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第二章

推しに抱いちゃいけない気持ち

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アリア視点



 私の推しであるエドガーは、テンプレな熱血脳筋キャラだった。
 ……過去形なのは、ここに来て新たな魅力を開花させたからである。

「おはよう!」
「重いだろう? 運ぶの、手伝うよ」
「この本を取ればいいか? 俺の方が背が高いから、遠慮なく頼ってくれよな」

 気さくに話しかけて来て、困った時は助けてくれるエドガーに一年生女子はもちろん、上級生の女子もときめいている。
 とぅるらぶでは、エドガーは騎士団長を目指していた。彼の目はその目標と、主君となるユリウスにだけ向けられていた。
 しかし無意識に、そんな想いがストレスとなり――だからこそ、エドガーは遠巻きに(今思えば、彼も周囲と距離を取っていたので当然だが)見てくる生徒達の中、自分から挨拶して笑いかけてくるヒロインに癒しを求めるようになる。

(そう、他のキャラもだけど、エドガーはその特別感にときめいたのよね)

 だからエドガーがキャラ変したと噂を聞いた時、もしかしたらイメージと違うと私は拒否感を抱いてしまうのでは――と、馬鹿なことを真面目に悩んだりもした。
 けれど遠目にだが、女生徒が持っていた画材を運ぶのを手伝っていた時、アリアは拝みそうになるのを必死に堪えた。

(書いてた夢小説で、ヒロイン相手とは言え優しすぎるかって反省したことがあったけど……全っ然、大丈夫だった。むしろ、足りなかった! 私としたことが、エディ君の力を舐めてたわっ)

 考えてみれば周囲に慣れ合おうとはしていなかったが、エドガーは他の攻略対象達のようにヒロイン以外の女生徒に冷たく接したことはない。タイミングを考えると、アリアに対抗してきたと思うのだが――推しの新たな魅力、つまりは新スチルを拝めるのはご褒美でしかない。

(……まあ、対抗ってことは私のことを、エディ君はあんまりよくは思ってないんだろうけど)

 そこまで考えて、私は悲しくなって俯いた。妄想したくて、朝早く登校したので今、彼女の周りにはいつもいるファンの子達はいない。だから多少、王子様キャラに相応しいことをしてもガッカリされないだろう。
 そう思っていた私は、廊下を曲がる時に不意に誰かとぶつかりそうになった。

「おっと……早いんだな、おはよう」
「っ!?」

 相手が気づいて止まってくれて、衝突は免れたが――思いがけない声に、私はハッとして顔を上げた。
 視線の先には、推しキャラであるエドガーがいる。

「……おはよう。そちらこそ」
「ああ、朝練をしたせいで、朝食だけだと足りなくて……でも、家で食べると料理人に悪いから。学校で、追加で食べようと思ってな」
「……そうなんだ。そのクッキーかい?」

 私が何とか平静を装って答えると、エドガーはそう言って笑いかけてきた。優しいし可愛いエピソードに内心悶えつつも手に持っている袋を見て会話を続けたが、何気なく返された言葉に私は頭を殴られたような衝撃を覚えた。

「ああ、聖女のクッキーな」

 ……まさか、イザベルがエドガーに手作りクッキーを渡していたとは。
 彼女は、エドガー狙いなのだろうか? それとも逆ハー狙いで、他の攻略対象達にも同じように手作りのお菓子をあげたりしているのだろうか?

「へぇ……そうなんだ。それじゃあ」
「ああ」

 ゲームでは同じだったが、エマのサポートキャラでなくなったせいか今は隣、つまりは別のクラスである。
 その為、私がそう言って教室に入ると、エドガーも自分の教室へと向かい――途端に湧いてきたモヤモヤを抑え込むように、私は自分の席の机に突っ伏し、ギュッと目を閉じた。
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