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ハロウィンコスチューム2
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そんな訳で通販をしたり、腐男子レーダーで何かを察したのか、一茶が出灰のコスプレを見たがったりしているうちに当日を迎えた。
ちなみに、コスプレについては「刃金さんにだけ見せる」と言うと「ごちそうさまですっ」と拝まれてしまった。のろけたことに気づくが、披露するのは免れたので良しとする。
そして迎えに来た刃金のバイクに乗り、到着した家はと言うと。
(立派なのは、勿論だけど……何か、広い)
あと家具の感じなど、どうも刃金の趣味だけとは思えないのだ。もしかして、一人暮らしだと思っていたが、家族――母親と、暮らしているのだろうか?
「お邪魔します」
「おう」
「……あの、刃金さん」
とは言え、挨拶をしながら視線を巡らせても他の人間の気配はしない。名前を読んで、けれどどう聞いていいのか解らなくて、しばし悩んでいると刃金が出灰の様子に気づいて答えてくれた。
「今は一人だ。昔は母親もいたけど、今は彼氏と暮らしてるからな」
「そうなんですか」
「出灰に、会いたがってたぞ……あぁ、心配するな。息子をヤクザにしないでくれたって、感謝してるから」
「……恐縮です」
刃金の言葉に何と答えるべきか、あるいはどこから突っ込んで良いのか解らなくなるが――とりあえず、男同士であることを反対されないだけで良しとしよう。まあ、実際に会ったらまた話は変わるかもしれないが。
「……で、どうする? そっちの部屋で、着替えてくるか?」
「あぁ……いえ、大丈夫です」
当初の目的に話が戻ったのに、別の意味で緊張する。ただ、色気はないかもしれないが脱ぎ着するものではないし、初めてお邪魔した家であちこち入るのも気が引けるので、出灰はそう断ってリュックを肩から降ろした。
そしてカーペットに腰を下ろし、リュックからあるものを取り出すと――着ていたトレーナーの上から丈の長い、ダボッとしたそれを羽織ってファスナーを上げた。
「猫耳のパーカーです。あ、尻尾もあるんですよ……刃金さん?」
そして猫耳のついた黒いフードを被り、後ろについている尻尾の飾りを手に取って、立ったままの刃金を見上げようとした。
……もっとも、すぐに飛びつくように刃金に抱き着かれてしまったけれど。
「ハロウィン万歳」
「……万歳?」
「クリスマスも期待してる」
「え? もしかして、またコスプレってことですか?」
抱きしめられた腕の中で、出灰は顔を上げた。そんな相手の額に自分の額を当てて、刃金が口を開く。
「あぁ、可愛いからな」
「……引かれないのはありがたいですけど、そこまで言う程じゃ」
「今の格好も可愛いし、おれに……彼氏にこうして披露するって行動自体が、可愛いじゃねぇか。あ、クリスマスはおれが用意するか?」
「いえ、俺が準備します」
尋ねると即座に、むしろ被るくらいの勢いでキッパリと出灰は言い切った。
……猫耳フードを被った、出灰の顔は赤くなっていない。彼を知らない者が見たら、無表情にすら見えるくらい動じていない。
だが刃金が言った通り、小柄な彼がダボダボの猫耳パーカーを着ているのがまず可愛いし――出灰は、その行動も健気で可愛い。そして出会った頃はすぐ離れようとしたが、今はこうして刃金の腕の中に収まっているのも可愛い。つまり、何もかもが可愛い。
(こいつが選ぶんなら、ミニスカサンタにはならないだろうが……ズボンを脱がせれば、一緒だよな)
そんな下心が顔に出たり、触れ合った額から伝わらないように気をつける刃金を、しばしジッと見返した後。
(何か、コスプレにハマったみたいだな。こんな平凡に、何て残念な……とは言え、刃金さんの新しい扉を開いた責任は取らないと。まあ、エロくない範囲で)
相変わらずの真顔ながらも、出灰が妙な決意を固めていたことを刃金は知らない。
ちなみに、コスプレについては「刃金さんにだけ見せる」と言うと「ごちそうさまですっ」と拝まれてしまった。のろけたことに気づくが、披露するのは免れたので良しとする。
そして迎えに来た刃金のバイクに乗り、到着した家はと言うと。
(立派なのは、勿論だけど……何か、広い)
あと家具の感じなど、どうも刃金の趣味だけとは思えないのだ。もしかして、一人暮らしだと思っていたが、家族――母親と、暮らしているのだろうか?
「お邪魔します」
「おう」
「……あの、刃金さん」
とは言え、挨拶をしながら視線を巡らせても他の人間の気配はしない。名前を読んで、けれどどう聞いていいのか解らなくて、しばし悩んでいると刃金が出灰の様子に気づいて答えてくれた。
「今は一人だ。昔は母親もいたけど、今は彼氏と暮らしてるからな」
「そうなんですか」
「出灰に、会いたがってたぞ……あぁ、心配するな。息子をヤクザにしないでくれたって、感謝してるから」
「……恐縮です」
刃金の言葉に何と答えるべきか、あるいはどこから突っ込んで良いのか解らなくなるが――とりあえず、男同士であることを反対されないだけで良しとしよう。まあ、実際に会ったらまた話は変わるかもしれないが。
「……で、どうする? そっちの部屋で、着替えてくるか?」
「あぁ……いえ、大丈夫です」
当初の目的に話が戻ったのに、別の意味で緊張する。ただ、色気はないかもしれないが脱ぎ着するものではないし、初めてお邪魔した家であちこち入るのも気が引けるので、出灰はそう断ってリュックを肩から降ろした。
そしてカーペットに腰を下ろし、リュックからあるものを取り出すと――着ていたトレーナーの上から丈の長い、ダボッとしたそれを羽織ってファスナーを上げた。
「猫耳のパーカーです。あ、尻尾もあるんですよ……刃金さん?」
そして猫耳のついた黒いフードを被り、後ろについている尻尾の飾りを手に取って、立ったままの刃金を見上げようとした。
……もっとも、すぐに飛びつくように刃金に抱き着かれてしまったけれど。
「ハロウィン万歳」
「……万歳?」
「クリスマスも期待してる」
「え? もしかして、またコスプレってことですか?」
抱きしめられた腕の中で、出灰は顔を上げた。そんな相手の額に自分の額を当てて、刃金が口を開く。
「あぁ、可愛いからな」
「……引かれないのはありがたいですけど、そこまで言う程じゃ」
「今の格好も可愛いし、おれに……彼氏にこうして披露するって行動自体が、可愛いじゃねぇか。あ、クリスマスはおれが用意するか?」
「いえ、俺が準備します」
尋ねると即座に、むしろ被るくらいの勢いでキッパリと出灰は言い切った。
……猫耳フードを被った、出灰の顔は赤くなっていない。彼を知らない者が見たら、無表情にすら見えるくらい動じていない。
だが刃金が言った通り、小柄な彼がダボダボの猫耳パーカーを着ているのがまず可愛いし――出灰は、その行動も健気で可愛い。そして出会った頃はすぐ離れようとしたが、今はこうして刃金の腕の中に収まっているのも可愛い。つまり、何もかもが可愛い。
(こいつが選ぶんなら、ミニスカサンタにはならないだろうが……ズボンを脱がせれば、一緒だよな)
そんな下心が顔に出たり、触れ合った額から伝わらないように気をつける刃金を、しばしジッと見返した後。
(何か、コスプレにハマったみたいだな。こんな平凡に、何て残念な……とは言え、刃金さんの新しい扉を開いた責任は取らないと。まあ、エロくない範囲で)
相変わらずの真顔ながらも、出灰が妙な決意を固めていたことを刃金は知らない。
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