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第一章

エドガーとの親密度は?

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「そんな訳で! ユリウス様が距離を置こうとする度に、付いていくアピールをしています!」

 壁の向こうから、とても気合いの入ったエマの声がした。見えないが、両手で拳を握っている気がして仕方がない。
だがエマがこの調子なら少なくとも、出会いのエピソードとして聞いた「人形みたい」という印象は、払拭されただろう。一度は身を引こうとすらしたのに、本当にエマは頑張ったと思う。

「……そんな感じで、他の子達とも?」

 ユリウス様には成功したようだが、他の攻略対象にも今のような感じで突撃したのだろうか? 脳筋エドガーはともかく、暴風雨アルスケインは難しそうである。逆に、反発されたのではないだろうか?

「ええ! 今回は……いえ、今回もイザベル様のおかげで、エドガー様と仲良くなれましたっ」
「えっ」
「あのですね……」

 明るく堂々と言い放つエマの勢いに圧され、思わず声を上げると――意気揚々といった様子で、エマがエドガーとの話を聞かせてくれた。



 貴族の令嬢や令息は、六歳の時に魔力判定をしている。
 ユリウス様は、炎。
 ケイン様は、水。
 エドガー様は、風。
 そしてアルス様は、光である。本来、聞かれないと教えないものだが、エマに光属性があるのを国中で知っているからと、授業の時にアルス様が自分とユリウス様達の属性も教えてくれた。
 ただ貴族は大抵、魔法属性を持っているので学園に通うが、出来ることはピンキリだ。それ故、攻撃や防御に使えない場合は今まで劣等生扱いされていたが、イザベル様が発案した『生活魔法』のおかげで、救われる者も多いとアルスは説明してくれた。

「イ……お姉様は、すごいのですね」
「ええ、聖女様は本当に素晴らしい」

 午前中のやり取りでわたしのイザベル様推しが通じたのか、あるいはイザベル様が褒められて嬉しいのか――おそらく、両方だろう。わたしの言葉に、満足げに頷いてくれた。
 ただ、わたし達の話を聞いていたエドガー様が不満げに唇を尖らせる。

「だけどさ? いくら魔法が使えても、一人で数人に襲われれば勝てないだろう? だから俺は魔法を勉強するより、もっと強くなるのに騎士見習いになりたいんだよ。早く、父上の後を継ぎたいんだ……まあ、万が一でも暴走したら困るから、こうして勉強してるけどな?」

 そんなエドガーの言葉に、わたしは驚いた。
 ゲームでのエドガーは熱血爽やかヒーロー系だったが、確かに魔法を使うシーンはなく剣の練習をしているばかりだった。ゲーム中は深く考えなかったが、魔法を習う学校で剣ばかりやってるのはおかしい。
 だが、エドガーが魔法より剣に重きを置いているのなら、納得だし言い分も解る。

(イザベル様が修道院にフェードアウトするくらいだから、エドガー様の乙女ゲーム離脱もありかもしれないけど……)

 とは言え、わたしとしても今の話を聞いて言いたいことがある。
 だからにっこり笑って見せて、わたしはエドガー様に言った。

「もちろん、強さは大事です……でも、あなたはお父上の後を継ぎたいんですよね? 騎士団総長となって人を導くには、そして殿下を守るのには色んなことを勉強して出来るようになった方が良いですよ?」
「…………」
「……生意気を言って、失礼し」
「お前も、聖女みたいにすごいんだな!」

 黙ってしまったエドガーに、選択を誤ったかと思って頭を下げ、退こうとしたら――すぐに、エドガーからひどく嬉しそうに言われた。いや、言われただけじゃなく自分の椅子から立ち上がり、わたしに近づいてきたかと思うといきなり手を握ってきた。
 驚いて顔を上げると、喜色満面な様子のエドガーと目が合う。

「聖女もお互い、頑張ろうって言ってくれたし! お前も、ユリウス様の為に勉強するって言ってたもんな……俺も負けてられないな! ありがとうなっ」
「え、ええ……」
「エドガー様、落ち着いて下さい。紳士はいきなり、女性の手を握ってはいけません」
「あ、悪い」
「……いえ」

 アルス様が窘めると、エドガー様はパッと手を離してくれた。
 ……そんなわたし達のやり取りを、ユリウス様とケイン様が探るように見つめていた。
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