人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま

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第二章

きっかけは大事

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 元々、学園は魔法の使い方を学ぶ為、貴族の令嬢令息が通う学校である。平民でも適性があれば通うこともあるが、それは本当に例外だ。
 それ故、学園に通うことには他の貴族と交流するという目的もある。卒業後、そして成人後の為だ。しかし今の一年は、最初に揉めてしまったせいでその目的が果たせていない。それ故、最近の寄り添い部屋で語られる不安が「いつまでこの膠着状態が続くのか」になっていたのだ。

(見た目は大人っぽい子もいるけど、何せ十六歳だものね……学園にいる間は他の子もいるけど、この乙女ゲームの学園は、全寮制じゃないから。通学組は、親にどう思われるか不安にもなるわよね)

 だから私は、この新入生歓迎会を今の状況を打破する場に選んだ。泥臭い言い方になるが『同じ釜の飯を食べること』には、それだけの力があるからだ。毎回ではなかったが、私が職場の飲み会に節目の時だけは参加したのはその為である。
 ……そう、ちょうど今のように。

「「美味しい……」」

 焼き菓子――マドレーヌを食べた女生徒二人が、ほぼ同時に声を上げる。彼女達はそれぞれ、赤いカチューシャと青いリボンをつけている。
 今までだったら、自分の『好き』を否定されると思って、すぐに距離を取っていただろう。
 けれど、今は。同じマドレーヌを食べて、同じ「美味しい」を口に出来た今なら。

「素朴ですけど、美味しいですね」
「ええ。とても優しい味で」

 それぞれの感想を口にして、二人は笑い合う。そう、お互いの『好き』の話をしなくても、今は共通の話題に出来るお菓子や軽食があるのだ。

「美味しそう……」
「取ってこようか? ……良ければ、だが」

 サンドイッチやパスタが並ぶテーブルには、予想通り男子生徒が集まっている。
 それ故、遠慮しつつも羨ましがる女生徒に声をかけたのは、以前にやらかしたヒースだった。声をかけられた女生徒は驚くが、強引にではなく確認されたことが良かったのか、おずおずと口を開いた。

「ありがとう、ございます……お願いします」
「っ! ああ、解った! パンとパスタ、どちらが良い?」
「……あの、どちらも」
「解った!」

 ヒースの口調からすると、同じ下級貴族なのだろうが――頼まれたのに、嬉しそうにヒースが笑うと、女生徒もつられたように笑った。緊張が解れたその笑顔は可愛くて、ヒースが赤くなりながらも軽食を取りに行く。初々しい。
 そんな二人のやり取りを見て、他の生徒達も同じように軽食を取って貰ったり、逆にお菓子を取ってあげたりが始まった。良いきっかけになったようである。
 ……さて、アリアはどうしているかと私が目をやると。

「これ……」

 何故か、テーブルにある焼き菓子――クッキーを凝視して、固まっていた。
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