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第一章

私と私

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 父親の関心を引く為、あえて母娘を拒絶しようとした現世の私イザベルの前に立った。

「……あ、これ、ネット小説で読んだやつ?」 
「どうして……何で、邪魔したの?」

 そして、前世の私(気合いの関係か最期のパジャマ姿じゃなく、出勤時のアンサンブルと黒のスキニーだった)が呟くと、いつの間にか後ろにいた現世の私イザベルがそう言って泣き出した。
 うん、泣き顔も綺麗とか完璧。ただ、今まで引っ込んでたのに文句言われてもねぇ?

(……あー、でもこんな小さな子供なら、仕方ないかな? でも、やらかそうとした理由は解ったけど、だからって私まで嫌われたくないし)

 今、私がいるのはさっきまでの部屋じゃない。全体的に白くてぼんやりだし、何より前世と現世の私が二人同時に存在しているからね。おそらく、精神世界みたいなものなんだろう。
 そして前世の私に、今までのイザベルの記憶が追加更新された。
 だからさっきの回想は、前世の私が咀嚼し、理解する為の処理だ。実際は、いくら賢くても幼女だから、周囲から愛されない理由が解らず。解らないながらも、自分が悪いのだと思い込んでいた。
 ……でも、絶望の末にわざと父親に嫌われて、関心を引こうとしたのを私が邪魔した訳で。

「出ていったら、お父さまはすぐ私のことを忘れてしまう……いえ、私だけじゃなくお母さまのことまで……」
「……本当に、そう思う?」
「…………」

 泣きながら文句を言う現世の私イザベルに、私は尋ねた。途端に黙ったところを見ると、幼いながらに理解しているらしい――亡くなった途端に黙って妻子を連れてくる辺り、現世母にも現世の私イザベルにも興味関心はないと思われる。そんな薄情な相手に、わざと憎まれ口を叩いて嫌われるなんて冗談じゃない。むしろ、はっきりきっぱり縁を切りたい。

「それに私、自分が悪くないのに勝手に嫌われるのは嫌……せっかく生まれ変わったのに」
「……あなた、私?」
「うん。賢いね」

 今の状況や、記憶を共有している辺りで現世の私イザベルは、生まれ変わり云々も理解したらしい。思わず頭を撫でようとすると、後退られて逃げられた。そして、大きな琥珀色の瞳で睨まれる。

「……だから、勝手に出ていくなんて言ったの?」
「うん、そう。あと、あなたも一緒に連れていくから」
「嫌よ……どこにも行きたくない。どこに行っても、私を好きになる人なんていないわ……」

 距離を置き拳を握って、現世の私イザベルはそう訴える。
 そんな彼女に、しばし考えていると――精神世界だからなのか、今度は私の前世を現世の私イザベルにも見られるようになった。
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