽しくもなってきた。
(スピード落としてくれてるのと、自分で運転してないせいかな?)
 カーブで、安来さんの背中にくっつきながらそう思う――あと、頼れる安心感か?
 桃香さんが泣いて喜びそうだけど、この人を書くって言えばまた俺を主人公にって言われるかもしれない。
(てんはなだと、彼氏出すの難しいし……別の話、書く時かな?)
 ちょっと?不良なイケメンは、腐ってない読者にも人気あるからな――そんなことを考えてるうちに、バイクは目的地らしい店へと着いた。

 バイクが到着した店は大きな窓のおかげで明るくて、木のテーブルの並ぶ寛げる感じの店だった。
(洋食屋って、看板出てたよな……良かった、変に気取った店じゃなくて)
 お互い、普段着(安来さんはシャツ、俺はパーカーで下は二人ともジーンズ)。それでも、金持ちの感覚は解らなかったんで内心、ホッとしてメニューを取ろうとしたけど――その前に、水を運んで来た店員さんに安来さんが言う。

「オムライスとミックスセット」
「かしこまりました。お飲み物は?」
「オレンジジュースと珈琲」

(……えっ?)
 店員さんの前だからって言うより、驚いて咄嗟に言葉が出なかった。そんな俺に(勝手に)注文を終えた安来さんが言う。

「何だ、卵アレルギーでもあったか?」
「……いえ、アレルギーとか好き嫌いはないです、けど」
「じゃあ、おれがおごるからお前は黙って食え」

 そう言われると、頷くしかないんだけど――えっと、この流れだと俺がオムライス食うのか?

「オムライスもモツ煮込みも、美味いんだろ?」
「っ!?」
「けどお前、オムライス食ってないよな」

 それは昨日の昼休み、食堂で俺が言ったことだった。って、何で(昼飯含めて)安来さんが知ってんだ?
(いや、まあ、悪目立ちして噂になってんのかもしれないけど)

「食堂のとは違うけど、ここのも有名だから」
「……はぁ」

 我ながら間の抜けた返事になったのは、好き嫌い以前にしばらくオムライスを食べてないからだった。だって外食はしないし、自分一人の為にわざわざ作らないだろ?
 そこまで考えて、料理の前に出されたオレンジジュースをストローで飲む。
(食べてないから、食わせたくなったってことか? 俺のこと面白いって言うけど、安来さんも十分面白いよな)
 そう思い、目を上げるとこっちを見てる安来さんと目が合った。

「まだ、怖くないか?」
「そうですね、はい」

 返事をしたところで、安来さんが俺を誘った理由らしきもの――怖がらない俺が珍しい、を思い出した。しまった、嘘でも否定するべきだったか?
(けどなぁ、今更怖がっても白々しいし)
 そう思った俺の頭に、ポンッと安来さんの手が置かれる。

「……何でしょう?」
「消毒?」

 いや、俺に聞かれましても。
 さっきの、岡田さんとのやり取りのせいかな――そう思っている俺と、されるがままの俺の頭を撫でる安来さんに、店員さんが「お、おおお、お待たせしましたっ」と声をかけてきた。えっと、動揺しすぎです。

 確か、真白が食べてたオムライスはデミグラスソースで、ご飯の上にオムレツが乗ってるタイプだった。
 安来さんの言った通り、この店のはご飯を包むタイプのオムライスで、かかってるのもケチャップだ。でも食べてないけど多分、同じくらい美味しいと思う。
 安来さんの頼んだミックスセットは、ハンバーグとエビフライ、チキンのグリルが並んでいた。

「ほら」

 俺が見ていると、安来さんがエビフライを差し出してきた。

「自分で取るって言う選択肢は?」
「却下」
「……いただきます」

 笑って断られるのに、仕方なく口を開けて食べた。昼にはちょっと早いけど、チラホラとお客さんはいる。モタモタしてるより、さっさと食べて店を出た方が良い。
(うま……)
 カラッとしたエビフライを味わって、口を開く。

「ありがとうございます、美味しいです」
「だろ?」

 そう言った俺に、安来さんが得意そうな笑顔を見せた。
 そして俺は料理の美味しさと、安来さんの『俺なんかに』振る舞われるイケメン&デレの残念さを、しみじみとかみ締めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

率先して自宅警備員してたら宅配業者に両思い判定されてた話

西を向いたらね
BL
[配達員×実家暮らしニート] ・高梨悠斗 (受け) 実家住みのニート。常に家にいるため、荷物の受け取りはお手の物。 ・水嶋涼 (攻め) 宅急便の配達員。いつ荷物を届けても必ず出てくれる受けに対して、「もしかして俺のこと好きなのでは…?」となり、そのままズルズル受けの事が好きになる。 反応がよければ攻め視点も書きます。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

矢印の方向

うりぼう
BL
※高校生同士 ※両片想い ※文化祭の出し物関係の話 ※ちょっとだけすれ違い

処理中です...