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第一章

同室の方々と引き合わされました【後】

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主人公視点/アントワーヌ・ビアンカ視点

「亡き母への祈りが、ここでしか捧げられないので」
「……家では駄目だということかい? 何故?」
「父は再婚したので、それが出来るのは私だけだと思いました……ただ、家では新しい家族が気を使うと思いまして」
「しっかりしてるわねぇ……でも、修道院生活って楽じゃないわよ?」
「確かに、まだ子供なので出来ることは限られますが……早く覚えて、お二人に一日でも早くご迷惑をかけなくて済むよう頑張ります。よろしくお願いします」

 そう言って、私はペコリと頭を下げた。
 何だか就職時の新人挨拶のようだと思ったが――ある意味、間違ってはいない。修道院は、私にとって新しい職場なのだ。

(虐げられ系の小説だと、衣食住最低の状態で酷使されたりするものね……それに比べたら! ここは屋根も部屋も、それにちゃんと服もある! むしろ私服で、いちいち着替える方が面倒だしねっ)

 内心で拳を握って力説していると、下げた頭がべールの上から撫でられた。
 驚いて顔を上げるとアントワーヌ様が撫でる手同様、優しい眼差しで私を見ていた。腕組みをし、豊かな胸を反らしているビアンカ様も、こちらを見る目は呆れてこそいるが温かい。

「面白い子だね、君は」
「若さとか令嬢らしさは全くないけど、変に泣いたり拗ねたりされるよりはいっか……あ、一日の流れとか聞いた?」
「いえ、働かざるもの食うべからずとしか」
「院長らしいな」
「ですね……教えてあげる。その後、持ってきた荷物片付けるわよ」
「ありがとうございます」

 頑張って話したので、疲れはしたが後は何とかなるだろう。
 そう結論付けると、私はペコリと頭を下げてビアンカ様から、修道院でのスケジュールを教えて貰った。
 ……そして夕食を取り、部屋で夜の祈りを捧げた後、朝五時に起きられるようにと私は枕を五回叩いた。
 朝五時に起きる為の、前世からのおまじないである。



「再婚相手はともかく、父親なら亡き妻を偲ぶこともあるだろう……本来ならば。だが、彼女は自分だけだと言った。セルダ家の『お花畑どの』について、噂は耳にしていたが」
「『真実の愛』とか言って盛り上がってる人もいましたけど、単なるクズですよねぇ……それで子供が人生棒に振るのは、あんまりだと思うんですけど」

 夕食時、他の面々に紹介する為に呼ばれたイザベルを見送った後、アントワーヌとビアンカは周りに聞こえないくらいの小声で話を交わした。
 イザベルに話した「外の話に疎くなる」は、事実である。
 だが、それは『今現在』の話だ。しかもイザベルの父の場合、それこそ彼女が生まれた頃から家を出て愛人宅に入り浸っていたので、二年くらい前にそれぞれ修道院に入ったアントワーヌ達も知っているのである。
 そして一旦、二人は黙って――健気に頭を下げる幼女を見ながら、言葉を続けた。

「貴族社会が絶対とは思わないが、選択肢は多い方が良い……そう、思わないかい?」
「思いますよぉ……幸い、学問などはアントワーヌ様が。令嬢の嗜みは、花嫁修業で叩き込まれた私が教えられますよねぇ……まあ、あの子が望めばですけどぉ」

 クズ(と思われる父親)のせいで、修道院で俯いて過ごすなんて馬鹿馬鹿しい。
 最低限でも令嬢教育を受けていれば、あれだけの美しさだ。好機があれば、色んな道を選べるだろう。
 ……二人のそんな善意の申し出は、前世の私加奈の「確かに、スキルは多い方が良い」という考えにより、受け入れられることになる。
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