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第二章
乙女ゲームの世界ではあるけれど
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学園は、僅かでも魔法が使える者は制御する術を覚える為にも、入学するように決まっている。
そして平民はほとんど魔法を使えないが、逆に言えば力の大小こそあれ、貴族に生まれたらほぼ魔法が使える。だから学園は、貴族の令息令嬢が通う場所というのがこの世界の一般常識だ。
「だけど、私は……火・水・風・地の四属性を持っているんですが、一つ一つはそれこそカップ一杯分くらいの大きさまでしか、使えなくて。従来の攻撃や防御としては、まるで使えなかったんです」
「それは……」
「貴族にも、そういう子はいます。制御さえ学べば、学園を卒業することは出来ますが……でも、他の方々のように魔法使いになったり。そこまでじゃなくても、研究や仕事に活かしたりなんて夢のまた夢で」
そこで一旦、言葉を切って俯いたナタリー先生だったが――パッ、と上がった顔は笑顔だった。そして目を輝かせながらナタリー先生は話の先を続けた。
「だけど! あなたが生活魔法を考えてくれたおかげで、私は卒業後も勉強を続けられ、こうして養護教諭になることが出来ました。婚姻一択しかなかった私達に生活魔法は、そしてイザベル先生は希望を与えてくれたのです」
「……そうだったんですか」
「ええ!」
笑って頷くナタリー先生に対して、咄嗟に謙遜しそうになった。
でも、私は何とか堪えた。誉めてくれただけではなく、感謝を示してくれている相手に対して、僅かでも拒絶と取られそうな言葉は避けたかった。日本の文化が影響している乙女ゲームの世界だが、謙虚に関しては相手の言葉を否定して、へりくだっていると思われてしまうのだ。
(ナタリー先生もだけど……ラウルさんの前で、せっかく褒めてくれたのに卑屈だと思われちゃいけない)
私に救われたと言ってくれて、ずっと私を守ってくれたラウルさんに。そしてナタリー先生に対して、私は意識してにっこり笑ってお礼を言おうとした。
「良かったです。ありがとうござ……」
「……イザベル嬢! どうか私と、結婚前提のお付き合いをっ」
けれどそれは、突然保健室に押しかけてきた第三者の声、と言うか告白によって果たせなかった。
本来、保健室は怪我や体調不良で来る場所だが、とてもそういう感じには聞こえない。何事かと私は声の主に目をやったけど、いきなりとんでもないことを言ってきた金髪の少年にはまるで見覚えがなかった。
「は?」
それに、地を這うような低い声を上げたのは、私――ではなくて。
驚いて振り向いた私の視線の先で、目を据わらせて少年を睨みつけているラウルさんだった。
そして平民はほとんど魔法を使えないが、逆に言えば力の大小こそあれ、貴族に生まれたらほぼ魔法が使える。だから学園は、貴族の令息令嬢が通う場所というのがこの世界の一般常識だ。
「だけど、私は……火・水・風・地の四属性を持っているんですが、一つ一つはそれこそカップ一杯分くらいの大きさまでしか、使えなくて。従来の攻撃や防御としては、まるで使えなかったんです」
「それは……」
「貴族にも、そういう子はいます。制御さえ学べば、学園を卒業することは出来ますが……でも、他の方々のように魔法使いになったり。そこまでじゃなくても、研究や仕事に活かしたりなんて夢のまた夢で」
そこで一旦、言葉を切って俯いたナタリー先生だったが――パッ、と上がった顔は笑顔だった。そして目を輝かせながらナタリー先生は話の先を続けた。
「だけど! あなたが生活魔法を考えてくれたおかげで、私は卒業後も勉強を続けられ、こうして養護教諭になることが出来ました。婚姻一択しかなかった私達に生活魔法は、そしてイザベル先生は希望を与えてくれたのです」
「……そうだったんですか」
「ええ!」
笑って頷くナタリー先生に対して、咄嗟に謙遜しそうになった。
でも、私は何とか堪えた。誉めてくれただけではなく、感謝を示してくれている相手に対して、僅かでも拒絶と取られそうな言葉は避けたかった。日本の文化が影響している乙女ゲームの世界だが、謙虚に関しては相手の言葉を否定して、へりくだっていると思われてしまうのだ。
(ナタリー先生もだけど……ラウルさんの前で、せっかく褒めてくれたのに卑屈だと思われちゃいけない)
私に救われたと言ってくれて、ずっと私を守ってくれたラウルさんに。そしてナタリー先生に対して、私は意識してにっこり笑ってお礼を言おうとした。
「良かったです。ありがとうござ……」
「……イザベル嬢! どうか私と、結婚前提のお付き合いをっ」
けれどそれは、突然保健室に押しかけてきた第三者の声、と言うか告白によって果たせなかった。
本来、保健室は怪我や体調不良で来る場所だが、とてもそういう感じには聞こえない。何事かと私は声の主に目をやったけど、いきなりとんでもないことを言ってきた金髪の少年にはまるで見覚えがなかった。
「は?」
それに、地を這うような低い声を上げたのは、私――ではなくて。
驚いて振り向いた私の視線の先で、目を据わらせて少年を睨みつけているラウルさんだった。
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