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第一章
推しと地雷と
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「物語の名前は『True Love~幸福を探して~』と言いまして。攻略……高貴な方々は、四つ葉の意味である『愛情・信頼・勇気・希望』をコンプ……悩みとして抱えています。その悩みを癒すのが、主人公であるヒロインです」
私の疑問に答えるように、エマの説明は続いていく。
実際は乙女ゲームってやったことがなくて、ネット小説で読むだけだったけど――確かに、攻略対象達のコンプレックスを解決していた気がする。
そこで、今更だが私は思いついた。
(もしかして……暴風雨とか脳筋、あと猪って……攻略対象?)
顔面偏差値の高いこの異世界でも、特に顔が良い。アルスは少し年上だと思うが、ネット小説だと教師が攻略対象としても出ていたので、ありと言えばありだろう。
(さっき、フラグを折るとか聞こえたけど……この子、攻略対象と恋愛する気がないってこと?)
そうだとすると、エマもまた修道院に来たいのだろうか? そう思い、話の先を待っていると顔を俯かせたエマがスカートの上で拳を握った。
「……あの、イザ……お姉さまもですが、わたし、ユリ……殿下が推しキャ……いえ、とても憧れていまして。でも、ユリ……殿下には、腹違いのお兄さまがいたんです」
「えっ……」
「ゲー……物語では、あまり触れられていませんが、攻略本……預言書? では、わたしと同じように平民の血を引いていて、その母君が亡くなられたので王宮を後にしたと書いていました。そしてユリ……殿下は、そのお兄さまをとても慕っていたと」
そこまで言うと、エマはキッと顔を上げて私を見た。
「ユリ……殿下は血筋だけで優遇され、尊敬したお兄さまを追い出す形になったことを……自分を、責めていました。『だから』ゲー……物語ではお兄さまと同じく半分、平民の血を引くわたしに優しくしてくれるのです。そして『愛情』担当のユリ……殿下が癒される……のですが。今のわたしでは、駄目です。逆に、ユリ……殿下を刺激し、最悪傷つけてしまいます」
「……それは」
確かに、話を聞いたらエマの考えを「違う」とは言えなかった。
現世の私がゲーム通りに家を出ず、王子の婚約者になっていれば王子はイザベルに自分を重ねて疎み、ヒロインであるエマに惹かれただろう。
だが、実際の私は家を出てしまい――結果、エマは王子と同じく『家族を追い出した』ことになる。そうなると、ゲームとは違って疎まれるのはエマだ。
……そんな王子に対して、推していると公言している相手が考えるとすれば。
「イザ……お姉さま、お願いです! わたしは婚約者を辞退して家を出ますから、どうか家に戻ってユリ……殿下の婚約者に! そして、あの方を救ってあ」
「……エマ」
予想した通りの言葉が来たのに、私は遮って中断させた。
無礼だと解ってはいるが、たとえバレることになってもこれだけは伝えなくてはいけない。だから、と怯んで相手の勢いに負けないように目を伏せて、私は口を開いた。
「推しキャラだからこそ、薦める気持ちは解るわ。好きなキャラ同士がくっついたら、完璧よね……でもね? あなたにとっては推しでも、私に……いえ、イザベルにとっては、むしろ地雷よ?」
私の疑問に答えるように、エマの説明は続いていく。
実際は乙女ゲームってやったことがなくて、ネット小説で読むだけだったけど――確かに、攻略対象達のコンプレックスを解決していた気がする。
そこで、今更だが私は思いついた。
(もしかして……暴風雨とか脳筋、あと猪って……攻略対象?)
顔面偏差値の高いこの異世界でも、特に顔が良い。アルスは少し年上だと思うが、ネット小説だと教師が攻略対象としても出ていたので、ありと言えばありだろう。
(さっき、フラグを折るとか聞こえたけど……この子、攻略対象と恋愛する気がないってこと?)
そうだとすると、エマもまた修道院に来たいのだろうか? そう思い、話の先を待っていると顔を俯かせたエマがスカートの上で拳を握った。
「……あの、イザ……お姉さまもですが、わたし、ユリ……殿下が推しキャ……いえ、とても憧れていまして。でも、ユリ……殿下には、腹違いのお兄さまがいたんです」
「えっ……」
「ゲー……物語では、あまり触れられていませんが、攻略本……預言書? では、わたしと同じように平民の血を引いていて、その母君が亡くなられたので王宮を後にしたと書いていました。そしてユリ……殿下は、そのお兄さまをとても慕っていたと」
そこまで言うと、エマはキッと顔を上げて私を見た。
「ユリ……殿下は血筋だけで優遇され、尊敬したお兄さまを追い出す形になったことを……自分を、責めていました。『だから』ゲー……物語ではお兄さまと同じく半分、平民の血を引くわたしに優しくしてくれるのです。そして『愛情』担当のユリ……殿下が癒される……のですが。今のわたしでは、駄目です。逆に、ユリ……殿下を刺激し、最悪傷つけてしまいます」
「……それは」
確かに、話を聞いたらエマの考えを「違う」とは言えなかった。
現世の私がゲーム通りに家を出ず、王子の婚約者になっていれば王子はイザベルに自分を重ねて疎み、ヒロインであるエマに惹かれただろう。
だが、実際の私は家を出てしまい――結果、エマは王子と同じく『家族を追い出した』ことになる。そうなると、ゲームとは違って疎まれるのはエマだ。
……そんな王子に対して、推していると公言している相手が考えるとすれば。
「イザ……お姉さま、お願いです! わたしは婚約者を辞退して家を出ますから、どうか家に戻ってユリ……殿下の婚約者に! そして、あの方を救ってあ」
「……エマ」
予想した通りの言葉が来たのに、私は遮って中断させた。
無礼だと解ってはいるが、たとえバレることになってもこれだけは伝えなくてはいけない。だから、と怯んで相手の勢いに負けないように目を伏せて、私は口を開いた。
「推しキャラだからこそ、薦める気持ちは解るわ。好きなキャラ同士がくっついたら、完璧よね……でもね? あなたにとっては推しでも、私に……いえ、イザベルにとっては、むしろ地雷よ?」
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