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第二章

乙女ゲームではなく、出勤初日

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 ……昨日の夜。私は部屋で夜の祈りを捧げた後、いつものように朝五時に起きられるように、枕を五回叩いていた。朝五時に起きる為の、前世からのおまじないである。
 おまじないが効いたのか今日も五時ちょうど、鐘が鳴る直前に目が覚めた。そして鐘の音と共に起き上がった。
 修道院の朝は、早い。
 五時に起床。それから七時の朝食まで祈りと聖歌を神に捧げる。六歳に修道院に入ってから毎日、かかさず私が続けてきたことだ。
 しかし、いつもなら昼食までの午前は作業を、午後からは寄り添い作業に入るのだが今日は違った。
 格好は修道服のままだが、今日はこれから王立学園に向かうことになっている。本日は、王立学園の入学式なのだ。これから三年間、私は週に一度、生徒達からの相談を聞く為に臨時講師として通うことになる。
 黒髪は、いつものようにお団子ヘアにしてベールを被る。昔はアントワーヌ様やビアンカ様にやって貰っていたが、今では自分で出来るようになった。

「気をつけるんだよ」
「二人とも、いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
「行ってまいります」

 アントワーヌ様とクロエ様に見送られ、私とラウルさんは一緒に学園から迎えに来た馬車に乗り、修道院を後にした。今日は就任の挨拶と、学園での寄り添い初日なのである。

(今日は入学式だから、終業後の二時間くらいだけど……誰も、来ないかな? まあ、保健室の先生への挨拶もあるから良いわよね)

 日本でお馴染みの養護教諭は、実は外国では一般的ではない。体調を崩した時、家に帰るまでの待機場でしかないらしいので、やっぱりここは乙女ゲームの世界なんだと思う。
 話を戻すが、学園に勤めている養護教諭は貴族の女性で、基本の医術や応急処置を学んだ女性だと聞いていた。私が始めた寄り添いに興味があるようだが、私としても応急処置など覚えておいて損が無いので話を聞かせてほしいと思っている。
 そんなことを考えているうちに、馬車は学園の正門前で止まった。

「お姉さま、おはようございます」
「エマ、おはよう」

 ラウルさんにエスコートされ、馬車から降りたところでエマから声をかけられた。本日入学の彼女は、ボレロタイプの白い上着に同色のワンピースを着ている。胸元の、赤いリボンが可愛らしい。

「喜んでくれ、姉上。私達全員、同じクラスだ」

 エマの横でそう言ったのは、殿下ユリウスだ。男子は白いブレザーで、リボンではなく青いネクタイとズボンだ。そして傍らには、同じ制服を着た脳筋エドガーケインがいた。先に自分達のクラスを確認し、正門で待っていてくれたらしい。
 そんな彼らに、私は思った。

(似合うけど、デザイナーズブランドみたいな制服と言うか……まさに、乙女ゲームの制服って感じね)
(デザイナーズ?)
(んー、有名なお針子さんがはりきった感じ? ただ、イザベルが着たところが見たかったかも)
(……ありがとう、カナさん。でも、私は修道院での仕事が好きだから)

 そして、現世の私イザベルは相変わらず天使で、私はほっこりするのだった。
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