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第一章

新たな事実

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 領地はあるが、現世父やイザベルは王都の貴族街に住んでいた。もっとも生まれてからずっと屋敷にこもっていたので、実際に家の外に出るのは初めてだ。
 前世の目で見るとレトロと言うか、観光地な感じの街並みを、ラウルさんは歩いていく。
 どうやら、貴族街ここでは移動手段が馬車らしく、店らしき建物の前に馬車が止まっていたり、走っていたりはするけれど通行人はほとんどいなかった。
 
「貴族の場合、徒歩だと誘拐の心配がある……だから私が、迎えに来た」
「ありがとうございます」
 
 なかなかに物騒な理由を聞いて、私はラウルさんにお礼を言った。

(だから、現世父も馬車で出かけたのね……って、いやいやいや。だから、現世の私イザベルの身の安全は?)

 流石に故意ではないと思いたいが、改めて現世父は馬鹿なんだなと思う。流石にドレスは着ていないけど、今日来ている紺のワンピースの生地は上等だ。春で陽射しも強くなってきたからと、上着を着てこなかったのが仇となった。
 そんな私が、長身の強面男性に抱っこされている。
 声はかけられないが、視線は感じる。こっそり周りに目をやると、馬車で通り過ぎる人や店からの人の目がラウルさんの見た目にもだけど、腰の剣にも向けられていると気がついた。
 
(……やっぱり、何か意味があるの、よね?)
 
 とは言え、聞いていいかどうか解らなかったので聞くに聞けず。
 家を出てから三十分くらい経ったところで、ラウルさんに運ばれた私はタリタ修道院に到着した。視線を巡らせると歩いている人が見え、建物も今までより簡素な感じがするので平民が住む場所に近いんだと思う。
 門の向こうには、畑らしきものや木々。そしてその向こうに、石造りの建物があった。
 ラウルさんによると、ここでは男女合わせて三十人くらいの修道士・修道女と、財産を寄付する代わりに修道院で暮らす献身者が数人いるらしい。
 
「……献身者は祈りの場や労働には参加するが、自らの意思で修道院を去ることが出来る。元々、修道士も数年間祈りや労働を捧げた後、正式な修道士・修道女になるが献身者も同様だ」
 
 来たばかりなのに出て行く話かと思ったが、今までのことを考えるとラウルさんは親切で私に教えてくれたんだろう。
 確かに貴族の令嬢であり、父が寄付をしてくれた(らしい)イザベルは献身者に当てはまる。そして実際、行儀見習い(という名の厄介払い)で預けられる貴族令嬢は、このシステムを使って実家に戻るんだと思う。

(なるほどね……だとすると、献身者のままでいればイザベルに好きな人が出来た時、出ていくことも可能って訳か)
(……カナさんは、ここにいるでしょう?)
(ありがとう。ただ、この場合は恋人とか、旦那様って意味ね)
 
 現世の私イザベルの無邪気な発言にほっこりするが、大切なことなので伝えておく。精神的には寄り添う気満々だが、物理的(主に金銭面)には難しい。まあ、間違っても実家に戻すつもりはないし、お付き合いだけが幸福ではないので無理に恋愛させるつもりはないが、選択肢は多い方が良い。
 そんな私の想いが伝わったのか、イザベルは安心したように微笑んで消えた。
 実際、いなくなる訳でもないが、前世の私加奈の意識がメインになる。すると、建物の中に入って回廊を通り過ぎたラウルさんが足を止めた。
 
「……神兵は修道士であり、修道院を守る衛兵でもある。腰の剣が、その証だ」
「そうなんですね」
「だから、君のことも守ろう」
「ありがとうございます」
 
 聞きたかったことを教えてくれた上、嬉しいことまで言ってくれたラウルさんに、床に降ろして貰ったところでお礼を言う。
 そんな私に律儀に会釈をすると、ラウルさんはドアをノックした。
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