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テイクアウト開始、それから

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 こうして『マガサン・オリヴィア』での、飲むケフィアの持ち帰りテイクアウトが開始した。
 まだ夏の暑さが残っていることもあり、心配していた貴族の令嬢や婦人が来ることはなく、侍女が買いに来ることがほとんどだった。そして心配された体調不良はなく、逆に営業日の度に同じ侍女が来ているので、あるじである女性達に好評だと思われるとリタ達から聞かされた。

「良かったな、オリヴィア」
「ええ!」

 報告を聞いた後、部屋で二人の時にヴァイスからそう言われ、オリヴィアは笑顔で返事をした。これからも注意事項や衛生面は徹底するが、ひとまず安心である。

「とは言え、来年になればレシピも公開出来るから……料理人がいるところだと、自分で作るんじゃないかしら?」
「まぁなー。ただ、いわゆる高貴なカタガタ? に女神の加護って噂になってるらしいから。貴族の侍女が来なくなっても、次は平民女性が買いに来るんじゃないか? 一般家庭には、パン窯なんてないし」
「……お母様だけじゃなくリタ達も、あと館の侍女達もすっかり肌艶良くなったものね」

 あと、今は辺境伯領だけだがレシピが公開されれば、王都にも広がると思われる。今までのロールケーキやシュークリーム、クリームパンもそうやって広まったからだ。更にケフィアは美味しいだけではなく、美容効果もあるのでこの領地のように令嬢や貴族の夫人などの女性陣が飛びつくと思われる。

「次はケフィア粒を使ったパンとか、お酒とか……その前に、そろそろ領地だと祭り……領民皆で一斉には難しくても、女神様に奉納……した後に、我が家の皆に振る舞うことが出来るかしら?」
「オリヴィアの最終目標だもんな。乳製品を女神に捧げる祭りをやりたいって」
「ええ。女神様に約束したの……だから、貴族の家に生まれて良かった……って、思っていたけど」
「オリヴィア?」

 ヴァイスだけは、オリヴィアが前世持ちだと知っている。だからこそオリヴィアは生まれる前、女神と約束したのだとヴァイスには話している。
 そして貴族と言うだけではなく、理解のある家族の元に生まれ、更に聖獣であるヴァイスの後押しがあったからこそ、ここまで乳製品を生み出し広めることが出来た。
 ……しかし、七歳を過ぎた今。

「女だと、いつかは嫁がないといけないのよね……辺境伯の令嬢が、独身は難しいわよね。嫁ぎ先では、どこまで許されるのかしら?」
「オリヴィア……」

 自分には『まだ』話は来ていない。
 けれど昨日、母から自分より年上の、それでも十歳の令嬢が婚約したという話を聞いて――テイクアウトについて一段落ついたからこそ、オリヴィアは不安になったのである。
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