上 下
21 / 32

差し替えます、は出来ないので

しおりを挟む
「とは言え、このケフィア粒からケフィアを作るには、まる一日かかります」
「「「「え」」」」
「美味しいだけじゃなく、体に良いものを作るのには時間が必要なの……でも! 常温で固まるし、ケフィアはそれだけで食べても美味しい……らしいけど! 飲み物にも出来るし、お菓子や料理に使ってもいいの!」

 オリヴィアの言葉に、当然だが一同から驚きの声が上がる。しかし、この工程は譲れない。
 一応、ケフィアの知識はヴァイスから教えて貰ったことになっているので、遅かった気はするがオリヴィアは微妙に言い直して力説した。そんな彼女の頭が、父・オーリンによって撫でられる。

「つい欲張ってしまったが、元々が昨日から一日かかっているし……魔法でも使わない限り、時間がかかるのは当たり前だ。明日の朝食を、楽しみにしよう」
「お父様……ありがとう! でも、ケフィア粒からケフィアを作ること自体は、簡単なのよ」

 そう言って、オリヴィアが「ヨナス、お願い」と続けると、ヨナスが頼まれて準備しておいた煮沸済のガラス瓶を出してくれた。中世ヨーロッパ風の世界だが、ワインや保存食を入れるのにガラス瓶は存在していた。容量としては、他にも使うので一リットルくらいの大きなものである。
 そこに、まずは完成したケフィア粒を入れる。
 次いでヨナスに頼んで、やはり用意しておいた牛乳をガラス瓶に入れる。

「以上! あとは直射日光が当たらない場所で、まる一日置くだけよ。完成したケフィアは、腸内環境を整えてくれるから健康は勿論、美肌にも効果があるわ」
「……本当に、簡単だね」
「美肌?」
「ええ、お母様! 即効性はないけど、毎日食べれば持続性は間違いないわ。あと、免疫力も上げるから、風邪もひかなくなるの」
「食べ物……なんだよね? 何だか、お薬みたいだね」

 驚いたり興味を持ったりしているのは両親で、感心したように言ったのは兄のエリオットである。そんな彼に答えたのは、オリヴィアではなくヴァイスだった。

「基本、美味しいものは体にいいんだ。とは言え、困った欠点は食べすぎることで……適量を超えれば、いくら体にいいものでも健康を害するんだ」
「そうなんですね」
「ああ! 脂肪と糖も美味しいけど、大量に食べると太ったりするからな」

 ヴァイスの言葉に、エリオットが納得したように頷く。それにドヤ顔で答えると、尻尾を振りながらヴァイスはヨナスを見上げて言った。

「そんな訳で! 今日はまず、オリヴィアの誕生日を祝おうな!」
「ええ! 腕を振るわせて頂きます!」

 そう言って力こぶを作ってみせたヨナスに、オリヴィアは頼もしさを感じ――その後の誕生日パーティーで振る舞われた料理やお菓子に、オリヴィア達家族は舌鼓を打つことになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~

菱沼あゆ
ファンタジー
 旅の途中、盗賊にさらわれたアローナ。  娼館に売られるが、謎の男、アハトに買われ、王への貢ぎ物として王宮へ。  だが、美しきメディフィスの王、ジンはアローナを刺客ではないかと疑っていた――。  王様、王様っ。  私、ほんとは娼婦でも、刺客でもありませんーっ!  ひょんなことから若き王への貢ぎ物となったアローナの宮廷生活。 (小説家になろうにも掲載しています)

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

虹色の子~大魔境で見つけた少年~

an
ファンタジー
ここではない、どこかの世界の話。 この世界は、《砡》と呼ばれる、四つの美しい宝石の力で支えられている。人々はその砡の恩恵をその身に宿して産まれてくる。たとえば、すり傷を癒す力であったり、水を凍らせたり、釜戸に火をつけたり。生活に役立つ程度の恩恵が殆どであるが、中には、恩恵が強すぎて異端となる者も少なからずいた。 世界は、砡の恩恵を強く受けた人間を保護し、力を制御する訓練をする機関を立ち上げた。 機関は、世界中を飛び回り、砡の力を扱いきれず、暴走してしまう人々を保護し、制御訓練を施すことを仕事としている。そんな彼らに、情報が入る。 大魔境に、聖砡の反応あり。 聖砡。 恩恵以上に、脅威となるであろうその力。それはすなわち、世界を支える力の根元が「もう1つある」こと。見つければ、世紀の大発見だ。機関は情報を秘密裏に手に入れるべく、大魔境に職員を向かわせた。

世界征服はじめました

 (笑)
ファンタジー
ののか みおんは普通の女子高生だった。天才女子高生であることをのぞけば。 ある朝、学校に行くのがめんどくさくなったみおんは思いついた。 「そうだ。世界征服しよう」 かくてののかみおんは世界征服をはじめた。

女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件

りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

処理中です...