人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま

文字の大きさ
上 下
42 / 112
第一章

ゲームとのズレと、わたしの本音

しおりを挟む
ヒロイン視点



 推しキャラ・イザベル様は見た目は子供、中身は大人な状態だった。
 正確に言えば、前世の人格が表に出ているのだが――それはまあ、わたしも同様で。しかも事故で死んだ時、高校生だったわたしとは違って、しっかりした大人の女性だった。

「あと、あなたにとっては推しキャラで。王子様ならそりゃあ、私以外にも立候補者がいるだろうけど……あなたに対しても、初回の態度悪かったんでしょう? 過去からの拗らせぶりを知らない子に、一から相手させるの可哀想じゃない?」
「う」

 酷い言われ様だが、確かに惚れた弱みを差し引いても、ユリウス様を始め攻略対象達の態度は悪かった。事情を知っているわたしでさえ思うのだから、何も知らない子だとショックを受けて泣くだろう。

「……でも、それってわたし、ズルくないですか?」

 口ごもった後、わたしはたまらず本音を吐き出した。そして、イザベル様の顔を見られなくて俯いた。
 そう、わたしはユリウス様達の過去を知っている。だから、何も知らずに地雷を踏み抜くことは――ないとは言えないが、多少は回避出来ると思う。

「その理屈で言うと、話を聞いた私もズルくなるわよ?」
「イザベル様は……っ」
「私が良くて、あなたが違うってことはない。まあ、ゲームと違うこともあるから、その時に押しつけたら駄目だけどね……それとも、ネット小説でざまぁされるお花畑な電波ヒロインみたいに、逆ハー狙ってたりする?」
「ないです、ありえませんっ」

 あんまりな内容に、わたしはたまらず顔を上げて首を左右に振った。
 確かにネット小説では、前世の記憶持ちのヒロインが、現実でも乙女ゲームと同じことをしようとして破滅していた。
 そもそも、とぅるらぶに逆ハーエンドはないが――仮にあったとしても、前世でも現世でもそんなことは許されない。貴族以上や富裕層の男性は愛妾を持てるが、女性がやると良くて修道院行き。悪ければ家族の縁を切られ、身一つで家から追い出されてしまう。

「わたしが好きなのは、ユリウス様だけです…そりゃあ、他の皆にも幸せになって欲しいですけど」

 ユリウス様は、愛情担当。自分自身を愛する相手を求めて、それ以上の愛を返したいと思っている。
 ケイン様は、信頼担当。自分自身を見てくれる相手を求めて、その信頼に応えたいと思っている。
 エドガー様は、勇気担当。まだ小さいのに鍛錬を重ねて、周囲の者達を守りたいと思っている。
 アルス様は、希望担当。平民の捨て子だが研鑽を重ねて、周囲の者達に恩を返したいと思っている。
 ……わたしはユリウス様が一押しだが、他の三人の望みも叶えば良いと思っている。

「恋愛じゃなくても、信じたり応援したりは出来ますから」

 そこまで言ったところで、わたしはイザベル様と真正面で向き合っていたことに気づいた。
 固まったわたしの視線の先で、ふ、とイザベル様が微笑む。
 そしてその麗しさに見惚れた私に、イザベル様は予想外のことを言った。

「ヒロインは、あなたに任せるわ……悪役令嬢の私はこのまま、いえ、もっと本気で距離を置かせて頂くわね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...