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第一章

あ、これもネット小説で読んだやつ

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 家畜小屋から畑に向かうところに、ベンチが一つある――気候と、幼女(つまりは私)のコンパスによっては目的地に到着出来ず、一休みする場合があるからだ。ちなみに、同じ理由で修道院敷地内には数か所、ベンチがある。
 そのベンチに、私とエマは並んで腰かけた。
 ……そして、彼女のドレスの汚れを気にしなくて良くなったところで、私は口を開いた。

「あの、エマ……『ゲーム』って、何のこと?」
「えっ!? イザ……お姉さま、心読めるんですか!?」
「いえ……さっき、口に出していたわよ?」
「……そんな」

 相手がバラした(と言うか自爆した)からと言って、自分がバラす義務はない。
 だからとぼけて尋ねると、エマはギョッとして尋ねてきた後、私の言葉に呆然と呟いた。いや、まあ、私も確かにネット小説で読んだ『考えていることを無意識に口に出す主人公』を地で行くのには驚いたけどね?
 そんな私の視線の先で、エマが人形のように可愛い顔を顰めつつ、何をどう説明しようか葛藤している。
 下手に誘導すると、藪蛇になりそうなので黙って待つと――どれくらい経っただろうか?考えがまとまったのか、キッと顔を上げてエマは私に言った

「あのっ、いきなりで驚かれると思いますが……わたしには前世の、こことは違う世界で暮らしていた記憶があって!」
「……えっ?」
「まあ、気になるとは思いますが、そこは置いといて! その世界には、この世界で言う物語のような『ゲーム』という娯楽があるんですっ」

 馬鹿正直にバラしたことに驚いて声を上げたが、いっぱいいっばいなのか疑問の声だと思ってくれたらしい。それから、私が質問した『ゲーム』について説明し話の先を続けた。

「そんなゲームの中に、この世界を……わたし達を描いたような乙女ゲー……物語、がありまして」

 乙女ゲー、まで言った。完全にアウトだ。そんなの『乙女ゲーム』に決まっている。
 顔面偏差値が高かったこと。それから、感じていたご都合主義の理由は判明した。そりゃあ、実際の中世と違って過ごしやすい訳である。
 それにしても、婚約者候補になるくらいなので、基本の令嬢教育は受けていると思うが――二人きりと言うのを差し引いても、あまりにも直球で体当たり過ぎる。

「その物語だとわたしが主人公で、十六歳の時にイケ……高貴な方々と、魔法学園に進学して恋に落ちるのですが。その時、登場する悪や……ライバル、いえ、未熟なわたしを高みへと導くのがイザ……お姉さまなのです」
「…………」

 再び、口を滑らせたのにこちらの方がヒヤヒヤしてしまう。
 それにしても先程の早口な呟きで、私、と言うか現世の私イザベルに並々ならぬ思い入れを感じた。とは言え、その熱量を差し引いて解ったことがある。

(闇魔法とか、悪役っぽいなと思ったけど……実際、私、悪役令嬢だったんだ)
(……悪役? な令嬢?)
(あ、いや、ゲー……物語の話! 私がこれからも絶対、イザベルを守るからね!)

 不安そうな現世の私イザベルの声に、脳内でフォローを入れつつも、私は相手の言葉を待った。
 ……知らなかったとは言え、いや、知らなかったからこそ早々に悪役令嬢をフェードアウトした私に、エマはどうして会いに来たんだろうか?
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