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第一章
思わぬ申し出に、精一杯の答えを
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「今、婚約者の最有力候補はあなたの妹君・エマ嬢です。侯爵家令嬢で、光属性の持ち主。更に、へ……庶子とは思えない淑女ぶりが、王妃様に評価されています」
平民と言おうとしたのだなと思ったが、本人もマズいと思ったのか言い直したので、そこには触れなかった。
それより、異母妹が光属性であることや王子の婚約者候補になっていることに驚いた。魔法の属性はともかく、礼儀作法などについては相当、努力したのだと思う。
「ですが、あなたなら……その聡明さと、生活魔法と言う斬新な発想。しかも正室の令嬢となれば、殿下の婚約者にふさわしい。いえ、むしろ妹君に譲る意味が解りません」
「…………」
何故、ここまで私が推されるのだろうか――いや、確かに王族に平民の血を混ぜたら大変かもしれないけど。生真面目と言うか馬鹿真面目っぽい子なので、譲れない部分かもしれないけど。
(シンデレラとか、それこそ小説にあるような乙女ゲーの世界だと、血筋より愛が優先されると思うけど)
現世の私の記憶では、そういう物語はない。そうなると、エマはもっと苦労するのではないかと思うが、その辺りは今度ビアンカ様などに聞くとして。
実はそもそもが正式な出家ではなく、献身者なので貴族の身に戻るのに還俗も何もない。
だが、それを言うと相手を勢いづけそうなので、伝えるつもりはなかった。と言うか、まず当人に意思確認をしなければ。
(えっと、イザベル……殿下? 王子様の婚約者って、なりたい?)
(なりたいなりたくない以前に、一度もお会いしたことがないわ)
(あ、そっか)
賢くて可愛いから忘れていたが、考えてみれば六歳(あれから数か月経ったので、七歳か?)だ。しかも育児放棄状態だったので、他の貴族や王族の子供と会うことなどなかっただろう。
(それにね、カナさん? ここは、私みたいな子供でもちゃんと見てくれるの。出来る出来ないじゃなく、頑張った分だけ褒めてくれるの……だから私、ここにいたい)
(……っ!)
そんな私に、現世の私が最高に健気で可愛い発言をする。
ならば前世の私は、現世の私の気持ちに応えて叶えるだけだ。そう腹を括ると、私は祈るように両手を組んだ。
もっとも子供相手とは言え直接、目を見ながらの長台詞はハードルが高いので、俯いたまま口を開く。
「ケイン様……私は、修道院を離れたくありません。救われた恩を、少しでも返したいのです」
「恩、ですか?」
「ええ。母が亡くなった時、私は令嬢であることより生涯、母に祈りを捧げることを選びました。そして、そんな私の願いを修道院は叶えてくれました。しかも無力な子供でしかない私に、衣食住まで与えてくれたのです……私は、その恩に報いたい」
多少は脚色しているが、嘘ではない。そう思いつつ、私は組んだ手に力を込めて話を締め括った。
「譲る譲らない以前に、私がここにいたいのです。どうか、お解り下さい……そしてお許し下さい、ケイン様」
平民と言おうとしたのだなと思ったが、本人もマズいと思ったのか言い直したので、そこには触れなかった。
それより、異母妹が光属性であることや王子の婚約者候補になっていることに驚いた。魔法の属性はともかく、礼儀作法などについては相当、努力したのだと思う。
「ですが、あなたなら……その聡明さと、生活魔法と言う斬新な発想。しかも正室の令嬢となれば、殿下の婚約者にふさわしい。いえ、むしろ妹君に譲る意味が解りません」
「…………」
何故、ここまで私が推されるのだろうか――いや、確かに王族に平民の血を混ぜたら大変かもしれないけど。生真面目と言うか馬鹿真面目っぽい子なので、譲れない部分かもしれないけど。
(シンデレラとか、それこそ小説にあるような乙女ゲーの世界だと、血筋より愛が優先されると思うけど)
現世の私の記憶では、そういう物語はない。そうなると、エマはもっと苦労するのではないかと思うが、その辺りは今度ビアンカ様などに聞くとして。
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だが、それを言うと相手を勢いづけそうなので、伝えるつもりはなかった。と言うか、まず当人に意思確認をしなければ。
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(なりたいなりたくない以前に、一度もお会いしたことがないわ)
(あ、そっか)
賢くて可愛いから忘れていたが、考えてみれば六歳(あれから数か月経ったので、七歳か?)だ。しかも育児放棄状態だったので、他の貴族や王族の子供と会うことなどなかっただろう。
(それにね、カナさん? ここは、私みたいな子供でもちゃんと見てくれるの。出来る出来ないじゃなく、頑張った分だけ褒めてくれるの……だから私、ここにいたい)
(……っ!)
そんな私に、現世の私が最高に健気で可愛い発言をする。
ならば前世の私は、現世の私の気持ちに応えて叶えるだけだ。そう腹を括ると、私は祈るように両手を組んだ。
もっとも子供相手とは言え直接、目を見ながらの長台詞はハードルが高いので、俯いたまま口を開く。
「ケイン様……私は、修道院を離れたくありません。救われた恩を、少しでも返したいのです」
「恩、ですか?」
「ええ。母が亡くなった時、私は令嬢であることより生涯、母に祈りを捧げることを選びました。そして、そんな私の願いを修道院は叶えてくれました。しかも無力な子供でしかない私に、衣食住まで与えてくれたのです……私は、その恩に報いたい」
多少は脚色しているが、嘘ではない。そう思いつつ、私は組んだ手に力を込めて話を締め括った。
「譲る譲らない以前に、私がここにいたいのです。どうか、お解り下さい……そしてお許し下さい、ケイン様」
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