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あれは、魔法とは違うけど

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「っ」
「えっ……!?」

 オリヴィアが名前を与えた途端、獏――ヴァイスの喉の辺りが光り、刹那、オリヴィアの右手首も光って、熱くなった。
 光と熱はすぐ引いたが、熱くなった手首の内側に翼のような模様が出来ていた。小さいし色も淡い金色なので、目立ちはしない。けれど先程までなかったそれに驚き、ハンナに頼んでヴァイスに近づき喉元を見ると、そこにも同じ模様が刻まれていた。

「これで、儀式は成立だ。俺は絶対に、この子に逆らえない」
「ありがとう」
「……オリヴィア」
「ん?」
「オリヴィア、よ……なのってなくて、ごめんね? よろしく」

 ヴァイスと父が話すのに、オリヴィアは自分の名前を口にした。
 急展開についていけなかったが、名前をつけるなら先にこちらが名乗るべきだった。そう反省し謝ると、ヴァイスは金色の瞳を軽く見張り、次いで笑みに細めて言った。

「いいって! 俺こそよろしくな、オリヴィア!」
「……うん、ヴァイス」

 ……瞬間、光ったりはしていないが、暖かいものに包まれた感じがした。そしてこの感覚を、オリヴィアは知っている気がした。

(そうか……前世で、澤木君と初めて話した時だ)

 確か、席替えで隣の席になった時である。
 オリヴィアは『可愛い愛のさえない妹』という認識で存在はある程度、知られていた。多分、澤木もそれでオリヴィアの――唯の苗字を、知っていたんだろう。しかしこちらが名乗る前に「支倉さん」と呼びかけてきた後、しまったと思ったのか彼の方から名乗ってくれたのだ。

「よろしく、支倉さん……あ、悪い。俺、澤木! 澤木純(さわきじゅん)!」
「支倉唯です。こっちこそ、ごめんなさい……よろしくね、澤木君」
「……ああ」

 申し訳なさそうな澤木にそう返すと、先程のヴァイスのように眼鏡の奥の目を軽く見張り、次いで笑みに細めてくれた。
 あの時のように、名乗り合って通じ合った感覚につられるように、オリヴィアは丸い頬を緩ませた。



 話が一段落ついたことで、オリヴィア達は屋敷へと戻ることになった。
 母と、勉強を終えた兄は父が、オリヴィアの代わりに抱いてきたヴァイスにまず驚き、彼が幻獣だということに更に驚いた。しかしヴァイスがオリヴィアに会いに来たこと。そして『名付け』を行ったので危険はないと説明したことで、何故か納得したように二人は笑った。

「やっぱり、オリヴィアの素晴らしさは家族以外にも解るのね」
「可愛い妹を、一緒に守ろう! よろしく!」
「おう! よろしくなっ」
「かあさま、にいさま、ヴァイス……」
「……お嬢様。夕食まで、少しお部屋で休まれますか?」
「うんっ!」

 親馬鹿と兄馬鹿が炸裂している。しかも、会ったばかりのヴァイスがすっかり馴染んでいる。
 褒められているので否定も出来ず、オリヴィアが照れて悶えていると――ハンナが、そう声をかけてくれた。それにこれ幸いと飛びつくと、さらりとヴァイスが言ってきた。

「俺も、いいかな? 怪我は治ったけど、ずっと歩き通しだったから」
「……じゃあ、いっしょにやすみましょう?」
「おうっ」

 何となくだがヴァイスが、先程のようにオリヴィアが話したがっていることに気づいて、あえて言ってくれた気がした。
 だからありがたく便乗させて貰うと、ヴァイスが金色の瞳を先程のように細めて笑った。
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