人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま

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第一章

ゲームとのズレと、塩対応

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ヒロイン視点



 わたしことヒロイン・エマがセルダ侯爵家に引き取られて、およそ八か月。この世界では、年が明けると一つ年を取るという考え方なのでわたしは七歳になった。
 そして何とか読み書きと、淑女としての基本を覚えたところで――わたしは王宮で開催される、新年を祝うパーティーに参加することになった。ちなみに、他の同年代の令嬢も参加するからなのか夜ではなく昼である。

(社交界に参加出来る年じゃないけど……やっぱり侯爵家ともなると、わたしみたいな子供でも最低限の参加義務はあるのかしら?)

 そんなことを考えているうちに、わたしの支度は整えられていく。幼女なのでコルセットこそつけないが、髪の色に合わせたピンクのドレスで、胸元やスカート部分には白いフリルがあしらわれている。

(乙女ゲーのヒロインだと、真っピンクの場合もあるけど……赤みがかった金髪で、光に当たるとピンク色に見えるって感じなのよね。侯爵家で手入れされたおかげで、天使の輪が出来るくらいサラサラツヤツヤになったわ)

 幼女と言うのもあるが、この世界でも珍しく美しい髪なので、下ろして白いレースのリボンをつけている。自分で言うのも何だが流石、ヒロイン。フランス人形のような可愛らしさだ。

(見た目だけだと、他の令嬢にも負けてない……と思うけど)

 ……今日のパーティーには、母は参加しない。いや、出来ないと言うべきだろうか。
 母としては、貴族相手だと緊張を通り越して委縮するのでむしろ臨むところのようだ。思えばゲーム内でも母の影は薄かったが、平民だからと考えると納得出来る。

(ゲームだと、わたしも令嬢教育してなかったから多分、学園に入学するまでは屋敷でひっそり過ごしてたんだろうなぁ)

 そう考えると緊張こそするが、努力が報われた気がして嬉しい。
 こっそり拳を握り、わたしは父に連れられて馬車に乗り、初王宮へと向かうのだった。



(うわ~、きらびやか~、眩い~)

 王宮に到着した途端、わたしは脳内で叫びまくっていた。
 イザベル様に会った時も、ゲームの世界に転生したと興奮したが――この王宮は、それこそユリウス様を攻略した後のスチルで見たことがあって感激もひとしおである。
 とは言え、声に出してはしゃいでしまうといくら可愛くても失笑されたり白い目で見られてしまう。それだけでも辛いが、婚約者候補から外されてしまっては大変だ。それ故、わたしは必死に平静を保ちつつ、心の中では感激しまくっていた。

「よく来たな、ジェームス」

 そんな中、国王様への挨拶の順番が回ってきて、父とわたしに声がかけられた。順番としては、身分の高い方が話しかけることで、初めて低い方が答える形で話せるようになる。
 同じ年のユリウスの親なので父と同じ二十代後半であり、父とタイプは違うがやはりイケメンだ。そして両隣には王妃様と、ユリウス様が座っている。

「はっ……新しい年も、陛下達にご多幸ありますよう」
「うむ」
「まあ、可愛らしいこと。その娘のお名前は?」
「エマと申します」
「エマです。よろしくお願いします」

 王妃様がわたしにも声をかけてくれたので、父が紹介してくれた後にわたしも名乗って返事をした。すると、今まで黙っていたユリウス様が口を開いた。

「人形みたいだな」

 ……澄んだボーイソプラノ。先程、遠目で見た時は柔らかそうな金髪と青い瞳の、天使のように可愛らしい美少年、いや、美幼児だった。推しキャラにこんなに早く会えたのは、令嬢教育のご褒美だと先程まで感謝するばかりだった。
 だけど、その口から零れたのはつまらなそうな言葉で。会うのは初めてだがゲーム内ではこんな風に言われたことはなく、逆にいつも笑顔で接してくれていたのであまりの落差に胸が苦しくなった。
 思えばゲームでは、平民の無邪気さがユリウス様達に新鮮に映ったと思われるが――令嬢教育を受けた今、少なくとも周りの目があるうちはあんな風には振る舞えない。

(そうすると、他の貴族令嬢と同じだから……だからイザベル様も、ゲームではあんな風にそっけなくされてたの?)

 だが理由に思い至っても、開き直って無邪気に行動することは出来ない。なまじ令嬢教育を受けたからこそ、そんなことをしたら悪目立ちすると解るからだ。

「ええ、本当に。人形のように可愛いわ」
「……ありがとう、ございます」

 王妃様がフォローしてくれたのに、わたしは何とか涙を堪えながらもそれだけ答えた。
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