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第一章
ルームシェアとは言い得て妙
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「最初に手伝う相手は、あなたにする! イザベルには、苦労させないから……気づけばルームシェア状態だけど、苦労は私が引き受ける! 修道院なら、最低限の衣食住は保証されてるから! 私が、あなたを幸せにする!」
「…………」
ほとんどプロポーズみたいな言葉に、無言で返されて――どれくらい経っただろうか?
顔は、上がらなかった。けれど俯いたまま、現世の私が、前世の私に抱き着いてきた。
「……私は、イザベル・ラ・セルダ……あなたは?」
「えっ……加奈。市川加奈……こっちだと、カナ・イチカワかな?」
「カナ……さん」
名乗りながらしがみついてきた幼女が、前世の私の名前を口にする。年上だからなのか、さん付けしてくれる辺り、本当に良い子だなぁって思う。
「…………よろしく」
「イザベル……!」
しばしの躊躇の後、短いがフェードアウトすることに頷いてくれた相手の、少しくせのある黒髪を私は撫でた。
(すごく勇気出してくれたんだろうな、偉い……しかも、今度は頭撫でても避けないし)
そして顔は上げないが逃げもしないのに和んでいると、前世の私と現世の私は、明るい光に包まれて――。
※
「……ま……イザベル様っ」
呼びかけに応えて、目を開けたのは『私』だった。
現世の私の記憶はあるし、内にいるのも解るけど、思考とか言動は前世の私って感じだ。同化とか融合って言うよりは、何かノリで言ったけど本当にルームシェアみたいな感じだと思う。
(まあ、無視や放置されてたとは言え、貴族令嬢がいきなり平民、しかも修道女生活は大変だし……安心して! 前世の私は、バリバリ平民だからねっ)
逆に平民だからこそ、今みたいな針のむしろ状態より、住み込みする代わりに働く方が納得出来る。
ただ数日とは言えお世話になるなら、下手に衝突せず円満に過ごした方が良いよね?
「……ごめんなさい、ローラ。急に、気が遠くなって……もう、大丈夫」
倒れた私を、ゆっくり起こしてくれる侍女さん――ローラに、私はそう言って少し笑ってみせた。
美幼女だけど母親似なので、マイナスイメージなのは把握した。あとあんまり全開の笑顔だと、あざとくなりそうだからね。
人見知りだけど、悪目立ちしない為には最低限の挨拶や会話はするし、多少は愛想も振る。
最後は病気で退職したけど、それでも就職した(対面は無理だから、コールセンターだけど)のは、コミュニケーションスキルを養う良い経験になった。
(ローラって現世父の乳母で、現世母のこと微妙そうに見てたけど、他の使用人みたいに陰口とかはなかったし。大人しくしてれば、虐められはしなさそう)
そう思っていた私に、キッと表情を引き締めてローラが言う。
「お茶は、口に出来そうですか? 大丈夫なら、夕食まで今少しかかりますので、焼き菓子と共にお召し上がりを……辛ければ、少し横になりましょうか?」
……表情は固いけど、今までが今までなのですごく気遣われてるのが解った。最低限の食事しか与えられず、お菓子をほとんど貰ったことの無い現世の私が反応したからだ。
(焼き菓子? 甘いの?)
現世の私が、戸惑いながらもワクワクするのが解る――あー、もう、可愛すぎか!? うんうん、たーんとお食べ!
「ありがとう。大丈夫、頂くわ」
だからお礼を言うと僅かに、でも確かにローラの雰囲気が柔らかくなった。
※
前世の私も、現世の私も知らなかった。
自分の部屋が解らない心細さから、ローラに声をかけられた時、我知らず頬を緩めて微笑んでいたことを。
それだけでも、母親とは違うと思われたが――不安からか(実際は、現世の記憶が甦ったからだが)部屋で倒れ、しかし健気に振る舞おうとする幼女に、ローラがすっかりほだされたことを。
「…………」
ほとんどプロポーズみたいな言葉に、無言で返されて――どれくらい経っただろうか?
顔は、上がらなかった。けれど俯いたまま、現世の私が、前世の私に抱き着いてきた。
「……私は、イザベル・ラ・セルダ……あなたは?」
「えっ……加奈。市川加奈……こっちだと、カナ・イチカワかな?」
「カナ……さん」
名乗りながらしがみついてきた幼女が、前世の私の名前を口にする。年上だからなのか、さん付けしてくれる辺り、本当に良い子だなぁって思う。
「…………よろしく」
「イザベル……!」
しばしの躊躇の後、短いがフェードアウトすることに頷いてくれた相手の、少しくせのある黒髪を私は撫でた。
(すごく勇気出してくれたんだろうな、偉い……しかも、今度は頭撫でても避けないし)
そして顔は上げないが逃げもしないのに和んでいると、前世の私と現世の私は、明るい光に包まれて――。
※
「……ま……イザベル様っ」
呼びかけに応えて、目を開けたのは『私』だった。
現世の私の記憶はあるし、内にいるのも解るけど、思考とか言動は前世の私って感じだ。同化とか融合って言うよりは、何かノリで言ったけど本当にルームシェアみたいな感じだと思う。
(まあ、無視や放置されてたとは言え、貴族令嬢がいきなり平民、しかも修道女生活は大変だし……安心して! 前世の私は、バリバリ平民だからねっ)
逆に平民だからこそ、今みたいな針のむしろ状態より、住み込みする代わりに働く方が納得出来る。
ただ数日とは言えお世話になるなら、下手に衝突せず円満に過ごした方が良いよね?
「……ごめんなさい、ローラ。急に、気が遠くなって……もう、大丈夫」
倒れた私を、ゆっくり起こしてくれる侍女さん――ローラに、私はそう言って少し笑ってみせた。
美幼女だけど母親似なので、マイナスイメージなのは把握した。あとあんまり全開の笑顔だと、あざとくなりそうだからね。
人見知りだけど、悪目立ちしない為には最低限の挨拶や会話はするし、多少は愛想も振る。
最後は病気で退職したけど、それでも就職した(対面は無理だから、コールセンターだけど)のは、コミュニケーションスキルを養う良い経験になった。
(ローラって現世父の乳母で、現世母のこと微妙そうに見てたけど、他の使用人みたいに陰口とかはなかったし。大人しくしてれば、虐められはしなさそう)
そう思っていた私に、キッと表情を引き締めてローラが言う。
「お茶は、口に出来そうですか? 大丈夫なら、夕食まで今少しかかりますので、焼き菓子と共にお召し上がりを……辛ければ、少し横になりましょうか?」
……表情は固いけど、今までが今までなのですごく気遣われてるのが解った。最低限の食事しか与えられず、お菓子をほとんど貰ったことの無い現世の私が反応したからだ。
(焼き菓子? 甘いの?)
現世の私が、戸惑いながらもワクワクするのが解る――あー、もう、可愛すぎか!? うんうん、たーんとお食べ!
「ありがとう。大丈夫、頂くわ」
だからお礼を言うと僅かに、でも確かにローラの雰囲気が柔らかくなった。
※
前世の私も、現世の私も知らなかった。
自分の部屋が解らない心細さから、ローラに声をかけられた時、我知らず頬を緩めて微笑んでいたことを。
それだけでも、母親とは違うと思われたが――不安からか(実際は、現世の記憶が甦ったからだが)部屋で倒れ、しかし健気に振る舞おうとする幼女に、ローラがすっかりほだされたことを。
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