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アスセーナ視点
※
かつて勇者は魔王と戦う時、そしてその後皇女と結ばれて即位した時に魔法具を使って、その姿と声を帝国全土に届けた。
魔王を倒した後は、皇帝の即位や崩御の時に使われている。遠方にも伝えることが出来る魔法具は、辺境の町村であっても設置されている。
とは言え、膨大な魔力を使う為にその魔法具を使える者は限られている。
……皇族と皇帝に仕える魔法使い(長でなければ数人、必要になる)そして有事には兵としても戦う冒険者の『帝』だ。
「僕は『全帝』であり、勇者として魔王を討つ者です」
「っ!?」
上空に現れた姿と、響く声。黒と見紛う深紅のローブと、その下の貫頭衣は顔を隠すフードも含めて『帝』を示すものだ。
昨日、アルバを逃したアスセーナだったが性急だったかと反省し、日を改めて説得するつもりだった。
(いきなりで驚いたのでしょう。世界の為、そして遊星の為なら彼は勇者となることを選んでくれる筈です)
そう思っていた彼女は翌日の昼、アルバが『全帝』として魔法具を使って勇者を名乗った時には驚きつつも喜んだ。思っていた通り、彼がアスセーナからの申し出を受け入れてくれたのだと思ったからである。
だが、しかし。
「僕は、勇者の生まれ変わりとして異世界人ではないですが、勇者の証である全属性を持っています……創造神はそんな僕を見極める為、そして今後は異世界から勇者を召還しなくても良いように、異世界からも勇者を連れてきてくれました」
「なっ!?」
そう言って、全帝の――アルバの背後から、同様に深紅のローブと貫頭衣を纏った人物が現れる。
秘密裏に話を進めていたことを逆手に取られ、遊星の存在について公表されたことにアスセーナは思わず声を上げた。
(まさか……気づいたの? 何故?)
アルバには『勘違い』するように話したが本来、生まれ変わり自体に皇族との婚姻は必要ない。稀に異世界への転生はあるが、基本は同じ世界で生まれ変わる。ただそれだと最悪、他国に生まれる可能性もある。それ故、皇族との婚姻は転生した勇者を見つけやすくする為『だけ』の手段でしかない。
(……勇者様がそう、望んでくれたから)
そこまで考えて、アスセーナはいつしか震えていた手を、もう一方の手で押さえ込んだ。
その視線の先にいるアルバは、ガブリエルから教えて貰って知ったのだが――当然、そのことをアスセーナが知る筈は無く。
「殿下!?」
侍女の声を振り切って部屋を出ると、アスセーナはドレスの裾を捌きながら父である皇帝の元へと駆け出した。
そんな中、アルバの――全帝の話は、続く。
「僕達はこれから、魔王の元へと向かいます。二人なので、確実に魔王は『無力化』するでしょう。そしてもしまた今後、魔王が復活しても僕と今回来てくれた勇者の生まれ変わりがいます。同じく全属性である彼と二人で、復活した魔王が『世界を滅ぼさない』為に動きます……これは勇者だからではなく僕達がこの世界を、そしてそこで暮らす人達を守りたいからです」
役割や務めではなく、ただ守りたいという気持ちから動くのだと。
皇族として動いていたアスセーナ、そして彼女の父とは真逆の言葉に走っていた足が止まる。
(勇者様が、魔王と戦う時に伝えた言葉と同じ)
勇者の物語ではただ『魔王と戦うと告げた』とだけしか伝わっていない。
しかし恋情もあったとは言え、己が生まれ育った世界を捨ててティエーラに残ってくれた勇者に対して、皇族は恩と同時に申し訳なさを感じている。それ故、勇者の遺した言葉を感謝しつつも縋るように次代へと伝えてきたのだ。いずれ、生まれ落ちてくる勇者に教える為に。
(皇族として育たなくても、勇者様の魂は引き継がれていくんですわ……きっと、これからもずっと)
皇族としての知識がなくても勇者であるのなら、皇女であるアスセーナとの婚姻は全く必要ではなくなる。
全帝が現れた時、父と彼女はその正体を探り、ギルドマスターの養い子であるアルバの存在に気づいた父は、その美しい金髪や面差しからかつて己を慰めた侍女を懐かしんだ。
そしてアスセーナは父親と同じ色の、けれど静かに他人を拒む眼差しに惹かれた――それは彼が異母弟、つまりは勇者だからこそだと思っていたのだが。
「ずるいです……振られて、しまいました」
それぞれローブを翻し、二人が姿を消すのを見送りながらアスセーナは呟いた。
……もっとも、役割だからと理由をつけて縛りつけようとした自分もずるかったのだと。
そう結論付けて再び、父に会う為に走り出したアスセーナは、目を潤ませながらも吹っ切れたような笑みが浮かんでいた。
※
かつて勇者は魔王と戦う時、そしてその後皇女と結ばれて即位した時に魔法具を使って、その姿と声を帝国全土に届けた。
魔王を倒した後は、皇帝の即位や崩御の時に使われている。遠方にも伝えることが出来る魔法具は、辺境の町村であっても設置されている。
とは言え、膨大な魔力を使う為にその魔法具を使える者は限られている。
……皇族と皇帝に仕える魔法使い(長でなければ数人、必要になる)そして有事には兵としても戦う冒険者の『帝』だ。
「僕は『全帝』であり、勇者として魔王を討つ者です」
「っ!?」
上空に現れた姿と、響く声。黒と見紛う深紅のローブと、その下の貫頭衣は顔を隠すフードも含めて『帝』を示すものだ。
昨日、アルバを逃したアスセーナだったが性急だったかと反省し、日を改めて説得するつもりだった。
(いきなりで驚いたのでしょう。世界の為、そして遊星の為なら彼は勇者となることを選んでくれる筈です)
そう思っていた彼女は翌日の昼、アルバが『全帝』として魔法具を使って勇者を名乗った時には驚きつつも喜んだ。思っていた通り、彼がアスセーナからの申し出を受け入れてくれたのだと思ったからである。
だが、しかし。
「僕は、勇者の生まれ変わりとして異世界人ではないですが、勇者の証である全属性を持っています……創造神はそんな僕を見極める為、そして今後は異世界から勇者を召還しなくても良いように、異世界からも勇者を連れてきてくれました」
「なっ!?」
そう言って、全帝の――アルバの背後から、同様に深紅のローブと貫頭衣を纏った人物が現れる。
秘密裏に話を進めていたことを逆手に取られ、遊星の存在について公表されたことにアスセーナは思わず声を上げた。
(まさか……気づいたの? 何故?)
アルバには『勘違い』するように話したが本来、生まれ変わり自体に皇族との婚姻は必要ない。稀に異世界への転生はあるが、基本は同じ世界で生まれ変わる。ただそれだと最悪、他国に生まれる可能性もある。それ故、皇族との婚姻は転生した勇者を見つけやすくする為『だけ』の手段でしかない。
(……勇者様がそう、望んでくれたから)
そこまで考えて、アスセーナはいつしか震えていた手を、もう一方の手で押さえ込んだ。
その視線の先にいるアルバは、ガブリエルから教えて貰って知ったのだが――当然、そのことをアスセーナが知る筈は無く。
「殿下!?」
侍女の声を振り切って部屋を出ると、アスセーナはドレスの裾を捌きながら父である皇帝の元へと駆け出した。
そんな中、アルバの――全帝の話は、続く。
「僕達はこれから、魔王の元へと向かいます。二人なので、確実に魔王は『無力化』するでしょう。そしてもしまた今後、魔王が復活しても僕と今回来てくれた勇者の生まれ変わりがいます。同じく全属性である彼と二人で、復活した魔王が『世界を滅ぼさない』為に動きます……これは勇者だからではなく僕達がこの世界を、そしてそこで暮らす人達を守りたいからです」
役割や務めではなく、ただ守りたいという気持ちから動くのだと。
皇族として動いていたアスセーナ、そして彼女の父とは真逆の言葉に走っていた足が止まる。
(勇者様が、魔王と戦う時に伝えた言葉と同じ)
勇者の物語ではただ『魔王と戦うと告げた』とだけしか伝わっていない。
しかし恋情もあったとは言え、己が生まれ育った世界を捨ててティエーラに残ってくれた勇者に対して、皇族は恩と同時に申し訳なさを感じている。それ故、勇者の遺した言葉を感謝しつつも縋るように次代へと伝えてきたのだ。いずれ、生まれ落ちてくる勇者に教える為に。
(皇族として育たなくても、勇者様の魂は引き継がれていくんですわ……きっと、これからもずっと)
皇族としての知識がなくても勇者であるのなら、皇女であるアスセーナとの婚姻は全く必要ではなくなる。
全帝が現れた時、父と彼女はその正体を探り、ギルドマスターの養い子であるアルバの存在に気づいた父は、その美しい金髪や面差しからかつて己を慰めた侍女を懐かしんだ。
そしてアスセーナは父親と同じ色の、けれど静かに他人を拒む眼差しに惹かれた――それは彼が異母弟、つまりは勇者だからこそだと思っていたのだが。
「ずるいです……振られて、しまいました」
それぞれローブを翻し、二人が姿を消すのを見送りながらアスセーナは呟いた。
……もっとも、役割だからと理由をつけて縛りつけようとした自分もずるかったのだと。
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