人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま

文字の大きさ
上 下
43 / 113
第一章

悪役令嬢は本気で距離を置くことにした

しおりを挟む
 今後のことを話し、エマを修道院の入り口まで送った後、私は一人で院長室へと向かった。
 そのままだと、幼女の身長的に低いところでのノックになるので、闇魔法で作った影人形に持ち上げて貰ってドアを叩いた。

「はい」
「イザベルです」
「どうぞ」
「失礼します」

 クロエ様の返事に促されて、持ち上げられたまま院長室へと入る。そして降ろして貰い、影人形を影に戻して私はクロエ様に頭を下げた。

「院長様、お願いがあります」
「何かしら?」
「……やりたいことが、出来ました」

 そう言って、顔を上げると――クロエ様を見上げて、私はある提案を口にした。



 前世だと教会にあった、告解室。
 この異世界では元々、無いものだったので私は修道院にある聖堂の物置を改装し(幸い、聖堂内の扉の他に、外から物を出し入れする入り口があったので、大規模な工事は免れた)設置して貰えることになった。

「聖女様!」
「……アルス様」

 完成した告解室を見ていると、背後から暴風雨アルスに声をかけられた。
 教会にも話を通したので、私が始めることについて聞きつけたのだろう。予想はしていたので、驚くのではなくやっぱりと思って振り返る。

「あの、新しいことを始めると聞いて……」
「ええ。アルス様達のおかげで、思いつきました」
「……えっ?」

 そう、暴風雨アルス達の愚痴を聞いたことがヒントになったのだ。
 魔法で多少は補えるが、子供だとどうしても出来る労働に限りがある。だからいっそ『話を聞くこと』自体を労働にすることを思いついたのだ。貴族平民問わず、毎日昼から二時間解放する予定である。
 クロエ様に相談したら「上手くいくようなら、非力な女性や年を取った者にもお願い出来るわね」と賛成して貰えて安心した。とは言え、どれだけ人が来るか解らないので、閑古鳥が鳴くようなら刺繍や編み物などをする予定である。
 ……ただし、これは表向きの理由だ。

「皆様の抱えている悩みや不満を、吐き出して再構築出来る場が必要だと思いました。ただ一介の献身者、更に子供である私には、皆様の話を聞くこと『しか』出来ません」
「そんな……」
「卑下している訳ではありません。むしろこんな私にも、出来ることがあると解りました」

 そこで一旦、言葉を切ると私は申し訳なさそうに目を伏せて、言葉を続けた。

「あと、私には他の仕事もあります……だから、これが私に出来る精一杯なのです」
「聖女様……そこまで考えて……」

 感激したような暴風雨アルスの声に、とりあえず彼は大丈夫かと内心、安堵した。
 そう、真の目的は労働にし一般開放することで、暴風雨アルス達を始めとする攻略対象達を特別扱いせず、一線を引く為である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
 王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

処理中です...