33 / 43
自責
しおりを挟む
遊星視点
※
「はぁ……」
寮の部屋に一人、戻った遊星はベッドに寝転がってため息をついた。
……そう、一人だ。同室であるアルバは、エンシェントドラゴンを倒した『勇者』として皇女と共に皇宮へと向かった。
(こっちを見ようとしなかったけど……あれって、俺のこと庇ってくれたんだよな)
カリィから、遊星もアルバと同等以上の魔力を持っていると聞いている。しかも全属性持ちな上、創造神によりこの異世界に転生している。
魔王が復活したのなら、遊星も転生者として名乗り出るべきかと思ったのだが――アルバがエンシェントドラゴンを倒したことで、そのタイミングを失った。
(俺は力こそあっても、中身が伴ってないから……やっぱり、平和ボケしてるって呆れてんだろうなぁ)
アルバが何かと遊星の力を隠そうとする理由を、いつからか遊星はそう思うようになっていた。
態度が軟化を通り越して土砂崩れを起こしているので、流石に嫌われてはいないと思うが――初めて会った頃、アルバに「恵まれている」と冷ややかに言われたことが今でも忘れられない。
遊星がカリィに野営に連れていって貰ったり、アルバに他の属性の魔法を教えて貰おうとしたのは、少しでもアルバからの評価を挽回したかったからだ。
「何だ、悩み事か?」
「っ!?」
そんな遊星に、不意に声がかけられる。
それは同室であるアルバの声でも、使い魔であるガブリエルやフェルス達の声でもなく――けれど、よく知っているそれに遊星はギョッとして飛び起きた。
「……暁?」
「久しぶり」
そう言って笑いかけてくるのは、久しぶりどころか本来、異世界にいるので会えない筈の親友で。
薄茶の髪と瞳。中三になって間もなく距離を置いたので、ほぼ一年ぶりくらいの再会だが――おそらく高校の制服らしい学生服を着た暁を、遊星は大きく見張った目で凝視した。
「遊星……どうした?」
次いでベッドから手を伸ばして暁の顔や肩、腕をペタペタ触り出した遊星に暁が戸惑った声を上げる。
「ああ、いや、俺も無傷でここに来たから……でも、ここにいるってことはお前も事故とかあったんだろ? 大丈夫か、って……あー」
冷静に考えれば、怪我をしているのに触るのかという話だが――平然と、いやむしろ笑って遊星を見ている暁に色んな意味でホッとした。そしてそんな自分に気づいて、文字通り頭を抱える。
(周りからの非難に負けて、距離を置いて……文句の一つも当然なのに、情けなさ過ぎるだろう自分)
自己嫌悪に陥った遊星の視線の先で、暁が微笑んだまま頬に触れた遊星の手に自分の手を重ねて言う。
「事故にはあってない。召還されたのは、事実だけどな」
「えっ……もしかして、勇者として?」
「いや、魔王としてだ」
「……はっ!?」
さらり、ととんでもないことを言われて理解が出来ず。声を上げて固まった遊星の前で、暁が笑みを深めた。
その微笑みは変わらないが目の色は真紅に、服は学生服からこの世界らしい漆黒の長衣に変わる。
「お前、その目……ってか、魔王コス? 似合うけど、魔法でそんなことも出来るのか?」
「コスプレじゃない。勇者に討たれる魔王として、召還されたんだ……だから遊星に、俺を討つ勇者になって欲しくて頼みに来た」
「なっ……どわっ!?」
「俺の話を聞いてくれ」
急展開についていけない遊星を、物騒なことを言う暁がベッドに押し倒した。そしてそのまま、遊星を見下ろして話し出した。
……この異世界の仕組みと、魔王が担う役割について。
※
「はぁ……」
寮の部屋に一人、戻った遊星はベッドに寝転がってため息をついた。
……そう、一人だ。同室であるアルバは、エンシェントドラゴンを倒した『勇者』として皇女と共に皇宮へと向かった。
(こっちを見ようとしなかったけど……あれって、俺のこと庇ってくれたんだよな)
カリィから、遊星もアルバと同等以上の魔力を持っていると聞いている。しかも全属性持ちな上、創造神によりこの異世界に転生している。
魔王が復活したのなら、遊星も転生者として名乗り出るべきかと思ったのだが――アルバがエンシェントドラゴンを倒したことで、そのタイミングを失った。
(俺は力こそあっても、中身が伴ってないから……やっぱり、平和ボケしてるって呆れてんだろうなぁ)
アルバが何かと遊星の力を隠そうとする理由を、いつからか遊星はそう思うようになっていた。
態度が軟化を通り越して土砂崩れを起こしているので、流石に嫌われてはいないと思うが――初めて会った頃、アルバに「恵まれている」と冷ややかに言われたことが今でも忘れられない。
遊星がカリィに野営に連れていって貰ったり、アルバに他の属性の魔法を教えて貰おうとしたのは、少しでもアルバからの評価を挽回したかったからだ。
「何だ、悩み事か?」
「っ!?」
そんな遊星に、不意に声がかけられる。
それは同室であるアルバの声でも、使い魔であるガブリエルやフェルス達の声でもなく――けれど、よく知っているそれに遊星はギョッとして飛び起きた。
「……暁?」
「久しぶり」
そう言って笑いかけてくるのは、久しぶりどころか本来、異世界にいるので会えない筈の親友で。
薄茶の髪と瞳。中三になって間もなく距離を置いたので、ほぼ一年ぶりくらいの再会だが――おそらく高校の制服らしい学生服を着た暁を、遊星は大きく見張った目で凝視した。
「遊星……どうした?」
次いでベッドから手を伸ばして暁の顔や肩、腕をペタペタ触り出した遊星に暁が戸惑った声を上げる。
「ああ、いや、俺も無傷でここに来たから……でも、ここにいるってことはお前も事故とかあったんだろ? 大丈夫か、って……あー」
冷静に考えれば、怪我をしているのに触るのかという話だが――平然と、いやむしろ笑って遊星を見ている暁に色んな意味でホッとした。そしてそんな自分に気づいて、文字通り頭を抱える。
(周りからの非難に負けて、距離を置いて……文句の一つも当然なのに、情けなさ過ぎるだろう自分)
自己嫌悪に陥った遊星の視線の先で、暁が微笑んだまま頬に触れた遊星の手に自分の手を重ねて言う。
「事故にはあってない。召還されたのは、事実だけどな」
「えっ……もしかして、勇者として?」
「いや、魔王としてだ」
「……はっ!?」
さらり、ととんでもないことを言われて理解が出来ず。声を上げて固まった遊星の前で、暁が笑みを深めた。
その微笑みは変わらないが目の色は真紅に、服は学生服からこの世界らしい漆黒の長衣に変わる。
「お前、その目……ってか、魔王コス? 似合うけど、魔法でそんなことも出来るのか?」
「コスプレじゃない。勇者に討たれる魔王として、召還されたんだ……だから遊星に、俺を討つ勇者になって欲しくて頼みに来た」
「なっ……どわっ!?」
「俺の話を聞いてくれ」
急展開についていけない遊星を、物騒なことを言う暁がベッドに押し倒した。そしてそのまま、遊星を見下ろして話し出した。
……この異世界の仕組みと、魔王が担う役割について。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説


婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

カランコエの咲く所で
mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。
しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。
次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。
それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。
だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。
そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。


田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる