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第二章

思わぬ伏兵

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「イザベル嬢……いや、イザベル先生! 先週は、失礼しましたっ」
「僕らが、悪かったです……ですが! どうか僕らに、いや、男子生徒全員に救いを!」
「どうして良いか、解らず……何とぞ、私達の話を聞いて下さいっ」
「……え」

 一週間後の昼休み。出勤していた私にそう言って、保健室に駆け込んできたのは先週来たヒース・グラスター・アズールの三人だった。
 駆け込んできたのは前回同様だが、その言葉の内容と頭を下げてくる態度は前回とは違った。ナタリーを見ると、無言で頷いてくる。ラウルさんは無表情だが、彼らを止める気配はない。
 ……私は今朝、私とラウルさんが出勤した時、ナタリーから聞いた話を思い出していた。



「実は前回、イザベル先生を口説いたことが女生徒……つまり、令嬢達にバレて。先週、駆け込んできた子達、同学年の女子生徒全員から白い目で見られて、無視されるようになったんですよ」
「……はぁ」

 何て言っていいか解らず、つい曖昧な相槌を打ってしまう。まあ、入学式早々に同じ年とは言え、仮にも講師である私を口説くなんて、何をしに来たのかと思われても仕方ない。

「嫡子以外だと、婿入り先を探すのに必死になるところがあるので、上級生達からは生温かく観察されている状態ですけど……そんな中、逆に女生徒達の株が上がった生徒がいたんです」
「……殿下達ですか?」
「いいえ」

 三人を撃退したのは殿下ユリウス達なのでそう聞いたが、返されたのは否定だった。首を傾げるしかない私に、ナタリーは「ですよね」と言いながら教えてくれた。

「彼ら、まあまあ見目が好かったので、好意を持っていた女生徒がそれなりにいたみたいなんですけど……先週のことで幻滅した女生徒達の話を親身になって聞いて、慰めてあげた子がいたんです」
「そうなんですか?」
「ええ、その子の名前は……」



 今回の三人には、前科がある。だから奥の小部屋にこそ通したが、体調不良の生徒がいないのでドアを開けて、ラウルさんも中の様子を伺いながらの対応になった。

「それで? 本日は、いかがなさいましたか?」

 そして、いつもの寄り添いと同じ言葉で話しかけた私に、三人は口々に言った。

「私達だけではなく、新入生男子一同の危機なんです!」
「確かに僕らは、見捨てられても仕方ないかもしれません……ですが! 僕らの失態を良いことに、令嬢達が誑かされるのは黙っていられませんっ」
「そう、あのアリア・ラ・グランに!」

 ……その名前は、どう聞いても女性のものだった。
 そう、誑し込んでいるは人聞きが悪いが――ナタリー曰く、令嬢達が婚約者の有無に関わらず、一人の伯爵『令嬢』に夢中になっているらしいのだ。
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