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接近するふたり、初めて知る想い
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ブランシェが国へと戻り、季節は夏。陽射しは強いが前世の日本のような湿気はないし、吹き抜ける風も心地好いので過ごしやすい。
そんなある日、夕食を終えて部屋に戻る時、アーロンがエレーヌにある提案をしてきた。
「……旅芸人、ですか?」
「ああ、今、王城の城下街に来て芝居を披露しているんだ。明日は私も休みだから、一緒に観に行かないか?」
「是非!」
エレーヌは目を輝かせて、即答した。そんな妻の様子に、アーロンもつられて頬を緩め、目を細めた。普段の彼の無表情しか知らない者が見たら驚くだろうが、幸か不幸かこの場にはエレーヌと、彼女の侍女しかいない。
「そんなに喜んでくれるとはな」
「嬉しいですもの。話には聞いたことがありますが、観るのは初めてです」
「私もそうだな」
嘘ではない。前世ではたくさん観たことがあるが、今生で医術の勉強ばかりしていたエレーヌは、芝居見物をしたことがない。
そして、確かに騎士として働き、王城と家を往復するばかりのアーロンと、芝居見物は結びつかない。しかし同時にそれは、初見の相手を芝居沼に落とす、絶好のチャンスである。
「エ……若奥様、顔顔」
二人に、と言うかエレーヌに付き従っている侍女・シルリーがこっそりたしなめてくる。慌てて表情を引き締めて、エレーヌは笑顔でアーロンと別れ、自分の部屋へと戻った。
※
話は、今日の昼までさかのぼる。
騎士であるアーロンは日々、王城にある騎士団へと通い、自己鍛錬をしたり、部下と稽古をしたり。あと普段、自分の領地で暮らしている貴族たちからの報告書(怪しい者の出入りがないか、獣などが入り込んでないかなど)に目を通したりしている。
そんな中、仕事の合間を見てアーロンは上司である騎士団長に、女性とどんなところに出かければ良いか聞いてみた。愛妻家で子煩悩な彼なら、間違いない場所を知っているだろう。
そうしたら城下街に、旅芸人の一座が来ていると教えてもらった。
「年に数回、来てるだろう?」
「……聞いたことがある気はしますが」
「お前みたいな朴念仁なら、そうだろうな。結構、見応えがあるし、終わった後も話は弾むからお前には向いてると思うが……ただ役者は大抵、色男だから。そっちに見惚れちまうこともあるから、気をつけろなー」
「え」
「まあ、アーロンも顔『だけ』は良いから大丈夫だろ?」
「……面白がらないで下さい」
笑って言われた内容に、アーロンの声がつい低くなったが──まさか次の日、そんな団長の軽口と憎らしい笑顔が、何度も何度も脳裏に浮かぶことになるとは思わなかった。
そんなある日、夕食を終えて部屋に戻る時、アーロンがエレーヌにある提案をしてきた。
「……旅芸人、ですか?」
「ああ、今、王城の城下街に来て芝居を披露しているんだ。明日は私も休みだから、一緒に観に行かないか?」
「是非!」
エレーヌは目を輝かせて、即答した。そんな妻の様子に、アーロンもつられて頬を緩め、目を細めた。普段の彼の無表情しか知らない者が見たら驚くだろうが、幸か不幸かこの場にはエレーヌと、彼女の侍女しかいない。
「そんなに喜んでくれるとはな」
「嬉しいですもの。話には聞いたことがありますが、観るのは初めてです」
「私もそうだな」
嘘ではない。前世ではたくさん観たことがあるが、今生で医術の勉強ばかりしていたエレーヌは、芝居見物をしたことがない。
そして、確かに騎士として働き、王城と家を往復するばかりのアーロンと、芝居見物は結びつかない。しかし同時にそれは、初見の相手を芝居沼に落とす、絶好のチャンスである。
「エ……若奥様、顔顔」
二人に、と言うかエレーヌに付き従っている侍女・シルリーがこっそりたしなめてくる。慌てて表情を引き締めて、エレーヌは笑顔でアーロンと別れ、自分の部屋へと戻った。
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話は、今日の昼までさかのぼる。
騎士であるアーロンは日々、王城にある騎士団へと通い、自己鍛錬をしたり、部下と稽古をしたり。あと普段、自分の領地で暮らしている貴族たちからの報告書(怪しい者の出入りがないか、獣などが入り込んでないかなど)に目を通したりしている。
そんな中、仕事の合間を見てアーロンは上司である騎士団長に、女性とどんなところに出かければ良いか聞いてみた。愛妻家で子煩悩な彼なら、間違いない場所を知っているだろう。
そうしたら城下街に、旅芸人の一座が来ていると教えてもらった。
「年に数回、来てるだろう?」
「……聞いたことがある気はしますが」
「お前みたいな朴念仁なら、そうだろうな。結構、見応えがあるし、終わった後も話は弾むからお前には向いてると思うが……ただ役者は大抵、色男だから。そっちに見惚れちまうこともあるから、気をつけろなー」
「え」
「まあ、アーロンも顔『だけ』は良いから大丈夫だろ?」
「……面白がらないで下さい」
笑って言われた内容に、アーロンの声がつい低くなったが──まさか次の日、そんな団長の軽口と憎らしい笑顔が、何度も何度も脳裏に浮かぶことになるとは思わなかった。
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