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第一章
ごめん、ちょっと何言ってるのか解らない
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年が明けて、雪が降ったことで外での作業は家畜の世話だけになった。
だからと言って、修道院の労働は無くならない。建物の中で刺繍や編み物をしたり、焼き菓子やジャムを作ったりして過ごす。
「なぁ、お前がアルスに勝った奴か?」
「……えっ?」
焼き菓子作りを頑張っていると、クロエ様に呼ばれてアントワーヌ様と共に院長室に行くことになった。そしてノックをし、中に入ると開口一番でそんなことを言われた。
炎のような赤い髪、大きな茶色の瞳。年は、私と同じくらいだろうか。
言動はやんちゃだが、何と言うか顔が良い。いや、それを言うとこの異世界に来てから会った人達は皆、タイプこそ違うけど美男美女――そこまで考えて、私はふと引っかかった。
(色彩だけなら異世界と言うか、外国だからって思ってたけど……妙に、顔面偏差値高くない?)
目立って美形じゃないにしても、いっそ不自然なくらい整っている。いや、はっきり言おう。不細工がいない。
異世界仕様かと思っていると、黙ったままの私に焦れたように男の子が声を荒げた。
「おい! 何か言えよっ」
「……失礼しました。あの、勝ち負けではないのですが……以前、お話したことはあります」
「そうか!」
格好からして、確実に貴族だ。だから言葉を選びつつ言うと、あっさり許してくれたのにちょっと驚く。
(いきなり何だって思ったけど……悪い子では、ないのかな?)
などと思ったが、私の判断は次の瞬間に覆される。
「じゃあ、俺と話すぞ!」
「……は……?」
「エドガー様、まずは名乗りを……私達はあなたを存じていますが、彼女は初対面です」
「む、そうか」
勝手に話を進める男の子に、私が絶句していると――見かねたアントワーヌ様が、男の子に言ってくれた。正直、相手が誰であれマイペースぶりにドン引きしているが、確かに知らないままだとそれはそれで困る。だから、私は心の中でアントワーヌ様に感謝の合掌をしつつ相手の言葉を待った。
「俺は、エドガー! 将来、騎士団総長になる男だっ」
「……騎士団総長の、ご子息だ」
「私は、イザベルと申します。エドガー様、初めまして」
「おう……さて! 名乗ったから、話すぞっ」
そして元気だが、名前しか解らず私が困っていると、アントワーヌ様がこっそり教えてくれた。なるほど、元近衛騎士だった彼女の元上司の息子か。
それに内心、感謝をしつつ挨拶をすると男の子――エドガーは頷いて話の先を続けた。いや、再び元に戻した。
「……あの、話とは一体、何を?」
「んっ?」
とりあえずお互い名乗ったのが、相手が何を話したいのかが全く解らない。
だから、と尋ねるとエドガーは不思議そうに首を傾げ――次いで、思いがけないことを言い出した。
「解らんっ」
「「「えっ?」」」
「アルスは、お前に救われたと聞いたが……そもそも、俺には別に悩みはない! だが、お前は人の話を聞いてそのものの望むものを見出すんだろ? じゃあ、まずは話そうっ」
無茶ぶりにも程がある。私だけじゃなく、クロエ様やアントワーヌ様も思わず声を上げてしまった。
突っ込みどころ満載で、さて、どうするかと思ったところで――私ではなく、クロエ様が口を開いた。
「エドガー様、お帰り下さい……イザベルは、労働の途中で来たのです。申し訳ないですが、あなたとおしゃべりする時間はありません」
だからと言って、修道院の労働は無くならない。建物の中で刺繍や編み物をしたり、焼き菓子やジャムを作ったりして過ごす。
「なぁ、お前がアルスに勝った奴か?」
「……えっ?」
焼き菓子作りを頑張っていると、クロエ様に呼ばれてアントワーヌ様と共に院長室に行くことになった。そしてノックをし、中に入ると開口一番でそんなことを言われた。
炎のような赤い髪、大きな茶色の瞳。年は、私と同じくらいだろうか。
言動はやんちゃだが、何と言うか顔が良い。いや、それを言うとこの異世界に来てから会った人達は皆、タイプこそ違うけど美男美女――そこまで考えて、私はふと引っかかった。
(色彩だけなら異世界と言うか、外国だからって思ってたけど……妙に、顔面偏差値高くない?)
目立って美形じゃないにしても、いっそ不自然なくらい整っている。いや、はっきり言おう。不細工がいない。
異世界仕様かと思っていると、黙ったままの私に焦れたように男の子が声を荒げた。
「おい! 何か言えよっ」
「……失礼しました。あの、勝ち負けではないのですが……以前、お話したことはあります」
「そうか!」
格好からして、確実に貴族だ。だから言葉を選びつつ言うと、あっさり許してくれたのにちょっと驚く。
(いきなり何だって思ったけど……悪い子では、ないのかな?)
などと思ったが、私の判断は次の瞬間に覆される。
「じゃあ、俺と話すぞ!」
「……は……?」
「エドガー様、まずは名乗りを……私達はあなたを存じていますが、彼女は初対面です」
「む、そうか」
勝手に話を進める男の子に、私が絶句していると――見かねたアントワーヌ様が、男の子に言ってくれた。正直、相手が誰であれマイペースぶりにドン引きしているが、確かに知らないままだとそれはそれで困る。だから、私は心の中でアントワーヌ様に感謝の合掌をしつつ相手の言葉を待った。
「俺は、エドガー! 将来、騎士団総長になる男だっ」
「……騎士団総長の、ご子息だ」
「私は、イザベルと申します。エドガー様、初めまして」
「おう……さて! 名乗ったから、話すぞっ」
そして元気だが、名前しか解らず私が困っていると、アントワーヌ様がこっそり教えてくれた。なるほど、元近衛騎士だった彼女の元上司の息子か。
それに内心、感謝をしつつ挨拶をすると男の子――エドガーは頷いて話の先を続けた。いや、再び元に戻した。
「……あの、話とは一体、何を?」
「んっ?」
とりあえずお互い名乗ったのが、相手が何を話したいのかが全く解らない。
だから、と尋ねるとエドガーは不思議そうに首を傾げ――次いで、思いがけないことを言い出した。
「解らんっ」
「「「えっ?」」」
「アルスは、お前に救われたと聞いたが……そもそも、俺には別に悩みはない! だが、お前は人の話を聞いてそのものの望むものを見出すんだろ? じゃあ、まずは話そうっ」
無茶ぶりにも程がある。私だけじゃなく、クロエ様やアントワーヌ様も思わず声を上げてしまった。
突っ込みどころ満載で、さて、どうするかと思ったところで――私ではなく、クロエ様が口を開いた。
「エドガー様、お帰り下さい……イザベルは、労働の途中で来たのです。申し訳ないですが、あなたとおしゃべりする時間はありません」
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