20 / 107
第一章
思わぬ聖女被害
しおりを挟む
おまじないのおかげで、今朝も無事起きられた。そして先程、ビアンカ様の水魔法やアントワーヌ様の風魔法を見て元気が出た。
……と、言うことにしておこう。そう私は、自分の中で結論付けた。
(教会って、つまりは本社ってことよね? 本社の施策になっちゃうと、平社員には逆らえないわよね)
マスコットガールと言うと何だか軽い気もするが、貴族の美幼女とくれば広告塔に抜擢したくなるかもしれない。
やれやれと思いつつも、私は家畜小屋に移動した。そして、いつものように影を使って持ち上げて貰いながら、藁をかくフォークを持って家畜小屋の清掃を始めた。
「君が『聖女』か?」
「……っ」
すると、背後から聞き慣れない声がした。
咄嗟に息を呑んでから、自分がそんな反応をしたことに少し戸惑う。
(えっ、何で?)
振り返ってみると、そこに立っていたのは十五、六歳くらいの――格好は男性だが、女の子にしか見えないくらい綺麗な子だった。とは言え、真っ直ぐな髪は肩くらいで切り揃えられていて。女性が髪を短くするのは修道女だけなので、男の子だと思う。
月光のような銀髪と、すみれ色の瞳。宝石のように綺麗なその瞳は、けれど鋭く私を睨みつけていた。
(え、何で私、睨まれてるの?)
(……カナさん、この人、こわい)
戸惑う私に、現世の私の声が重なる。
瞬間、私は悟った。私自身が人見知りと言うのもあるが、今、目の前の相手を怖がって反応しているのは現世の私だ。
そして現世の私は、日本で平和に生きていて新しい環境や知らない相手に対する緊張から、人見知りになった私とは違う。
年こそ幼いが、悪意や敵意を向けられながら育っている。そして前世の私にとっては子供、しかも美少年だけど現世の私からすると年上で、睨みつけてくる怖い相手なんだ。
(だったら……私が、現世の私を守らないと)
そう、母親亡き後、愛人母娘を連れてきた父親から守ったように。
固く心に誓いながら、私は影に地面へと降ろして貰い、目の前の少年にカーテシーをした。
「……そう、呼ばれてはおりますが。私は、ただのイザベルです」
そして頭を下げたまま、正直に答えると――頭の上から、ぽつりと呟きが落ちてきた。
「ズルい」
「……?」
「あと二年すれば、私が『聖者』と呼ばれる筈だったのに……何故、君は子供なのに、私の居場所を奪うんだ?」
「えっ……」
「しかも、私は光属性なのに……君は、闇魔法のくせに大きな顔をしてっ。ズルい……君は、ズルい!」
「っ!?」
この小顔に、そんな失礼なことを言うなんて何事だ。ちょっと綺麗な顔をしているからって、生意気を言うな。
そう言いたかったが、実際は相手が泣きそうな表情で責め立ててくるのに、私――と言うか、現世の私がすっかり呑まれて口を噤んでしまった。いや、脳内では同じく泣きそうな声がするのだが。
(カナさん、私、この人の居場所を……)
(落ち着いて、イザベル!)
(でも……私にはカナさんがいるけど、この人には)
生まれ育った家で、居場所がなかった現世の私だからこそ、少年の言葉に心が抉られてしまっている。
前世の私としては、知らない少年より現世の私の方が大事だが――大事だからこそ、下手に少年に言い返すと現世の私も傷つけそうで反論出来ない。
それに父親の時も解らないままだったが以前と違い、万が一間違えた時に今度は修道院からは離れられない。
(どうしよう、どうしよう……どうしよう!)
すっかり途方に暮れた私を助けてくれたのは低い、けれど聞き慣れた声だった。
「アルス、お前は……久々に戻ってきたと思ってきたら、何を馬鹿やってるんだ?」
「……ラウル」
「馬鹿を馬鹿と言って、何が悪い」
そう言うと、少年――アルスさんに名前を呼ばれたラウルさんは、キッパリと言い切った。
……と、言うことにしておこう。そう私は、自分の中で結論付けた。
(教会って、つまりは本社ってことよね? 本社の施策になっちゃうと、平社員には逆らえないわよね)
マスコットガールと言うと何だか軽い気もするが、貴族の美幼女とくれば広告塔に抜擢したくなるかもしれない。
やれやれと思いつつも、私は家畜小屋に移動した。そして、いつものように影を使って持ち上げて貰いながら、藁をかくフォークを持って家畜小屋の清掃を始めた。
「君が『聖女』か?」
「……っ」
すると、背後から聞き慣れない声がした。
咄嗟に息を呑んでから、自分がそんな反応をしたことに少し戸惑う。
(えっ、何で?)
振り返ってみると、そこに立っていたのは十五、六歳くらいの――格好は男性だが、女の子にしか見えないくらい綺麗な子だった。とは言え、真っ直ぐな髪は肩くらいで切り揃えられていて。女性が髪を短くするのは修道女だけなので、男の子だと思う。
月光のような銀髪と、すみれ色の瞳。宝石のように綺麗なその瞳は、けれど鋭く私を睨みつけていた。
(え、何で私、睨まれてるの?)
(……カナさん、この人、こわい)
戸惑う私に、現世の私の声が重なる。
瞬間、私は悟った。私自身が人見知りと言うのもあるが、今、目の前の相手を怖がって反応しているのは現世の私だ。
そして現世の私は、日本で平和に生きていて新しい環境や知らない相手に対する緊張から、人見知りになった私とは違う。
年こそ幼いが、悪意や敵意を向けられながら育っている。そして前世の私にとっては子供、しかも美少年だけど現世の私からすると年上で、睨みつけてくる怖い相手なんだ。
(だったら……私が、現世の私を守らないと)
そう、母親亡き後、愛人母娘を連れてきた父親から守ったように。
固く心に誓いながら、私は影に地面へと降ろして貰い、目の前の少年にカーテシーをした。
「……そう、呼ばれてはおりますが。私は、ただのイザベルです」
そして頭を下げたまま、正直に答えると――頭の上から、ぽつりと呟きが落ちてきた。
「ズルい」
「……?」
「あと二年すれば、私が『聖者』と呼ばれる筈だったのに……何故、君は子供なのに、私の居場所を奪うんだ?」
「えっ……」
「しかも、私は光属性なのに……君は、闇魔法のくせに大きな顔をしてっ。ズルい……君は、ズルい!」
「っ!?」
この小顔に、そんな失礼なことを言うなんて何事だ。ちょっと綺麗な顔をしているからって、生意気を言うな。
そう言いたかったが、実際は相手が泣きそうな表情で責め立ててくるのに、私――と言うか、現世の私がすっかり呑まれて口を噤んでしまった。いや、脳内では同じく泣きそうな声がするのだが。
(カナさん、私、この人の居場所を……)
(落ち着いて、イザベル!)
(でも……私にはカナさんがいるけど、この人には)
生まれ育った家で、居場所がなかった現世の私だからこそ、少年の言葉に心が抉られてしまっている。
前世の私としては、知らない少年より現世の私の方が大事だが――大事だからこそ、下手に少年に言い返すと現世の私も傷つけそうで反論出来ない。
それに父親の時も解らないままだったが以前と違い、万が一間違えた時に今度は修道院からは離れられない。
(どうしよう、どうしよう……どうしよう!)
すっかり途方に暮れた私を助けてくれたのは低い、けれど聞き慣れた声だった。
「アルス、お前は……久々に戻ってきたと思ってきたら、何を馬鹿やってるんだ?」
「……ラウル」
「馬鹿を馬鹿と言って、何が悪い」
そう言うと、少年――アルスさんに名前を呼ばれたラウルさんは、キッパリと言い切った。
0
お気に入りに追加
967
あなたにおすすめの小説
転生悪役令嬢は婚約破棄で逆ハーに?!
アイリス
恋愛
公爵令嬢ブリジットは、ある日突然王太子に婚約破棄を言い渡された。
その瞬間、ここが前世でプレイした乙女ゲームの世界で、自分が火あぶりになる運命の悪役令嬢だと気付く。
絶対火あぶりは回避します!
そのためには地味に田舎に引きこもって……って、どうして攻略対象が次々に求婚しに来るの?!
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる