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異世界でのテイクアウト準備
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料理人達からの要望を聞き、オリヴィアは考えた。
あまりたくさんの貴族の夫人や令嬢が一度に来たら、他の客が委縮すると思ったので本人の来店は却下である。
そうなると持ち帰りになる。最初に浮かんだのはテレビで見たり、孫達から教わった某コーヒーチェーン店だったが――当初、考えた『タンブラー持参』は衛生面で不安があり、却下した。不潔とまでは言わないが、やはり前世の日本より今の異世界は衛生面が悪い。だから持ち込まれた容器にケフィアを入れて万が一、食中毒が出たら大変だと思ったからだ。
代わりに、オリヴィアが行ったのは『空き瓶の買い取り』である。
リタ達は元々、辺境伯家の料理人や侍女達である上、オリヴィアやヨナスに衛生管理を徹底されているので安心だ。しかし職人に作らせているとは言え、瓶の量には限りがある。それならケフィアを入れていた容器を買い取り、しっかり煮沸消毒し再利用しようと思ったのである。
(前世の酒屋さんであった、ビール瓶の買い取りみたいなものよね。私も、食費に少しでも役立てるのに、私も両親が飲んだビールの空き瓶を持っていったもの)
貧乏だった訳ではないが、前世の両親からオリヴィアに渡されていた食費は最低限であり、それでいておかずなどを少なくすると怒るので必死にやりくりしていた。
話を戻すがケフィアを美容の為、定期的に口にしたがっているのは貴族の夫人や令嬢なので、買い取りで戻る僅かなお金は気にしないだろう。とは言え、あまり瓶を大きくしてチビチビ飲まれ、中のケフィアを悪くされたら元も子もないので瓶の量は約二百ミリリットルにした。このくらいの量であれば、一日で飲み切れるからである。
(とは言え、体質的に合わない人もいるだろうから、注意書きもつけて……これくらい気を付ければ、大丈夫かしら?)
ケフィアを始めとする乳製品を広めたいが、無理に押し付けて体調を崩したら大変だ。やる気が空回りしないように、とオリヴィアが心の中で気合いを入れていると、自室の机で今後のことを考えて百面相をしていた彼女に、足元にいたヴァイスが声をかけてきた。
「オリヴィア? 何か、レシピや店出す時より緊張してるな?」
「ヴァイス……そう、かも。持ち帰りだと、店よりもっと目が届かないから……万が一、具合が悪くなったらと思うと……大丈夫、かな?」
「……オリヴィアは、乳製品をこの世界に広めたいんだよな?」
「え、ええ」
問いかけに、たまらず不安を口にすると――そう尋ねられて、ヴァイスの金色の瞳を見返して頷いた。そんなオリヴィアに、ヴァイスが更に言葉を続ける。
「今回、成功すればその夢への新たな一歩になる。だから、緊張するのは当然だな……でも、まだオリヴィアちっちゃいんだから。何かあればこんな風に俺とか、親とかに言うんだぞ?」
「……うん、ありがとう。ヴァイス」
気遣ってくれるのが嬉しくて、オリヴィアはお礼を言いながらヴァイスへと手を伸ばした。
出会った頃のように、抱き上げたり膝に乗せたりは出来ないが――代わりに、大きくなったヴァイスはオリヴィアが抱き着いても、しっかり受け止めてくれるのだった。
あまりたくさんの貴族の夫人や令嬢が一度に来たら、他の客が委縮すると思ったので本人の来店は却下である。
そうなると持ち帰りになる。最初に浮かんだのはテレビで見たり、孫達から教わった某コーヒーチェーン店だったが――当初、考えた『タンブラー持参』は衛生面で不安があり、却下した。不潔とまでは言わないが、やはり前世の日本より今の異世界は衛生面が悪い。だから持ち込まれた容器にケフィアを入れて万が一、食中毒が出たら大変だと思ったからだ。
代わりに、オリヴィアが行ったのは『空き瓶の買い取り』である。
リタ達は元々、辺境伯家の料理人や侍女達である上、オリヴィアやヨナスに衛生管理を徹底されているので安心だ。しかし職人に作らせているとは言え、瓶の量には限りがある。それならケフィアを入れていた容器を買い取り、しっかり煮沸消毒し再利用しようと思ったのである。
(前世の酒屋さんであった、ビール瓶の買い取りみたいなものよね。私も、食費に少しでも役立てるのに、私も両親が飲んだビールの空き瓶を持っていったもの)
貧乏だった訳ではないが、前世の両親からオリヴィアに渡されていた食費は最低限であり、それでいておかずなどを少なくすると怒るので必死にやりくりしていた。
話を戻すがケフィアを美容の為、定期的に口にしたがっているのは貴族の夫人や令嬢なので、買い取りで戻る僅かなお金は気にしないだろう。とは言え、あまり瓶を大きくしてチビチビ飲まれ、中のケフィアを悪くされたら元も子もないので瓶の量は約二百ミリリットルにした。このくらいの量であれば、一日で飲み切れるからである。
(とは言え、体質的に合わない人もいるだろうから、注意書きもつけて……これくらい気を付ければ、大丈夫かしら?)
ケフィアを始めとする乳製品を広めたいが、無理に押し付けて体調を崩したら大変だ。やる気が空回りしないように、とオリヴィアが心の中で気合いを入れていると、自室の机で今後のことを考えて百面相をしていた彼女に、足元にいたヴァイスが声をかけてきた。
「オリヴィア? 何か、レシピや店出す時より緊張してるな?」
「ヴァイス……そう、かも。持ち帰りだと、店よりもっと目が届かないから……万が一、具合が悪くなったらと思うと……大丈夫、かな?」
「……オリヴィアは、乳製品をこの世界に広めたいんだよな?」
「え、ええ」
問いかけに、たまらず不安を口にすると――そう尋ねられて、ヴァイスの金色の瞳を見返して頷いた。そんなオリヴィアに、ヴァイスが更に言葉を続ける。
「今回、成功すればその夢への新たな一歩になる。だから、緊張するのは当然だな……でも、まだオリヴィアちっちゃいんだから。何かあればこんな風に俺とか、親とかに言うんだぞ?」
「……うん、ありがとう。ヴァイス」
気遣ってくれるのが嬉しくて、オリヴィアはお礼を言いながらヴァイスへと手を伸ばした。
出会った頃のように、抱き上げたり膝に乗せたりは出来ないが――代わりに、大きくなったヴァイスはオリヴィアが抱き着いても、しっかり受け止めてくれるのだった。
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