人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま

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第二章

推し色、ということは?

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 エマから話を聞いて、数日後――私は、魔法学園へと出勤した。
 言われて気づく辺り情けないが、確かに一年生の女生徒達は赤、あるいは青のリボンやカチューシャをつけている。貴族の令嬢ではあるが、学生故に華美なアクセサリーの着用は禁止されている。それ故のささやかなお洒落かと思っていたが、まさか推しキャラのイメージカラーだったとは。

(そう言えば……前世でキャラグッズを持つ勇気が出ない同期が、せめてって推しキャラの色を身に着けたりしてたっけ)

 コールセンターは比較的、休みが自由になる。だから入社した時の同期には同人活動をしている子や、バンドをやっている子などがいた。そしてその趣味をオープンにではなく、こっそりやっている子は適度な距離感が保てるので、人見知りな加奈でもやり取りをするのが楽だったのだ。

(私はあんまりアニメを観なかったから、推しキャラの話を聞くだけだったけど……彼女も、眼鏡のフレームとか靴とかを、推しキャラの色にしてたものね)
(……あの、生徒の子達みたいに?)
(ええ。まあ、彼女達の場合は脳筋エドガー脳筋とか、サポートキャラ……創作の登場人物じゃなく、生身相手だけど)

 現世の私(イザベル)とは、前世の話や小説、乙女ゲームについては簡単に説明していた。
 そして今回も話しながら、前世ではアニメや小説などの小説キャラクターだけではなく、それこそアイドルや俳優にハマる者もいたと思い出す。そして二次元三次元問わず、それこそ恋していると思うくらいの熱量で推しキャラを想っていた。

(壁になって見守りたい勢とガチ恋勢がいるって、教えて貰ったけど……それは、学園も同じよね)

 同じ貴族でも、上級貴族(伯爵以上)と下級貴族ではれっきとした身分差がある。更に、片方は同性なのだが――憧れて見守る者もいれば、障害をものともせず恋愛感情を抱く者もいるだろう。そしてその結果、派閥争いにまで発展してしまったと。

(……あ)

 そんなことを考えていると、保健室の窓の外を数人の女性と共に歩くアリアに気づいた。会って話したことはないが、あまりに相談が多いので気をつけていたら、今回みたいに遠目で見かけるようになっていた。今日は天気が良いので、外で昼食を食べるのだろうか?

(あら?)

 そこまで考えたところで、私はふと引っかかった。
 ……視線の先にいる、アリアの右手首。
 普段はブレザーの袖とシャツで隠れているのだろうが、風に乱れたらしい前髪を払った時に見えたのは――この世界で見かけたことのない、赤いミサンガだった。
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