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第二章
撤回と決意と
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言った、言ってしまった。
だが、口から出た言葉は戻らない。それ故、ラウルさんから何と言われても受け留めようと、真っ直ぐに見つめていると――ラウルの眉と目尻が上がり、強面の顔が怒りで更に迫力が増す。もっとも普段のラウルを知っている私からすれば、その顔を怖いと思うことはない。
ないが、このタイミングでの怒りとなると、やはり嫌われたかと落ち込んでいると――目尻を吊り上げたまま、ラウルさんは口を開いた。
「俺が聖女様を嫌うなんて、ありえません。聖女様とは言え、譲れません。撤回して下さい」
「……えっ?」
「俺が情けなくて、聖女様に嫌われることはあるでしょうが……逆は、絶対にありえません。どうか、撤回して下さい」
「は、はい! 失礼しましたっ」
声は淡々としているが、とんでもなく圧を感じて私は慌てて返事をした。そして、おずおずと私は言葉を続けた。
「……でも、私もですよ? ラウルさんが頼りになるから、話を聞いて貰ったんです」
「聖女様……」
「ラウルさんに話を聞いて貰って、疑問点を挙げて貰ったから……自分の思い込みと、だからこそのズレに気づけました。ラウルさん、ありがとうございます」
「……お役に立てて、何よりです」
私の言葉に怒りは静まり、代わりに緑の瞳が優しく細められた。基本無表情だが、ラウルさんは私にはこうして僅かに、けれど確かに優しく対応してくれる。
いつものラウルさんに戻ったことに、私は安堵し――ラウルさんに対して、くるくるコロコロ反応する気持ちを、今度はそのままにはしなかった。
(……私、ラウルさんのことが好きなのね)
(カナさん……)
(恋愛……なのかなぁ? でも、言動に一喜一憂するくらいには好き……ごめんなさい。イザベルの恋を、応援するつもりだったのに)
(大丈夫! 私はカナさんが好きで、カナさんを大切にしてくれるラウルさんも好きだから!)
(天使……)
(あと、ラウルさんとならずっと、修道院にいられるでしょう?)
(無邪気に強いイザベル、可愛い……)
そう、聖女である自分もだがラウルさんも神兵なので、結婚などは出来ないが――お互いの居場所である修道院で、ずっと一緒にいられる。しかも結婚などしないなら、あえてラウルさんに好きだと告白して気まずくなることもない。流石にもう嫌われるとは思わないが、ラウルさんの私への気持ちは尊敬とか崇拝とか、そういうものだと思うからだ。
修道院で、今まで通り暮らせることを現世の私も喜んでいるようなので、私はラウルさんへの想いをこのまま一生抱えていくことにして――アリアへの対応について気持ちを切り替え、そうしてくれたラウルさんにお礼を言った。
「ありがとうございます、ラウルさん」
だが、口から出た言葉は戻らない。それ故、ラウルさんから何と言われても受け留めようと、真っ直ぐに見つめていると――ラウルの眉と目尻が上がり、強面の顔が怒りで更に迫力が増す。もっとも普段のラウルを知っている私からすれば、その顔を怖いと思うことはない。
ないが、このタイミングでの怒りとなると、やはり嫌われたかと落ち込んでいると――目尻を吊り上げたまま、ラウルさんは口を開いた。
「俺が聖女様を嫌うなんて、ありえません。聖女様とは言え、譲れません。撤回して下さい」
「……えっ?」
「俺が情けなくて、聖女様に嫌われることはあるでしょうが……逆は、絶対にありえません。どうか、撤回して下さい」
「は、はい! 失礼しましたっ」
声は淡々としているが、とんでもなく圧を感じて私は慌てて返事をした。そして、おずおずと私は言葉を続けた。
「……でも、私もですよ? ラウルさんが頼りになるから、話を聞いて貰ったんです」
「聖女様……」
「ラウルさんに話を聞いて貰って、疑問点を挙げて貰ったから……自分の思い込みと、だからこそのズレに気づけました。ラウルさん、ありがとうございます」
「……お役に立てて、何よりです」
私の言葉に怒りは静まり、代わりに緑の瞳が優しく細められた。基本無表情だが、ラウルさんは私にはこうして僅かに、けれど確かに優しく対応してくれる。
いつものラウルさんに戻ったことに、私は安堵し――ラウルさんに対して、くるくるコロコロ反応する気持ちを、今度はそのままにはしなかった。
(……私、ラウルさんのことが好きなのね)
(カナさん……)
(恋愛……なのかなぁ? でも、言動に一喜一憂するくらいには好き……ごめんなさい。イザベルの恋を、応援するつもりだったのに)
(大丈夫! 私はカナさんが好きで、カナさんを大切にしてくれるラウルさんも好きだから!)
(天使……)
(あと、ラウルさんとならずっと、修道院にいられるでしょう?)
(無邪気に強いイザベル、可愛い……)
そう、聖女である自分もだがラウルさんも神兵なので、結婚などは出来ないが――お互いの居場所である修道院で、ずっと一緒にいられる。しかも結婚などしないなら、あえてラウルさんに好きだと告白して気まずくなることもない。流石にもう嫌われるとは思わないが、ラウルさんの私への気持ちは尊敬とか崇拝とか、そういうものだと思うからだ。
修道院で、今まで通り暮らせることを現世の私も喜んでいるようなので、私はラウルさんへの想いをこのまま一生抱えていくことにして――アリアへの対応について気持ちを切り替え、そうしてくれたラウルさんにお礼を言った。
「ありがとうございます、ラウルさん」
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