灰かぶり君

渡里あずま

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残念だな2

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「まずは飯、食いに行くぞ」

 後ろに座ると、ヘルメットを被った安来さんは、そう言ってバイクを走らせた。
 初めてのバイクで、緊張しないって言えは嘘になる。ただしばらくすると、何だか楽しくもなってきた。
(スピード落としてくれてるのと、自分で運転してないせいかな?)
 カーブで、安来さんの背中にくっつきながらそう思う――あと、頼れる安心感か?
 桃香さんが泣いて喜びそうだけど、この人を書くって言えばまた俺を主人公にって言われるかもしれない。
(てんはなだと、彼氏出すの難しいし……別の話、書く時かな?)
 ちょっと?不良なイケメンは、腐ってない読者にも人気あるからな――そんなことを考えてるうちに、バイクは目的地らしい店へと着いた。

 バイクが到着した店は大きな窓のおかげで明るくて、木のテーブルの並ぶ寛げる感じの店だった。
(洋食屋って、看板出てたよな……良かった、変に気取った店じゃなくて)
 お互い、普段着(安来さんはシャツ、俺はパーカーで下は二人ともジーンズ)。それでも、金持ちの感覚は解らなかったんで内心、ホッとしてメニューを取ろうとしたけど――その前に、水を運んで来た店員さんに安来さんが言う。

「オムライスとミックスセット」
「かしこまりました。お飲み物は?」
「オレンジジュースと珈琲」

(……えっ?)
 店員さんの前だからって言うより、驚いて咄嗟に言葉が出なかった。そんな俺に(勝手に)注文を終えた安来さんが言う。

「何だ、卵アレルギーでもあったか?」
「……いえ、アレルギーとか好き嫌いはないです、けど」
「じゃあ、おれがおごるからお前は黙って食え」

 そう言われると、頷くしかないんだけど――えっと、この流れだと俺がオムライス食うのか?

「オムライスもモツ煮込みも、美味いんだろ?」
「っ!?」
「けどお前、オムライス食ってないよな」

 それは昨日の昼休み、食堂で俺が言ったことだった。って、何で(昼飯含めて)安来さんが知ってんだ?
(いや、まあ、悪目立ちして噂になってんのかもしれないけど)

「食堂のとは違うけど、ここのも有名だから」
「……はぁ」

 我ながら間の抜けた返事になったのは、好き嫌い以前にしばらくオムライスを食べてないからだった。だって外食はしないし、自分一人の為にわざわざ作らないだろ?
 そこまで考えて、料理の前に出されたオレンジジュースをストローで飲む。
(食べてないから、食わせたくなったってことか? 俺のこと面白いって言うけど、安来さんも十分面白いよな)
 そう思い、目を上げるとこっちを見てる安来さんと目が合った。

「まだ、怖くないか?」
「そうですね、はい」

 返事をしたところで、安来さんが俺を誘った理由らしきもの――怖がらない俺が珍しい、を思い出した。しまった、嘘でも否定するべきだったか?
(けどなぁ、今更怖がっても白々しいし)
 そう思った俺の頭に、ポンッと安来さんの手が置かれる。

「……何でしょう?」
「消毒?」

 いや、俺に聞かれましても。
 さっきの、岡田さんとのやり取りのせいかな――そう思っている俺と、されるがままの俺の頭を撫でる安来さんに、店員さんが「お、おおお、お待たせしましたっ」と声をかけてきた。えっと、動揺しすぎです。

 確か、真白が食べてたオムライスはデミグラスソースで、ご飯の上にオムレツが乗ってるタイプだった。
 安来さんの言った通り、この店のはご飯を包むタイプのオムライスで、かかってるのもケチャップだ。でも食べてないけど多分、同じくらい美味しいと思う。
 安来さんの頼んだミックスセットは、ハンバーグとエビフライ、チキンのグリルが並んでいた。

「ほら」

 俺が見ていると、安来さんがエビフライを差し出してきた。

「自分で取るって言う選択肢は?」
「却下」
「……いただきます」

 笑って断られるのに、仕方なく口を開けて食べた。昼にはちょっと早いけど、チラホラとお客さんはいる。モタモタしてるより、さっさと食べて店を出た方が良い。
(うま……)
 カラッとしたエビフライを味わって、口を開く。

「ありがとうございます、美味しいです」
「だろ?」

 そう言った俺に、安来さんが得意そうな笑顔を見せた。
 そして俺は料理の美味しさと、安来さんの『俺なんかに』振る舞われるイケメン&デレの残念さを、しみじみとかみ締めた。
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