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第一章
可能性が理不尽すぎて
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いきなり目の前でへたり込んだ私を、クロエ様は慌てて抱き上げて来客用のソファに座らせてくれた。申し訳なかったが、女性でも抱っこの出来る幼女で助かった。
そして、どうしていきなり父親が出てきたのかをクロエ様は話してくれた。
この国では年の始めに、前の年に活躍した人々が貴族・平民問わず王宮に招待されると言う。前世では、春と秋に芸能人やスポーツ選手が招待される園遊会があったが、あんな感じなのだろうか?
そして生活魔法に加え、修道院や教会で寄り添いを始めた功績が認められ、私にも招待状が来たらしい――ただし修道院にではなく、生家であるセルダ侯爵家に。
「昼間に開かれるし、平民も招待される場合があるから、清潔感があって下品な装いでなければ……とは言われているけどね。侯爵家令嬢なら、家で支度を整えるのが筋だと思って送られたようなの」
「……ああ」
薄々は気づかれているようだが、私は確かに表立って「父親に育児放棄され、使用人達にも放置されてました」とは言っていない。そうなると、礼服の用意などは血縁関係のある父親のところに話がいってしまうだろう。
「修道服では、駄目なんでしょうか?」
「駄目ではないけど、そうなると父親は何をやっているのかという話になるわね」
「……話は解りましたが、それなら家に戻るのではなく、支度だけでは駄目なんでしょうか?」
正室の死後まもなく、子連れの恋人を後添えとした辺り、恥知らずだと思っていたが――百歩譲って人目を気にしたとしても、せっかくいなくなった邪魔者を何故、わざわざ連れ戻そうとするんだろうか?
「王宮に呼ばれるくらい、あなたが有能だから……今更だけど、後継ぎにと考えたかもしれないわね」
「…………」
そうだった。父親には私も含めて娘二人で、しかもエマは王太子妃になる予定なのでいずれは家を出る。
実際の乙女ゲームでイザベルの未来は書かれていないらしいが、ポジションとしては悪役令嬢とは言え、やったことはヒロインへの苦言と、淑女レベルを上げる為の対決までなので断罪や追放はされない。だから、彼女達には弟がいないので侯爵家を継ぐか婿を迎えたのかとエマと話したことはあった。
(それもあって、子供のうちにフェードアウトしたのは良かったって話してたけど……これが、ゲームの強制力? せっかく居場所が出来たのに、結局は家に戻らなくちゃいけないの?)
(……カナさん)
瞬間、私を呼ぶ現世の私の声がして――途端に、ポロポロと涙が零れた。
(どうして? 私は、何も変わっていないのに……どうして今更、勝手に)
(イザベル……)
現世の私の悲しみが溢れて、涙が止まらない。
そんな私を気遣って、クロエ様は再び私を抱き上げて部屋まで運んでくれた。
そして部屋にいたアントワーヌ様が私を受け取り、寝台に降ろしてくれて――私が泣き止み、話せるようになるまで待ってくれた。
「……イザベル? 話してくれるかな?」
「はい」
私も成人しているが、この世界については知らないことが多い。だから、一人では強制力を跳ねのける手段が思いつかない。
しかし、アントワーヌ様ならあるいは……そう思い、しゃがんで目線を合わせてくれたアントワーヌ様に、私は頷いてクロエ様から聞いた話を打ち明けた。
そして、どうしていきなり父親が出てきたのかをクロエ様は話してくれた。
この国では年の始めに、前の年に活躍した人々が貴族・平民問わず王宮に招待されると言う。前世では、春と秋に芸能人やスポーツ選手が招待される園遊会があったが、あんな感じなのだろうか?
そして生活魔法に加え、修道院や教会で寄り添いを始めた功績が認められ、私にも招待状が来たらしい――ただし修道院にではなく、生家であるセルダ侯爵家に。
「昼間に開かれるし、平民も招待される場合があるから、清潔感があって下品な装いでなければ……とは言われているけどね。侯爵家令嬢なら、家で支度を整えるのが筋だと思って送られたようなの」
「……ああ」
薄々は気づかれているようだが、私は確かに表立って「父親に育児放棄され、使用人達にも放置されてました」とは言っていない。そうなると、礼服の用意などは血縁関係のある父親のところに話がいってしまうだろう。
「修道服では、駄目なんでしょうか?」
「駄目ではないけど、そうなると父親は何をやっているのかという話になるわね」
「……話は解りましたが、それなら家に戻るのではなく、支度だけでは駄目なんでしょうか?」
正室の死後まもなく、子連れの恋人を後添えとした辺り、恥知らずだと思っていたが――百歩譲って人目を気にしたとしても、せっかくいなくなった邪魔者を何故、わざわざ連れ戻そうとするんだろうか?
「王宮に呼ばれるくらい、あなたが有能だから……今更だけど、後継ぎにと考えたかもしれないわね」
「…………」
そうだった。父親には私も含めて娘二人で、しかもエマは王太子妃になる予定なのでいずれは家を出る。
実際の乙女ゲームでイザベルの未来は書かれていないらしいが、ポジションとしては悪役令嬢とは言え、やったことはヒロインへの苦言と、淑女レベルを上げる為の対決までなので断罪や追放はされない。だから、彼女達には弟がいないので侯爵家を継ぐか婿を迎えたのかとエマと話したことはあった。
(それもあって、子供のうちにフェードアウトしたのは良かったって話してたけど……これが、ゲームの強制力? せっかく居場所が出来たのに、結局は家に戻らなくちゃいけないの?)
(……カナさん)
瞬間、私を呼ぶ現世の私の声がして――途端に、ポロポロと涙が零れた。
(どうして? 私は、何も変わっていないのに……どうして今更、勝手に)
(イザベル……)
現世の私の悲しみが溢れて、涙が止まらない。
そんな私を気遣って、クロエ様は再び私を抱き上げて部屋まで運んでくれた。
そして部屋にいたアントワーヌ様が私を受け取り、寝台に降ろしてくれて――私が泣き止み、話せるようになるまで待ってくれた。
「……イザベル? 話してくれるかな?」
「はい」
私も成人しているが、この世界については知らないことが多い。だから、一人では強制力を跳ねのける手段が思いつかない。
しかし、アントワーヌ様ならあるいは……そう思い、しゃがんで目線を合わせてくれたアントワーヌ様に、私は頷いてクロエ様から聞いた話を打ち明けた。
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