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充溢
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暁視点・2
※
「君には、異世界で魔王として生まれて死んで欲しい」
生まれ育った世界を拒絶した暁は、魔法陣の光に包まれた後、気づけば真っ白い空間にいた。
そこに現れた創世神を見た時は、金髪金目の美青年だった為「遊星から教えて貰ったネット小説みたいだな」と思ったが、言われた内容には首を傾げた。
「何で、わざわざ異世界まで行って?」
「君、地球で死にたかった?」
「……いや」
そして疑問を口にしたが、創世神からの質問返しには否定で答えた。確かに、同じ死ぬとしても自分が拒んだ地球では絶対に嫌だ。
「死ななくちゃいけないのは、自殺みたいなものだから……? 罰とか、そういう?」
「理解が早いね。自殺すると転生出来ない。ただ、自殺した魂全部を魔王にする訳じゃないけれど」
そこで一旦、言葉を切って創世神は微笑みながら言った。
「魔王は、ティエーラの贄なんだ」
「……えっ?」
「魔力が溢れ、誰もが魔力を持つ世界だけど……欲望や負の感情に引きずられてその魔力は淀み、凝り、やがて暴走する。今まではその度に破壊と再生をくり返していたけれど、試しにその魔力を異世界の魔力を持たない人間に渡してみたら、魔王となった人間が死ねば浄化させられるって解ったんだ。君達の世界にある、厄払いの流し雛みたいなものだね」
「はあ……」
「世界を破壊する程の魔力だけで、魔物や魔族は魅了されるけど……どうせなら、見目良く賢い方がいいだろう?」
笑顔でとんでもないことを言う創世神だったが、ふとあることに引っかかった。
「世界を破壊するような魔力を持つ魔王を、そもそも討つことが出来るのか?」
「ああ、それは君同様に地球から『勇者』を召還しているから。対魔王用に、私が全属性と加護を与えまくるから確実に殺れるよ」
更に酷いことを言う創世神だったが、遊星の死に絶望し世界を拒んだ暁としてはそれ程、心を動かされなかった。正直、あの瞬間に心はすでに死んでいる。
(それなら、どこで死んでも同じか)
そう思ったから、暁は魔王になることを受け入れた。そして先代魔王に仕え、創世神の思惑を知っているエンシェントドラゴンが死にに行くのを許した。
そして虚ろな心のまま、暁はエンシェントドラゴンの目を借りて、勇者と思われる人物を見たのだが。
(……えっ?)
瞬間、暁はその赤い瞳を大きく見開いた。
全属性を持つ一人は、金髪の少年だった。地球から召還されると聞いていたので、何となく自分と同じ日本人だと思っていた。外国から来たのかと思ったが、もう一人の全属性持ちを見た途端、その考えは吹き飛んだ。
……黒髪と黒い瞳。そしてその顔を暁はよく知っていた。
「遊星……?」
死んだと思った相手と、異世界で再会出来た。
その喜びに、涙が流れたが――ブレスの防御こそしたが、エンシェントドラゴンを倒したのは遊星ではなく、金髪の少年の方だった。視界のみで、意思は共有されていない。エンシェントドラゴンは、金髪の少年こそが勇者だと思っただろう。
(だけど、異世界から来ているのは遊星だ。たとえ、エンシェントドラゴンを倒せる程の実力があるとしても……あいつ、何者だ?)
創世神は、勇者が複数だとは教えてくれなかった。
いや、そもそも遊星が転生していることも教えてくれなかったし――知らなかったら、あの少年に討たれても良かったのだが。
「……ごめん、遊星」
涙を拭って、暁はそう呟いた。
魔王は、死ななくてはいけない。会えてすぐ、また別れるのは悲しいが遊星が生きていてくれたなら、そしてこの異世界で生き続けてくれるなら自分は喜んで死のう。
「だけど、殺されるならお前がいい」
己を殺す勇者には何の興味もなかったが、相手が遊星なら話は別だ。
創世神に、どこまで聞いているか解らない。あるいはあの金髪の少年がいるので、遊星には何も知らせずにいるかもしれないが――それでは、暁は嫌だった。暁が死ぬことを知って欲しかったし、更には暁に手をかけてその傷を抱えて欲しかった。
(そうすれば俺は死んでも、遊星の中でずっと生きられる)
そう思った暁の顔には、この世界に来てから消えていた――けれど、魔王の名に相応しい妖しい笑みが浮かんでいた。
※
「君には、異世界で魔王として生まれて死んで欲しい」
生まれ育った世界を拒絶した暁は、魔法陣の光に包まれた後、気づけば真っ白い空間にいた。
そこに現れた創世神を見た時は、金髪金目の美青年だった為「遊星から教えて貰ったネット小説みたいだな」と思ったが、言われた内容には首を傾げた。
「何で、わざわざ異世界まで行って?」
「君、地球で死にたかった?」
「……いや」
そして疑問を口にしたが、創世神からの質問返しには否定で答えた。確かに、同じ死ぬとしても自分が拒んだ地球では絶対に嫌だ。
「死ななくちゃいけないのは、自殺みたいなものだから……? 罰とか、そういう?」
「理解が早いね。自殺すると転生出来ない。ただ、自殺した魂全部を魔王にする訳じゃないけれど」
そこで一旦、言葉を切って創世神は微笑みながら言った。
「魔王は、ティエーラの贄なんだ」
「……えっ?」
「魔力が溢れ、誰もが魔力を持つ世界だけど……欲望や負の感情に引きずられてその魔力は淀み、凝り、やがて暴走する。今まではその度に破壊と再生をくり返していたけれど、試しにその魔力を異世界の魔力を持たない人間に渡してみたら、魔王となった人間が死ねば浄化させられるって解ったんだ。君達の世界にある、厄払いの流し雛みたいなものだね」
「はあ……」
「世界を破壊する程の魔力だけで、魔物や魔族は魅了されるけど……どうせなら、見目良く賢い方がいいだろう?」
笑顔でとんでもないことを言う創世神だったが、ふとあることに引っかかった。
「世界を破壊するような魔力を持つ魔王を、そもそも討つことが出来るのか?」
「ああ、それは君同様に地球から『勇者』を召還しているから。対魔王用に、私が全属性と加護を与えまくるから確実に殺れるよ」
更に酷いことを言う創世神だったが、遊星の死に絶望し世界を拒んだ暁としてはそれ程、心を動かされなかった。正直、あの瞬間に心はすでに死んでいる。
(それなら、どこで死んでも同じか)
そう思ったから、暁は魔王になることを受け入れた。そして先代魔王に仕え、創世神の思惑を知っているエンシェントドラゴンが死にに行くのを許した。
そして虚ろな心のまま、暁はエンシェントドラゴンの目を借りて、勇者と思われる人物を見たのだが。
(……えっ?)
瞬間、暁はその赤い瞳を大きく見開いた。
全属性を持つ一人は、金髪の少年だった。地球から召還されると聞いていたので、何となく自分と同じ日本人だと思っていた。外国から来たのかと思ったが、もう一人の全属性持ちを見た途端、その考えは吹き飛んだ。
……黒髪と黒い瞳。そしてその顔を暁はよく知っていた。
「遊星……?」
死んだと思った相手と、異世界で再会出来た。
その喜びに、涙が流れたが――ブレスの防御こそしたが、エンシェントドラゴンを倒したのは遊星ではなく、金髪の少年の方だった。視界のみで、意思は共有されていない。エンシェントドラゴンは、金髪の少年こそが勇者だと思っただろう。
(だけど、異世界から来ているのは遊星だ。たとえ、エンシェントドラゴンを倒せる程の実力があるとしても……あいつ、何者だ?)
創世神は、勇者が複数だとは教えてくれなかった。
いや、そもそも遊星が転生していることも教えてくれなかったし――知らなかったら、あの少年に討たれても良かったのだが。
「……ごめん、遊星」
涙を拭って、暁はそう呟いた。
魔王は、死ななくてはいけない。会えてすぐ、また別れるのは悲しいが遊星が生きていてくれたなら、そしてこの異世界で生き続けてくれるなら自分は喜んで死のう。
「だけど、殺されるならお前がいい」
己を殺す勇者には何の興味もなかったが、相手が遊星なら話は別だ。
創世神に、どこまで聞いているか解らない。あるいはあの金髪の少年がいるので、遊星には何も知らせずにいるかもしれないが――それでは、暁は嫌だった。暁が死ぬことを知って欲しかったし、更には暁に手をかけてその傷を抱えて欲しかった。
(そうすれば俺は死んでも、遊星の中でずっと生きられる)
そう思った暁の顔には、この世界に来てから消えていた――けれど、魔王の名に相応しい妖しい笑みが浮かんでいた。
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